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魔女になって!  作者: まよまぐろ
精霊と眠りの城
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「その昔、この城のどこかに拷問部屋があってねぇ。夜になると罪人の幽霊が『助けてくれぇ……』とか『ここから出してくれぇ……』って呻く声が聞こえてくるそうなの」


 翌日、森に囲まれた城まで移動した一行は、城で働いている案内人からの説明に真剣に耳を傾けていた。他の観光客もちらほら見えるが、観光地のわりにあまり人はいない。歩く廊下の天井も高く、壁には絵画が並んでいる。閑散とした巨大美術館のようだ。


「幽霊が出るの? 行ってみたい! カレン一緒に行こう!」


 カレンの手を引こうとするロイにリンゴから待ったがかかった。


「駄目だよ。そういう怨念の強そうな場所は、聖職者でもきちんとお祓いする準備してからじゃないと行っちゃいけないの」

「えぇー」


 不満気なロイの態度にリンゴは呆れたため息をついた。


「ロイ君、この前の遊園地で凄く怖い目にあったのに。まだ懲りてないの?」


 ロイとリンゴは同じクラス。どうやら人に化けた悪魔はオカルト好きなキャラとして見られているらしい。リンゴは巫女を目指す者として、危険な遊びをするロイを放っておけないのだろう。


「俺に怖いものなんてないんだぞー」

「すっかり忘れてる?! 一番怖がってたのロイ君だったよね!?」

「リンゴなんだぞー」

「私は怖がってなんかないわよ!?」


 先月四人で行った遊園地で巻き込まれた幽霊騒動。カレンからすれば二人共怖がっていたように記憶している。

 ふと、遊園地で観覧車に乗った時に彼女が言っていたのことを思い出した。


「そう言えばリンゴの兄達は過保護だと言っていたよな? 前の日帰りと違い、今回は遠方への泊まりではないか」

「ま、まぁこの前は勝手に行ったからね。今回はちゃんと許可貰って……ってロイ君!? それ私の荷物!」


 ロイがリンゴの鞄についている飾りを叩いて遊んでいた。慌ててリンゴが止めに入る。


「えいっ、やあっ、とおっ」

「やめてやめて、それ人形でも魔物でもないの!」

「痛い痛いなにするんだよ! この黒いの!」


 ロイに叩かれた白い飾りが声を発した。


「なんだこいつ」


 リンゴに救出され手の中に収まっているのは、目のついた白いマリモのようなもの。


「私と契約している氷の精霊、アイスちゃんっていうのよ。可愛いでしょ? 修行の成果なの」

「見張り付きか……」

「うん。この子がいれば色々……色々安全だからって……」


 白マリモ……もといアイスは冷たい綿毛(?)をポンポン飛び散らせてリンゴの周囲を漂っている。


「なんなのこいつ! リンゴ、凍らせていい!?」

「ダメダメ、何言ってるの」


 怒りを爆発させるアイスを宥めようとリンゴは必死だ。


「精霊さんだったの? ごめんなさい。気色悪い白カビの魔物がリンゴの鞄を物色してるのかと思っちゃったんだぞ」


 リンゴの手前、態度だけしおらしく謝るロイにアイスは更に憤慨した。


「白カビ?! なんか全然謝られてる気がしない!」

「もー、落ち着いてよー」



 *****



「この辺りの森は『迷い森』なんて呼ばれていて、結構行方不明者が出ているから、特に帰り道には気を付けて」


 カレン達が皆にバレないように、後方でこそこそやっている間にも案内人の話は進んでいて、前を歩く子達は真面目に質問をしたりしていた。


「森の入り口から城まで一本道ですし、ホテルから見た感じではそこまで深い森というわけではないですよね? 土地も平坦ですし、何より森には|大きな城(目印)がありますもの」

