表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
105/105

エピローグ

今話にて完結、です。



 ――あれから、2年の月日が経った。




「ねえありす、ありすったら、何で本なんてわけの分からないものを読んでるのよー?」


 私は、相変わらず家を出ないパラサイト姉の声を右から左に受け流していました。

 とある日曜日の心地良い昼下がり。家の中は蒸し風呂状態なので(色々あったのよ!)、私は庭で膝の上の本のページを捲っていたところだった。

 変わったことと言えば……そうだな、私も高校生になったっていうこと。それから姉の電波受信率がさらに上がったことくらいだろうか。……嬉しくねえ。何だよいい大人だろいい加減家出ろよ。幸い仕事はしているけれど、一人暮らしを勧めてみれば、いわく一人じゃつまらないだとか何とか。何だよいい大人だろ大体お前頭の中はいつも一人ぼっちだろ!

 ……まあ、私も実の姉にそんな事実を突き付けてやるほど鬼畜ではない。というか突き付けたところで姉はきっとこれっぽっちもめげない。ていうか聞かない。

 私はそんな無駄なことに時間を割くほど馬鹿でもないので、2年間ひたすらスルースキルを磨き続けた私は、もはや彼女の言葉など蝉の鳴き声程度に聞き流して『不思議の国のアリス』――では勿論なく、数学の参考書を読み耽っていた。


「何よー、その気持ち悪い呪文が書き連ねてある本! ありすには似合わないわよー」


 私の手元を覗き込んだ姉が随分と失礼なことを言ってくれる。そんなことはもとより承知だ。でもやらなきゃいけないんだから仕方ないじゃないか。


「ねえありす、遊びましょうってばー。新・戦車ごっこ~愛と金の葛藤エキスパンション~をするって約束だったでしょ?」

「え、すげえ初耳なんですけど。何その遊び? どういう遊びなの?」

「だから私がビリーでありすがジャクソンよ! 決まってるでしょ!」

「だからそれ誰」


 思わず反応してしまった。まずい。さっぱり意味がわからないのだが……なんだろう。何でその遊びに聞き覚えがあると思ってしまうんだろうか……何でだか、遠い昔そんな遊びをしたような気が。

 いかんいかん。記憶がきっと混乱してるんだ。どちらにしろ私はそんな遊びに付き合う気はないし、暇もない。何せ数学だけではなく英語もやらなくちゃいけないのだ。そんな意味不明な遊びに時間を費やしてたまるか。


「分かったからお姉ちゃん、家の周りでも散歩してきたら?」

「そうやって私を遠ざけようとしても無駄なんだからねー! 私は行かないから!」

「あっ、西山さん家の前にニコライが!」

「どこ!? ニコライどこ!? 待ってろ今ビリーが助けに行くぜ!」


 ……行った。

 ところで誰だろう、ニコライって。適当に言っただけなんですが。

 とりあえず近所にお住まいの西山さん、迷惑かけてごめんなさい。ちーん。


「……さて」


 うるさい姉がいなくなり、ようやく静かになった。

 一心不乱に文字を追いかけていた目を上げて、私は雲一つない青い空を見上げる。……眩しくてちかちかした。ずっと本のページを追っていたせいか。


 ――そういえば、2年前も、こんな日だったな。


 私はふと思いつく。ハク君と初めて出会ったあの日。あの日もまた、今日のように晴れた昼下がりだった。あの時も同じように本を読みながらうるさい姉を追い払って、そしたらたしか、変な歌が聞こえてきて――

 私は。

 いけない、とその先の考えを頭から振り払う。思い出しちゃいけない、泣きたくなるから。……ぜんぶ、ぜんぶ。幻のように今は消えてしまった。楽しかったはずの記憶は、年々薄れていくばかり。

 仕方ないことなんだ。だって、あれは結局、私が見ていたただの夢なんだから――


「――兎の穴に――」


 ……うん?


