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見つけた

 アナベルさんが食器をさげてしまうと、いよいよ暇になってしまった。


 魔力のコントロールかぁ。

 ふふふ

 何かワクワクする。


 講師をつけるって言ってたけど、どんな人なのかなぁ。

 どんな事するんだろう?

 ファイヤーボールとか使えるようになっちゃったりなんかして。ふふふ。


 あ、そういえば転移の魔法も使った事ないや。

 魔法……でいいんだよね?

 (スキル)とか言ってた気がするけど、何か違うのかな?

 ちょっとやってみる?

 

 ぐるっと室内を見渡す。


 まだ帰って来ないもんね。暗くなる前に戻って来ればいいよね?

 いきなり湖までは遠いから、庭に出てみようかな。ずっと森の中で冒険して過ごしていたから、室内でじっとしてるのは性に合わない。

 そう思いついたら、いてもたってもいられなくなってしまった。


 ちょっとだけ。ちょっとだけね?

 

 転移するには、チカラを放出して身体にまとわりつかせて飛ばす……って言ってた。

 そもそもどうやってチカラを放出するんだ?

 人型になる時は、体の中心にチカラを込める。

 それをえいって出せばいいの?


 ものは試しだ。やってみよう。


 はやる気持ちを抑え集中する。

 目を瞑り体の中心にチカラを込め……うん、熱くなってきた。

 それを慎重に全身にまとわせる。

 ほわっとあったかい。出来てるかな?


 場所は青騎士寮の庭、訓練場のそば。目立たないように、花壇の脇あたりがいいな。よし。


 行け!


 その瞬間、目を瞑っている筈なのに、目の前が真っ白になった感覚に囚われた。

 ジェットコースターで落下している時のような浮遊感を感じる。


 そしてそれがおさまるのを待って、ゆっくりと目を開けた。


 私の眼前に広がっていたのは、色とりどりの花。そこは紛れもなく青騎士寮の庭の花壇。


 成功?

 やった! 出来た! 

 目標より多少ズレて花壇の中に着地したけど、誤差の範囲って事で。

 それに目立たない場所という意味では正解だし。


 今の私は何でも出来るような気がする!

 魔法の訓練、ドンと来い!


 自分に甘い評価をくだし、喜びに浸っていると、今一番会いたくない人に見つかってしまった。


「これはこれは神獣様、このような場所でお一人でいらっしゃるとは何たる偶然」


 ここは青騎士寮の敷地なんだから、偶然もなにも無いでしょうに。

 ジト目を向けても意に介した様子もなく、マルチャン副神官長が花を押し分けて私と視線を合わせた。


「リナレスでは話になりませんからな、直接お会いしに参った次第です」

 

 昨日の事など無かったかのような愛想笑いで話かけられる。昨日、マリウスさんと一緒にいた子供が私だと知らないとは言え、態度の違いがちょっと怖い。

 私はふい、と視線を逸らし明後日の方向を見た。失礼な態度かも知れないけど、みすぼらしい子犬呼ばわりされた恨みは忘れない。

 

「ま、こんな事言った所で理解出来る筈もないか」


 やっぱり感じ悪い。


「さ、こんな場所は神獣様に相応しくありません。私と一緒に行きましょう」


 神殿には行きません。

 くるっと背を向けて歩き出そうとしたけど、花壇の植木が視界を塞ぐ。

 後ろでマルチャン副神官長が、なにやらゴソゴソしてる。


「お土産があるのですよ」


 そう言って私の視界に割り込むように差し出してきたのは、な ま に く 一 欠 片。

 

 ……ええと、餌付けのつもりなのかな?


 確かに、私が普通の狼、あるいは犬だったとしたら大喜びしたでしょう。でもね、私は人間に近い食嗜好なんです。レバ刺しとか馬刺しとか好きでしたけどね。それは信頼出来る料理屋さんで出されるものなわけで。

 いきなり生肉食えと言われたら、何の嫌がらせかと。


 生臭い臭いにゲンナリする。が、マルチャン副神官長は構わずグイグイ鼻先に生肉を押しつけてくる。


 やめてよぉ。


 キュヒィィィンと情けない声が出る。

 

「ちっ、餌を選り好みするとは面倒な……」


 小声で悪口言ってもちゃんと聴こえてるからね。


 もういっそのこと人化して文句の一つでも言ってやろうか。


「何をしている?」


 その時、救世主が現れた。

 私の位置から姿は見えないけど、少年の声。

 

「こ、これは殿下! いえ、その……こ、子犬を見つけたので……」

「嫌がっているようだが……」

「人に慣れていないのでしょう。殿下がお気になさるような事ではありません」

「お前が動物好きだとは、知らなかったな」

「……殿下は、あまり外に出る事がないので、ご存知ないのも無理はありませんよ」


 しどろもどろなマルチャン副神官長のかげから、救世主の様子を伺い見る。

 

 と、雷に打たれたような衝撃が全身に走った。

 その少年は十四~五歳位に見えた。

 亜麻色の髪に、ここからは目の色までは見えないけど、意志の強そうな鋭い目つきをしている。

 成長期なのか、ヒョロっと細長い手脚に賢そうな顔立ち。

 女として一目惚れとか、キャーイケメン! とかそんな衝撃ではない。


 決して鮮やかではない過去を振り返ってみても、未だかつて人を見てこんな感情を抱いた事はない。



 見つけた。



 ただ、そう思った。

 

 


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