お洋服ができました
まだちょっと早いけど、お昼ご飯です!
人型とるとすごくお腹すくんだよね。
決して私が食いしん坊なわけではありませんよ。
「どこでたべるの?」
「そうですね……外食もいいけどまだ服がありませんからね、一度青騎士寮に戻りましょうか」
「はぁい」
エルネストさんはいいのかな? 聞いてみると、言珠を残しておくから大丈夫だって。
言珠は、大人の掌にすっぽり収まるくらいの玉で、一定時間の声を残しておける魔道具のこと。
魔力がないと使えないから、一般にはあんまり普及してないけど、騎士たちの間では割とメジャーな魔道具なんだって。遠隔地に派遣された騎士とかは、これに声を入れて使い魔に運ばせたり、逆に指示を出したりしているそうだ。ラブレター代わりに使う人もいる。
「わるいひとにきかれちゃったら、どうするの?」
「そうならないように、予め魔力を登録しておくんですよ」
「まりょくをとうろく?」
また分からない事が増えた。
「例えば、この珠は元々エルネストの物です。これには、エルネストと私の魔力を注いであります」
そう言うとマリウスさんは、茶色と赤と水色がマーブル模様になった言珠を手にとった。
「茶色と赤がエルネストで、水色が私の魔力です」
「ほえぇ」
「魔力を注いで、言珠に覚えさせるんですよ。もし他の者が聞こうとすると、破裂します」
「ばくはつするの!?」
過激! でも騎士たちには絶対知られちゃいけない情報とかもあるだろうし、それ位厳重にしないとダメなのかな?
「そんなに大袈裟なものじゃないですよ。こう、プシュッと魔力が抜けて、声も聴けなくなるんです」
「へぇ~、すごいべんり! この色はまりょくの色なの?」
「ええ。私は水属性しか適正はありませんし、それもそんなに強い魔力ではないんですが、エルネストは火属性と土属性のダブルなんですよ。それもかなり強力な魔力なんです」
「ダブルってめずらしいの?」
「そうですね、滅多にいないですよ。あ、昨日のマルチャン副神官長、わかりますか?」
「わかる! テラテラしてたひと!」
おじいちゃん神官長と一緒にいた、テラテラしたおじさんです。私が本当に神獣なのかどうか疑っていた様子の、ちょっと感じ悪い人ですよ。
マリウスさんは薄く苦笑すると、一つ頷いてみせた。
「彼は風と闇のダブルですよ」
「やみ?」
「珍しい精神系統の魔力です。安らぎを与える事が出来るそうですよ」
「ふぅん」
「もっとも、闇属性と光属性はまだ謎も多いんですけどね」
きゅるきゅるきゅるきゅる
今ちょっと真面目な話ししてたのに……。幼児の体は我慢がきかなくて困ります。
「ふふっ。じゃあ行きましょうか。申し訳ありませんが、また犬型になれますか?」
「おおかみだよ!」
お腹の音を聞かれた恥ずかしさを誤魔化すように、狼だと主張する。
「狼! そうでしたか。あまりに可愛らしいから、てっきり子犬かと」
「えへへ~」
褒められて気を良くした私は、さっと狼型になる。人型になる時と同じように、銀色の光が全身を覆った。
ファサッと私を包んでいたタオルが降ってくる。マリウスさんはまたタオルごと私を抱き上げ、籠の中に入れてくれた。
「チビちゃん、念の為、まだ私たちの前以外では人化しないでくださいね」
「きゃん!」
私も、無闇矢鱈に人化するつもりはないですよ。突然全裸の子供が現れたら、皆びっくりしちゃうだろうし。
マリウスさんが言珠にエルネストさんへの言葉を残すと、私たちは赤騎士寮をあとにした。
その後青騎士寮の食堂で昼食を摂ると、私たちはまたマリウスさんの部屋に向かう。食堂での忍び笑いはもう気にしない事にしました。
マリウスさんの部屋で人化すると、腰にタオルを巻いたお風呂上がりスタイルで、お金の数え方を教わった。
まず、この国の通貨は六種類ある。
安い方から順に、小銅貨、銅貨、小銀貨、銀貨、金貨、白金貨。
小銅貨十枚で、銅貨一枚分。
銅貨五枚で、小銀貨一枚分。
小銀貨二枚で、銀貨一枚分。
銀貨十枚で、金貨一枚分。
金貨十枚で、白金貨一枚分。
屋台で飲み物を買うと、大体銅貨一枚。お店でランチは小銀貨一枚と銅貨三枚枚、ディナーだと銀貨一枚くらいが相場らしい。
一般市民の収入が、一ヶ月で大体金貨十五枚~二十枚程度。そこからいくと、金貨一枚で一万円相当って感じかな?
