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センカンの大和  作者: ZTAK


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13/20

(11)期日前投票11日目


この日は大和にとって、久しぶりの完全な休日だった。

朝の京都はまだ観光客も少なく、静けさが街全体に残っている。大和は市内の上京区、西陣地区にある玉蔵院へ向かった。

この寺は観光地として広く知られているわけではないが、月に一度、中旬の土曜日に座禅会を開いており、誰でも無料で参加できることで一部の人々には知られている。

境内に入ると、外の喧騒とはまったく異なる空気が流れていた。

この日の座禅会では、住職が出水地区の歴史について語っていた。

出水とはかつてこの一帯が平安京の西側に位置し、地下水が豊富であったことから、道がしばしば水に浸かったことに由来する地名であるという。

住職の話は歴史解説にとどまらず、どこか軽妙さを含んでいた。

「実はですね、うちの寺には出水七不思議のひとつがありまして」

参加者が静かに耳を傾ける。

その中の一つが、円山応挙が描いたとされる掛け軸「幽霊図」の行方不明事件だった。

住職は少し間を置いてから、冗談とも本音ともつかない口調で言った。

「ここだけの話ですが……戦後に寺の財政が厳しくなりましてね。実は売却してしまったのが真相です」

一瞬、場に静寂が落ちる。

しかし住職は続けた。

「それをあえて七不思議にしてしまった。そういうことにしておいた方が、話としては面白いですからね」

参加者の間に、静かな笑いが広がった。

大和はその空気を感じながら、寺という存在が単なる宗教施設ではなく、歴史と現実が混ざり合う場所であることを改めて感じていた。

この寺にはもう一つ、達磨図が所蔵されている。

それは東福寺の僧侶の明兆による作品で、「絹本著色芦葉達磨図」と呼ばれているものだった。

芦の葉の上に乗り、長江を渡る達磨大師の伝説を描いたその図は、軽やかでありながらどこか緊張感を含んでいる。

(人は不安定なものの上でも、前に進むのか)

そんな考えが一瞬、大和の頭をよぎった。

やがて座禅の時間が始まり、境内は再び静寂に包まれた。

大和は目を閉じ、呼吸だけを意識する。

投票所の喧騒も、電話の音も、書類の束も、この瞬間だけは遠くにあった。

そしてそれは、再び始まる選挙業務に向けた、わずかな休息でもあった。

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