「――少女は墜とされて――」


 ……どこからか透き通った歌声が聞こえてくる。私は思わず参考書から顔を上げた。同時に私の中で警鐘を鳴らす理性、――聞こえるか、全員すみやかに退避せよ。

 理性の声に了解と短く答えて私は立ち上がった。アレだ。きっと今流行りの不審者ってやつだ。いや、流行ってるかどうかは知らんが。でも物騒な世の中だから用心するに越したことはない。

 歌声はとてもきれいなテノールだった。

 あれは絶対にうちの姉の声ではない。いくら何でもあんな声は姉は出せない。何芸だ。ていうかさっき西山さん家に向かったばかりなんだから、そんなに早く帰ってくることはないはず。

 姉ならば身内として恥ずかしい歌をやめさせる義務もあるだろうが、他人ならば見て見ぬふりをするのが最善。地獄の大釜と化した家の中に退避するのはいささか気が進まないが、背に腹は代えられない。参考書にしおりを挟んで立ち上がると、私はドアの方へと向かおうとする。


 したのだが。


「ちょっと待って下さい、どこへ行くんですか」

「ひいぎゃあああああああああっ!?」


 振り向いた瞬間、それはいた。目の前に。

 顔が近い。顔が近い。顔が近い。顔が近い! 不審者と顔が近い!

 思わずこの世のものではないような悲鳴を上げてしまったが、幸か不幸か周囲に人はおらず、それは目の前の青年の顔をしかめさせるだけに終わった。


「相変わらず可愛くない悲鳴を上げますね……本当に女の子ですかあなたは」

「な、なんて失礼な――って……あれ? え、相変わらず?」


 失礼な発言も気になったが、しかし目の前の青年は『相変わらず』と言った。

 相変わらず? 何が? ……私、この人と面識あったっけ? でも、『相変わらず』……ってことは知り合い、よね。

 そう思って冷静に観察すれば、なるほど青年の容姿はかなり特殊な部類に入るだろうと思われた。


 太陽光を受けてきらっきらときらめく柔らかそうな金髪。染めたのか。

 燃え盛る炎のように情熱的で、ルビーのように美しく輝く赤い瞳。カラコンか。

 そして陶器のように白い肌に鼻梁の通った顔立ち。イケメン爆発しろ。

 きわめつけは、その頭から伸びた、一対の兎のような白い耳。……つまり、


「ごめんなさい。コスプレイヤーに知り合いはいないつもりなんですけど」

「いい加減はっ倒しますよ」


 女の子をはっ倒すイケメンがこの世の中にはいるらしい。なんてやつだ! イケメンはやさしいと相場で決まっているでしょうに!


「……あの。本気で思い出せないんですか?」

「は?」


 胡乱げな視線を向けられ、思わず知るわけないでしょうがそんな不審者と言いそうになった、が。

 ……金髪。赤瞳。イケメン、いやそれは違う、白い耳。


 兎。


 ……兎?


「……え」

「やっと思い出しましたか」

「え、え、え、えええええええええええええっ」

「うるさいです」


 え、待って、待って、待って。待って兎って白い兎って白兎って!

 そんなの私の中で一人しか――いや正確に言えば一人でもないけど一人しか!


「えっ、うそ、え、――ハク君!?」

「はい。嘘でも何でもなく僕ですが」

「うわあその言い方、たしかにハク君だ! 懐かしい!」

「……あなたはどこで僕を判断してるんですか」


 きっちり着こなされたワイシャツをぎゅーっと引っ張って言うととても迷惑そうに言われた。いや、ごめん。ついテンションが上がって……。だって。


「変わりすぎ……っていうか大きくなりすぎだってば! こんなに変わったら普通分かんないわよ!」

「そういうあなたは全然変わってませんね、悪い意味で」

「ハク君も性格は変わってないね! ていうかむしろもっと嫌味になった!?」

「嬉しそうに言うことじゃないでしょう……」


 え、だって。

 嫌味だってかまわない。どんなに嫌な性格でも、女の子をはっ倒すようなイケメンも、それがハク君だって言うなら。


 だって――私はまた、夢を見ているの?


「だって……みんなは、私の夢だった、はずなのに」


 思わずワイシャツを引っ張っていた手に力がこもる。

 ――だってね、あれは私の都合のいい夢だったはず。私はそれを答えとして、ルーシャはそれを肯定した。夢。私の夢の中の産物、だった、はずなのに。

 夢だったのに。

 2年前、私があの世界から帰ってきた――もとい夢から覚めた時、そこは私が眠りに就く前と同じ場所、そして時間だった。姉は「ありすったら本読むなんて小難しいことするから寝ちゃうのよー」なんて言ってたし。私の膝の上には『不思議の国のアリス』、だから私はやっぱり夢を見ていたんだ、と思った。なのに……。


「……僕らはやっぱり夢、ですか」


 ハク君が小さくため息をこぼす。あ、いや、……ごめん。そんなつもりで言ったんじゃないんだけど……おんなじことか。

 思わず顔をうつむける。でも、あの世界は……ルーシャは。


「――だ、そうですよ。どうします?」

「え……?」


 するとハク君は、ふいに後ろを振り返って言葉を放った。

 後ろ?