それを前提にすると、銀貨で千円、銅貨で百円ってとこか。
安いのか高いのか、ピンとこない……。昔から数学どころか算数も苦手だったツケが、こんな所で回ってきたよ……。ま、日本円に換算なんて意味は全くないし、覚えやすくする為の目安でしかないんだけどね。
「リンゴどれくらいで売れますか?」
そう。いくら子供の姿とはいえ、生活費もなにもかもおんぶに抱っこじゃ、神獣の名が廃る! 大変な事になるとは言ってたけど、ここで生活する為にはある程度自由になるお金は必要だろう。
……リンゴも貰い物なんですが。
「メロペーシュに値段をつけるのは、かなり難しいかと……」
そう。イルミールがくれた、このリンゴは、幻の実、メロペーシュと呼ばれていて、生命の湖の聖木に宿る大精霊が作り出す、聖なる果実なんだそう。
例の如く伝説、つまりフィクションだと思われている。
その実を一つ食べれば、どんな病も怪我もたちどころに癒し、魔力に溢れ気力が充実すると言う。
あそこにいた時は毎日朝と夜に食べさせてもらってた。だけど、大きな怪我も病気もしなかったから、マリウスさんが言う伝説のような効果があるかは分からない。
でも、狩りが出来なくて満足に食べられずにいた私が、病気もせず栄養失調になる事もなく元気に成長出来ていたのは、この実のおかげだと思っていいだろう。
「おいしいよ?」
「……そういう問題では……」
「でしゅよねぇ」
なんて会話をしていたら、コンコンコン、とドアをノックする音がした。
「チビちゃん、机の下に隠れてください」
私は言われた通り、机の下で膝を抱える。それを確認すると、マリウスさんはドアに向かって声をかけた。
「はい」
『兄さん、私です。エルネストですよ』
「今開けます」
ガチャッとドアが開くと同時に、エルネストさんが素早く室内に入ったのが気配で分かった。
「もういいですよ」
「はぁい。エルしゃん!」
あう。早口で喋ろうとすると、簡単な単語でも噛んでしまう。
「神獣様、お待たせしました。簡単な造りではありますが、ローブが一着出来上がりましたよ」
「え!? もうできたんでしゅか!? すごい! はやい!」
「ふふ、神獣様の為ですからね、頑張りました」
「エルさん、ありがとうございます!」
エルネストさんはにっこり笑うと、持っていた袋の中から、たたんだローブを取り出した。エルネストさんのローブと同じ色の、小さいローブ。
早速着てみる。すごい! 注文通りちょっと大きめ。裾は指がのぞくくらいの長さで、丈はくるぶしあたりまである。私の計算だとあと三ヶ月もすれば、人型になると九歳くらいの姿の筈。さすがに着れなくなるかな? でも出来るだけ長く着たいもんね。
エルネストさんが着るとスラッと恰好いいローブだけど、チビな私が着るとちんちくりんだ……。でも、二人とも蕩けそうな顔で見てるから、そんなにおかしくはないのかな。
「せっかくですから下着やシャツは今から買いに行きましょうか。私が一人で行こうと思っていたのですが、ローブが思ったより早く出来上がりましたからね」
「五日ごのおかいものは?」
中止はちょっと寂しいなぁ。
「それはそれで行きましょう。色々街を見て回るだけでも、楽しいですよ」
「うん!」
でもリンゴ売れないとなると先立つものが……。
あ、まだあるじゃん! これは正真正銘、私が摘んだもの。
「やくそうもあるよ! これはうれるよね!」
イルミールが教えてくれて、見つけたら摘んでおきなさいって言った薬草たち!