「そう思うでしょ? でも実際に居なくなった人がいるからね。警察の人とか信じてくれないけど、精霊の呪いではないかって思っちゃうの」

「精霊……ですか」


 聞こえてきた言葉にカレンはチラリと先ほどの小さな精霊を見た。

 ふわふわとリンゴの周囲を漂っているが、周りがそれを気にする様子はない。

 普通、見えないものだ。

 そして今度はロイを見る。強い魔物とはいえ、悪魔も所詮魔物でしかないはずなのだが、何故かロイは皆に認識されている。何故なのだろう。


「城の関係者しか見れない貴重な文献があるの。そこに実際に書かれていたこの町の歴史。呪いは、過去にこの街が犯した罪と、その罰なのよ」


 元は森を守る精霊だったそうな。



 ――むかしむかし、街がまだ一つの小さな国だった頃の話。この森を守る精霊とその精霊を祀る白魔女達が暮らしていた。

 長い髪は小川のように清廉で、声は小鳥のように可憐で、頬は真っ赤な果実のように瑞々しく、纏う衣は若木の葉のように青々しかった。精霊は森の美しさそのものだった。


 あくる日、精霊は国のお姫様に結婚を申し込む。精霊の森と国の繁栄をさらに願ってのことだった。

 しかしお姫様はこう言った。


「かの精霊はとても醜い。私は精霊などと結婚なんてしたくありません」


 王様もそれに同調し、結婚の話を断った。

 侮辱された精霊は怒り、お姫様が永遠に眠るよう呪いをかけた。

 偶然国を訪れた、優れた祈祷師としても有名な隣国の王子により姫は目を覚ましたが、代償は大きく、姫にかけられた精霊の呪いは国全体へ降り注いだ。城はたちまち荊の蔓に覆われ、城の周囲は森に呑まれた。

 それ以降、森は迷いの森と呼ばれ、足を踏み入れれば永遠に森を彷徨い続けることになる。



 長ったるい話を要約するとこんなものである。


「もしかしてこの町の童話の元となった話ですか?」


 城、お姫様、荊、森、呪い。これらから連想するもの。昨日町で聞いたおとぎ話。町の童話と少し印象が違うのは一般受けを考えて改変されたものだからだろうか。どちらをとっても世間に出回っている童話と流れや結末がだいぶ違うものだが、劇の脚本に使った小説がモチーフにしたのは、明らかにこの町に伝わる童話の方だ。小説の作者はこの国の人間ではないはずなのだが、確かにあれは……


「どうかしらね」


 そう言って案内人は曖昧に微笑んだ。肯定するでもなく、否定するでもなく。生徒達は「悪口言われただけで呪うとか」「精霊怖過ぎ」「精霊というより魔物だなぁ」などと囁いている。


(……退屈だ)


 カレンが聞かずとも他の子が熱心に聴いているので、特に問題ないように思える。


 必死に欠伸を噛み殺している内に、メインの部屋に辿り着いたようで役目を終えた案内人はどこかへ行っていた。


「大声を上げたり、走ったりしないこと。調度品などには触らない。建物も含めて置いているものは、全て我が国の重要文化財でもあるんだから、壊したりしたら大変よ。それから、外に出る時は私に一声かけてから」


 ウェンディが今まで以上に厳しく注意をする。けれども皆本当に聞いてるか分からない。なんせ目をキラキラさせて、目の前に広がる豪奢な空間を見つめているから。


 高い天井から吊るされたシャンデリア。色とりどりの紋様が描かれた壁。鏡のような大理石の床。末広がりな階段も、大きな窓に張り付けられたステンドグラスも、絵本や小説の挿絵のそのままで、興奮せずにはいられないのだろう。

 ここは舞踏の間。

 城の主が、客を招いて豪華なご馳走や音楽でもてなした。主な用途は貴族達の社交場として使われていたが、祭りの日には貴賎の差なく集まり、朝まで歌い踊りあかしたという。


 スケッチをしたり写真を撮ったり、役持ちの子は台本を片手に台詞を口ずさんでいる。そんな子達を眺めていたユルが思いついたようにカレンに言った。


「あ、そうだカレン。帰ってからも見たいから、その辺にいる従業員さんからお城の見取図を何枚かもらってきて」

「分かった」


 カレンは頷くと、従業員を探しに行った。それを見届けると、今度はロイの方へ耳打ちする。


「ねぇ、ロイ君。さっきの話気にならない?」

「話?」

「そう、迷いの森の。行方不明になってるって話」

「気になる!」


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