 一体誰に話しかけているんだろう、とつられて目を上げると――



「ひどいな、ありす。俺との愛の日々は夢だと思ってたわけ?」



 ――悪戯っぽく笑う夜空色の瞳と、目が合った。


「――え」

「久しぶり。ありす」

「え……え、」


 言葉が出てこない。言葉にならない音が唇の隙間から漏れ出ていく。

 返す言葉が、何も思いつかない。


 少し長い黒髪、細められたアメジスト色の瞳、目に痛い派手な色の三角耳と尻尾。


「う、そ……」

「嘘じゃないよ。……白兎は信じたのに、俺のことは信じてくれないの?」


 ――嘘。

 嘘。

 うそ。

 だって。

 頭の中身がぐちゃぐちゃになる。

 だって。

 もう二度と会えないと思って、もう二度と見ることはできないと思って、――


 もう二度とその笑みに会うことはないと思っていたのに。


 嘘。


「夢じゃないよ。俺はちゃんとここにいるでしょ?」

「っ――!」


 夢じゃないよ。

 その言葉を聞いた途端、私は駆け出していた。数メートルの距離すらもどかしく感じる。持っていた参考書なんかどこかに投げてしまった。私の頭は、そんなどころではない。


「っ、チェシャ猫ぉっ!」

「うん。久しぶり」


 その胸に飛び込めば、彼はやさしく受け止めてくれた。――チェシャ猫。

 会いたかった。会いたかった。ずっと会いたかった、忘れるなんて無理だった。記憶がどんなに薄れても、この2年間……チェシャ猫を忘れることなんてなかったのに。

 回した腕に力を込める。唇から嗚咽が漏れた。どうしよう、止められない。

 この温もりを感じたかった。この匂いが大好きだった。懐かしくて、嬉しくて、あたたかくて。


「ばか……っ、来るの、遅いのよっ……」

「これでも頑張ったんだけどなあ……」

「遅い、のよ……ばかあっ!」


 こんなことを言いたいんじゃない。違うのに、意思に反して右腕がばしばしとチェシャ猫の頭を叩いた。

 それでもチェシャ猫はそんな私を諫めることもせず、やさしい声で言う。


「うん。……遅くなってごめん。こっちで彼氏とか作ってたりしない?」

「そんな、の……する、わけないでしょ……っ!」


 忘れられなかった、のに。

 そんなの作れるはずもない。……大体相手もいないっていうのに。私なんかを選んでくれるような物好きが、他にいるとも思えない。でも、チェシャ猫はそうは思わなかったらしく。


「よかった。もしありすが俺との日々をさっぱり忘れてこっちでよろしくやってたらどうしようかと思った」

「よろしく、って……」

「まあ、その時は奪い返すだけだけど」

「……ありすの幸せを全く考えていない発言ですね……」


 私の代わりにハク君が呆れたような声をこぼす。奪い返す、って。私の涙も引っ込むってもんだ。


「悪いけど、ありすを他の男に渡してあげるほど心広くないんだ。俺が幸せにするから」


 ……えっと。

 2年越しの再会ですが……この人、こんなに恥ずかしいこと言う人だっけ。

 幸せにするから。幸せにするから、ってさ!


「えっ、何でありす引いてるの? 今のときめくとこでしょ?」

「…………ごめん」

「うわ、そこで謝られんの一番傷つく」


 うん、……ごめん。無理でした。

 思わず目を逸らしてしまったけれど、だって。……耐性ないんだっつーの。やめてくれ。イケメンだからなおさらだ。

 ――ただ、その恥ずかしい科白に引きながらも、どこか嬉しいなんて思ってしまった自分がいるのも本当で。……情けない限りだが。


「……ねえ……二人とも、本当に本物なの?」

「しつこいですね」

「本物に決まってるじゃん」


 ハク君、しつこいって。しつこいってひどいね。何気ひどいね君は。美男子に言われたら大分傷つきます。

 でも、だってさ、私はあの時『これは夢だ』って選択をしたんだよ? そして選んだ通りに夢は覚めた。儚く弾ける泡のように。だからもう二度と会えないと思ってた……、なのに、今になってこれだ。

 一体、どういうこと? もう会えないんじゃ――夢は、覚めたんじゃなかったの?