あんまり量はないけど、全部売ったらそれなりになるんじゃないかな?
亜空間から摘んだ薬草を取り出し、床に並べる。
「これはっ……、ポポン?」
驚いた様子のエルネストさんが手にとったのは、薬効が強いと教わった癖のある薬草だった。これ本当に苦いんですよ!
ちょっと齧ったら涙目になりました。
「これをどこで?」
「くるとちゅうで見つけたの。みずうみ出てすぐ」
「六日前……? 何故枯れずにここまで……亜空間!?」
驚いた声をあげたのはマリウスさん。
「見つけたらすぐしまっちゃったの。あのときは人化できなかったから、せつめいできなくて……」
全く人化する気配なかったですからね。練習する時間もなかったし。子犬だと思ってるのに、薬草なんて摘んでたらびっくりするもんね。
何となく後ろめたく感じてると、エルネストさんが改まった様子で切り出した。
「神獣様。このポポンを、どうか私に売っていただけませんか?」
「エルさん、これほしいですか? ならあげます! ローブのおれいです」
「いえ、さすがにこれは無料でいただくわけには……」
「チビちゃん、ポポンは薬効が強くて大変重宝する薬草ですが、見つかりにくい上何故か栽培出来ず、更に二日もすれば枯れてしまうので、とても高価なんですよ」
遠慮するエルネストさんにポポンを押し付けようとする私に、マリウスさんは何故エルネストさんが遠慮するのか理由を教えてくれるけど。
「そうなんですか? じゃあなおさら、エルさんにもらってほしいです!」
「神獣様……」
「マリュースさんは? ほしいのありますか?」
四種類の薬草を前に尋ねてみる。
「いえ、お気持ちだけで充分ですよ。ありがとうございます」
そういう訳にはいかないでしょう。マリウスさんにお世話になってるのは事実だし。
「じゃあリンゴあげます!」
「そのリンゴとやらですが……」
「エルネスト、メロペーシュで間違いないと思いますよ」
「では、伝説のような効果も……?」
「それはまだ分かりませんが、大精霊様に与えられた果実なら、もしかすると……」
さっきまでの明るい表情とは一転、エルネストさんはすごく苦しそうな顔で、言葉を絞り出した。
「……神獣様、このメロペーシュを、第二王子クラウディオ殿下に献上する事を、許していただけませんか?」
第二王子って、エルネストさんとディエゴさんが護衛してる人だよね?
そんな死にそうな顔で許してくれなんて言わなくても……。
「いいですよ?」
はい、とリンゴ改めメロペーシュを一個、エルネストさんに手渡した。
あんま大量にあげるのはダメだよね? 本当に伝説のような効果があるなら、きっと大混乱しちゃう。それでイルミールたちに迷惑かかっちゃうといけない。
「ありがとうございます! このお礼は必ず!」
「これはわたしからのおれいだから。でもたいへんなことになると、ちょっとこまるから、もうないって言っておいてください」
「そうですね、それがいいでしょう。では神獣様、兄さん、私はこれで」
エルネストさんは私のローブが入っていた袋に、大事そうにメロペーシュとポポンをしまうと、私に向かって深々頭を下げ、部屋を出ていった。
「おうじさま、びょうきなの?」
「いえ、昔からお体が弱くてらっしゃるんですよ」
「ふぅん」
今いくつくらいなんだろう? 成長とともに丈夫になれるといいね。




