第81話 鍛冶部門寮は
ミュヘンたち鍛冶部門はカレーパンを作ろうとしていた。
かなり高難易度のあるパンではあるが、ルチャルもザイルも好物であることは知っていたからだ。
(好物を題材にしてよくないとも言われていない。勝ち負けは本来関係ないのだが……)
どうしたって、互いの力量を確かめ合うのには勝負事に持ち込んでしまうのは仕様がないこと。
文官寮は比較的最近ではあるが、ルチャルが基礎の指導をしたことで参加を許可しているのだ。前回の研修より期間が空いていても、どうしたって騎士寮の方が上なのは明白。
だが、それに甘えて、技術を磨かないというわけにはいかない。
鍛冶職人のフィンドが今開発中の『ドウコン』という機材が完成すれば、パン作りの発酵時間がぐっと短くなるとは言うが……それがいつ出来上がるのかもわからない。その間は、ミュヘンたちも自力でパン作りをなんとかしなくてはいけないのだ。
今日もこの研修のために、早朝から大量に仕込んで状態維持を目指した。
「料理長。生地の分割、ベンチタイム。大丈夫かと」
「どれ」
副料理長を主軸に料理人たちを動かしてみたが、まずまずの出来。ミュヘンがルチャルの指導を一番多く受けているため、手触りから確認してみたところ……なんとか仕上がっていた。
「どうでしょう?」
「大丈夫だな。皆、落ち着いて、フィリングを詰めていくんだ」
「「はい」」
「俺も始めよう」
生地を台の上で軽く押しつぶし、フィンドが各寮が使えるようにと用意してくれたあんベラで丁寧にカレーのフィリングを詰めていく。最初は強引に詰めようとしていたミュヘンでも、少量から詰めていく用法を学んだため、最初ほどの失敗は少ない。
それでも、ルチャルの視線を感じるので注意されるのではと怯えてしまうのはどうしようもなかった。
(やれやれ。自分の子どもくらいの年齢の職人に、ここまで翻弄されようとは)
ガイウスも気に入りの使者。
自国では筆頭弟子を名乗れるくらいに地位のある存在。
それを誇張しないばかりか、指導は手際よく、かつ、厳しいものばかり。
よく心が折れないものだと、ミュヘンも自分で感心したほどだ。料理人の何人かはその日のうちに意気消沈した者もいるくらいなのに。
(それだけ。あの子は凄いということだ。職人としても、人間としても)
謂わば、神童とも言える人間。それをひけらかしたりもしないし、技術の伝達にも惜しみなく接してくれているのだ。だからこそ、彼女の期待にも応えるべく、今日のパンも『食べられる』ものに仕上げなくてはいけない。
まだまだ、彼女の満足のいく味を、ミュヘンはルチャルから認めてもらっていないのだ。マルシスたちが先に合格点をもらっていても、それは仕方がないこと。今回の目標は、その合格点をもらうことが大事だと思っている。
綴じ目を下にし、形を整えたら副料理長がパン粉をまぶしていく。そして、別の料理人たちが天板に並べて……濡れ布巾を被せていった。
次回は土曜日〜