「だから言ったじゃん、ありす。エンディング分岐だって」

「え……え? エンディング、って……何でそれをチェシャ猫が……」


 しかし、チェシャ猫はさも当然のことのようにそう言った。

 ――エンディング分岐。

 それは、この世界に帰る前に辿り着いたあの空間で、ルーシャが言っていたことだ。エンド。分岐点。たしかにそんな話はしたけれど、あの場にチェシャ猫はいなかったはず。というか、いるはずもない。なのに、何でそのことをチェシャ猫が?


「まだ気が付かないの?」


 こつん、と額を合わせられた。……2年のうちにより磨きのかかったイケメンに見つめられ、……ごめんなさいやっぱり無理です離れて!


「あっ、ちょっとありす逃げないでよ!」

「やめて離れて! 離れないなら殴る!」

「うわ横暴!」


 2年経ったのにーと嘆くチェシャ猫は無視。……2年経ったからこそだ、馬鹿。

 何でさらにいい男になってんだよこいつ。ハク君もきらっきらしてるけど! 美形爆発しろ!


「だからさ、ありす」


 しかしいくらもがこうが肝心なところで男女の力の差がものを言う。……押さえ込まれてしまった。イケメンドアップって、なにこの地獄。


「俺を誰だと思ってんの?」

「……え?」

「俺は、《願い》を叶えるチェシャ猫」


 願いを叶える、チェシャ猫。

 小さい子を諭すように言われて連想したのは、――ルーシャ。彼こそ《願い》を叶えるチェシャ猫だった。

 ――彼と、同じ……?

 ……ってことはつまり、


「え、え、えええええっ!? ま、まさかあれはチェシャ猫だったの!?」

「ぴんぽーん」

「えええええっ! ちょっと、え、だってルーシャは金色の目だし嘘つかないし変態じゃないし最低じゃないし!」

「……ありすが俺をどういうふうに思ってるのかよく分かる発言だね」


 だってさだってさ! ルーシャとチェシャ猫じゃ月とすっぽんだ、――いやそりゃどっちも《チェシャ猫》だけど! でもですね!


「いや、たしかに全くの同一じゃないよ。あれはたしかに『ルーシャ』だし俺がしゃべってたわけじゃない――でも」


 え、でも?


「役目は同じだよ。同じ《チェシャ猫》だ。だからあれは、『ルーシャ』でもあるし俺でもある」


 ……ごめん、さっぱり分からん。なにがなんだって?

 私が呆けた顔をしていたのに気付いたのか、チェシャ猫は苦笑して言った。


「……別にいいけどさ。ていうか、大事なところはそこじゃない」

「へ? 何?」

「俺がありすに言いたかったのは、あれは夢なんかじゃないってこと」


 ……え? ――夢なんかじゃ……ない?


 夢じゃない?


 いやいやいや。だってあれが夢だっていうのはルーシャが――もといチェシャ猫が認めた話でしょ? 何を今さら。ていうか、夢じゃなかったら何だっていうの?


「たしかに俺はあの空間は夢だって言ったけど、あの世界の存在まで否定してないよ」

「……え?」

「最後に会った、あれは夢だけど、俺たちの存在まで否定した覚えはないってこと」

「え、……は、ああああああっ!?」


 思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。いやだって、え、はい? あの世界が夢じゃない――って?

 夢だったのは、最後の件だけ?


「さ、詐欺でしょ! 詐欺って言うんだそういうの!」

「あはは」

「あははじゃない! なにその空々しい笑い方! え、ちょっと、それなら……!」


 ――私のこの2年間の苦悩は何だったわけ。

 夢だってずっと思ってて。

 もう会えないのに会いたくて。


 私が、この2年間、どんな思いで過ごしてきたかも知らないで。


「――なに? ありす。もしかして、俺に会いたいって思ってくれてた?」

「――っ!」


 その憎らしい言い方が、どうしようもなく懐かしい。

 わかってるくせにそんな言い方をするんだから。……ずるい。


「当たり前、でしょ……っ!」


 会いたかったに決まってる。だからこそ選択したんじゃない。あなたたちが、あの国が大好きだから。

 呪いを解くために。

 つっかえながらもそう言えば、チェシャ猫は微笑んで、私の背中に回した腕の力を強めた。


「……よかった」

「は……?」

「ありすが正しい答えを導いてくれて。だからこそ、俺は今ここにいられる」


 耳元でささやかれる言葉。

 ――私が、正しい答えを導いたから……?


