洞窟の主?
それから暫く歩いていると、洞窟が見えてきた。
『グゲゲゲ』
『ゲルググ』
入り口付近では五体のゴブリンが輪になり、虫や果実などを食べ盛り上がっていた。
座っているゴブリンと比べて洞窟の大きさは人間が横に三人並べる程度だろうか、高さは屈む必要もないくらいはあるだろう。
食事を終えたゴブリン達は果実の硬い芯を放ると洞窟の中へと入っていった。
「ゴブリンが住処に出来るってことは肉食性の魔物は居ないか、下に毒の瓦斯が溜まってるとかでも無さそうかな」
尤も高い所に集まる者や、人間には利く可能性を考えれば風の鎧は纏うべきだろう。
「とりあえず風と明かり、銃よりも短剣の方が良いかな」
腰の剣を鞘ごと外して荷袋にしまい、新たに片刃の曲剣を取り出して差し、そして首飾りを二つ起動する。
「よし」
洞窟に足を踏み入れると首飾りが中を照らし、歩くのに困らない程度の明るさになる。
「結構深そうかな、途中で引き返す事も視野に入れとこう」
中を進んで行くと、光に照らされる小さな背中が現れた。
『ゲギギギ!』
ゴブリンは目線があった瞬間、周囲に知らせるように甲高い鳴き声を上げると、横穴に飛び込んでいく。
「臆病で人間を見つけるとすぐに逃げ出す……、色が暗い赤ってだけで他は変わらなそうだな」
特に襲ってくる様子もないため無視して進んでいると、洞窟にしては随分と広い空間に辿り着いた。
「アレは……、ドラゴン?」
空間の中央では青い鱗を輝かせる小型のドラゴンが、透明な石達に囲まれ穏やかな寝息を立てていた。
「まさかここにきてドラゴンかぁ……、そういや宝石とか魔石みたいな綺麗な物を集める習性があるんだっけ」
ここに住まわれるのは結構面倒だ、いくら赤結晶を設置しても破壊されて持ち帰られてしまう。
壊されても大丈夫な様に対策はしているが、その|その度に壊されたんじゃあ魔法陣に影響が出かねない。
「悪いけど他の所に行ってもらうしかないな」
『ゲギギギ!』
振り返ると大量のゴブリン達が通路を埋め尽くし退路を塞いでいた。
「あまり大きな声を出さないで欲しいんだけど」
再びドラゴンの方へ視線を戻すと、数匹のゴブリンが棍棒や石斧で攻撃していた。
「ちょちょちょっとなにやってんの……!」
命知らずのゴブリン達の行動を止めるために銃を引き抜くが、時は既に遅くドラゴンが首を持ち上げてしまった。
『ゲギャ!』
その様子を見たゴブリン達が傍を離れようと逃げ出すが、目覚めたドラゴンの尾に弾かれてしまった。
『グルルルっ!』
(まったく……)
ドラゴンは此方を睨みつけてくるが、人間を警戒しているのか向かってくる様子は無い。
そして、やたらと周囲を見回しては、羽を伸ばしたり羽ばたかせたりと忙しない。
(あれって、残り羽根だよな……?)
ドラゴンの腹の辺り、鱗の隙間から羽根が疎らに生えている。
(てことはまだかなり若い個体ってことか……)
ドラゴンに生える羽根はまだ調整が出来ない幼ドラゴンの体温を高く保つ為の物であり、成体になると自然に抜け落ちるとドラゴンの研究家の友人が教えてくれた。
(なら戦わなくてもやりようはある)
こっちを見ていない間に荷袋から昨日も魔物避けである、『怒龍の汗蝋』を取り出し火をつける。
そして、風の首飾りの出力を上げて、臭いを拡散させていく。
『グルルル…!』
するとドラゴンは怯えた様に高く唸り周囲を見渡し始め、ゴブリン達も通路から横穴へと飛び込んでいった。
その間に懐の小物入れから緑に輝く石を取り出し、通路が複数ある事を確認してから、軽く衝撃を与えて入ってきた通路に投げ込む。
そして通路の直線上からズレて耳を塞ぐ。
『グルルルルル!』
こっちが何かしたのを見てたのか、ドラゴンが口の中に赤い炎を溜め始めるが。
『ギュオオオオオオ!』
その直後、手を僅かに突き抜けるほどの鳴き声の様な音が、通路の奥から響き渡った。
ドラゴンは口内の炎を消し、別の入り口であろう通路に体をぶつけながら走り消えていくのだった。
「ようやく見つけた休める地だったんだろうけど、人里も近いしごめんな」
その強さから恐れられているドラゴンの天敵はまた別のドラゴンだ、まだ戦う力の弱い個体は逃げ出すしかない。
落ちている青く綺麗な鱗や羽根を拾っては、金属の容器へしまっていく。
「こっちは錬金用にして、こっちは蝋燭のお礼にあげよう」
透明な石も回収し、ドラゴンが通った通路を鱗を拾いながら辿って行くと、段々と光が見えてきた。
「もう飛び去ったか……、結局原因は分からなかったけど暫く壊される事は無くなったかな」
予想は幾つか立ててみたものの情報が少なすぎるため、今は赤石の耐久力を上げるしか対策は出来なさそうだ。
その後、石に耐久力を上げる魔法陣を追加しておき、村の騎士団詰所に戻ってきた。
「騎士団名どっかにないかな……」
箱を漁り報告書の文字を指でなぞっては、次の紙へと移っていく。
「あった、ダクラス騎士団グレン隊所属隊士カーマイン=リヴァー」
『この度は出張拠点である建物の壁に穴を空けてしまったことを大変反省しております。……』
「反省文?」
何か重要な事でも書いてあるのかと思えば、ふざけていて壁に傷を付けたという内容だった。
「ダクラスか、確かここからそんなに離れてはいないはず」
別の地図を取り出し位置関係を確認すると、徒歩で三日程で着く程度の場所にダクラスという名前があった。
「出来れば足が欲しいな」
商人がダクラス方面に向かうのならば、乗せてもらえないか頼みたいところだが。
―――
「いや、そっち方面に向かう予定はねえよ」
「そうですか……」
残念だが仕方がない、徒歩は時間が掛かってはしまうが、急ぎの予定もないしゆっくり向かうとしよう。
「早く着きたいんならそれ用の魔導具を作れば良いんじゃねえか?魔導技師なんだからよ」
「作る……、そっか、そうしてみます」
作るという発想はなかった、最近は馬車旅の日々だったこともあり、すっかり楽をする思考になっていたらしい。
(となるとまずは材料探しからか)
手荷物の中には魔物の素材や魔石等はあるが、魔導具の素体になるような材料はあまり揃ってはいない。
(騎士団の倉庫になんか残ってるかな)
「提案した俺が言うのもなんだが、そんな簡単に出来るもんなのか?」
「機能を単純かしたり、安全性を気にしなければ割とすぐに出来ますよ」
「安全性って一番大事な所じゃねえか」