「え……それ、って」

「エンディング分岐。――言ったでしょ? あの時。辿り着けなきゃバッドエンド、答えを出さなきゃノーマルエンド、答えを間違えればハッピーエンド、……そして」


 ――そして、

 心臓がゆっくりと音を立てる。とくん、とくんとやさしい音を立てる。

 ――そして、答えが合っていたなら……?


「答えが合っていたなら……、エンディングは、ないんだ」

「……え? え、ない……って」

「――物語は終わらない、ってことだよ」


 身体が離される。紫色の瞳と視線が絡まった。

 全身を駆け抜けていく、喜びとも驚きとも違う……新しい感情。


 『終わらない物語』――


 ――ねえ、チェシャ猫、それって。


「だから、ありすが望めば、物語の続きを紡ぐことができる。また始められるんだ」

「え、私……またあの国に……行ける、の?」


 それこそ夢みたいな話だった。

 ――また、あの国に。

 チェシャ猫が微笑んで頷く。心がふるえる。ふるえて、幸せな音を立てる。

 ――それから、


「また、俺と夢を見てくれますか? お姫さま」


 差し出された手。

 ……夢なんかじゃない。

 私はまた、あの――あの素敵な冒険に出られるのだ。


 乾いたはずの涙が再びあふれてきて、でも拭う時間すら惜しい。

 私は泣きながら、それでも笑って答えた。


「――当たり前でしょ!」





 また、あの冒険に出よう。

 青い空の下、黄金の昼下がり。

 ふたたび交わった運命の向こう側、兎の穴に墜ちる素敵な冒険に。

 何度も見た、心が躍るような夢のその先に――










 ――本当を言うとさ、ありす。

 そう、彼は切り出す。


「夢か夢じゃないかなんて、どうだっていいんだ。本当は夢かもしれないし、夢じゃないかもしれない。でも、そんなことは大した問題じゃない。……大切なのは」


 世界一大好きな人は、笑って額を合わせた。


「俺は《願い》を叶えるチェシャ猫。――君の願いを叶えに来たよ」




(いつかまた、あなたたちに巡り会いたい)




 私も笑う。――最初に願ったのは、ほら、私の方だった。

 わがままな願いを叶えてくれてありがとう。大好きよ、《嘘をつく人》。


「じゃあ、もう、離れないでくれる?」

「もちろん。――頼まれても離さないから」


 私たちはどちらからともなく笑み合って、指を絡めた。


 ――物語が始まったのは500年前? 2年前? それとも、今日?

 いつだってかまわないわ。いつ始まったんだって、変わりない。だって私たちの目の前に広がってるのは過去じゃなくて、未来なんだから。


「行こうか」

「うん」


 私の長い夢は、まだまだ始まったばかり――。




これにて夢見の国のアリスは完結です!

4年もの長い間お付き合いくださり、本当にありがとうございました!


とりあえず感動のかの字も存在しなかったこと、それどころか後味すっきり感もないこと、途中から話が超次元に吹っ飛んでいったこと……ごめんなさい(土下座)

作者が混乱していたくらいなのでついてこられた読者さまはいない……ような、気がします(作者

それでも少しでも楽しんでいただけて、なにか心に残るところがあったならば作者としても幸せです。


全体的に分かりづらい部分が多かったかと思いますが、結局『夢見の国』が夢なのか現実なのかは、……皆さまのご想像にお任せしたいと思います。

結局ありすもチェシャ猫も嘘つきですから。

大体嘘をつかない人なんていないよね、うん(何

最後はひたすらありすとチェシャ猫がイチャイチャしてましたし……ハク君が空気だったし……一番の貧乏くじを引いたのは彼だったんでしょう、可哀想に。

でもまあイケメンになった報いだと思って←

ちなみに2年経ってもありすはちんちくりんのままです。でもこっそりチェシャ猫だけかわいいとか思ってればいい。

関係ないですがミルク君はきっとショタの道を突っ走るんだろうな←

そんなどうでもいい後日設定を考えてたり。


こんなふうに最後まで作者ですら突っ込みどころ満載な話でしたが、あたたかい感想やたくさんのお気に入り登録、本当にありがとうございました。いつも励みになっていました。

最後まで読んでくださった方、活動報告にもコメントを下さった方、こんな作者と仲良くしてくださった方々。

時間がかかりながらも無事完結まで持っていけたのは、皆さまのお陰です。感謝してもし足りません。

願わくは、またどこかでお会いできますよう。


今後の活動については、後日、活動報告にて報告させていただくつもりでいます。

よろしければ、思い出した頃にでも覗いてやってください(笑)


それでは、今まで本当にありがとうございました!



2012.8.26 百華あお

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