第80話 騎士寮は
マルシスら、騎士寮はあんぱんをつくることになっていた。
カレーパンも考えたが、ルチャルが審査員なため好みを考えるとあんぱんの方が試食でもよく食べたりしているのを覚えていたからだ。料理人たちへの指導もシャルルを中心に少しずつ浸透していったが、今回はふたりで挑んでいる。
慣れたふたりで、ということもあるが手早く出来る態勢をとるためだ。
(この訓練でそれぞれの寮の力量を試すためとはいえ……どうしても、勝負事に近いものになってしまう)
鍛冶部門も、文官も。
ルチャルが来る前は、ぼそぼそで食べにくい黒パンしか知らないでいた。
しかし、彼女が使者として来訪してきてから、その黒パンをも食べやすいものとして扱ってくれたのだ。セルディアスを中心に広まった白パンだけでなく、『個性』あるものとして黒パンもきちとしたものだと認識してくれたのだ。
そんな彼女のために作るのであれば、やはり好みであるあんぱんの方がいい。
小豆は事前に炊いて仕込んであるため、あんベラで丁寧に包餡を仕上げていく。このコツを掴むのにどれほど時間をかけたことか。それだけは、他の寮に負けてはいないと思うが。かけた時間よりも技術をうまいこと活かさなくてはいけない。
「料理長、ケシの実も準備出来ました」
「うん、ありがと」
包みが終わったら、ケシの実の器に軽く天辺を押し付けて付着させる。
ルチャルが言うには、『ゴマ』というものがあるといいらしいが。代用だとケシの実でも十分だそうなので、香ばしさをつけるのにこの手法をとったのだ。
二次発酵を済ませたら、あとは焼くだけ。その間に片付けを並行しておくのも忘れない。料理人としても当たり前のことだが、ルチャルにも口酸っぱく言われているからだ。料理したら、下っ端に任せてそのままではよくないと。
料理人もだが、人の上下など、身分を除けばほとんどない。
ルチャルの師や祖は貴族らしいが、関係なく国民らへの技術指導をしているそうだ。ルチャルも豪族なの以外は養育機関で学んだ以外、特に上下のいざこざはなかったとか。
この公国も少し特殊ではあるが、彼女の国のように自由な交流があるとは言えない。公主、副団長、ザイルはともかくとして。
(彼にも喜んでもらえるパンを……作れるようにならないと、公主様の口にも合わないからなあ)
彼らは幼馴染みということで、食文化にも非常に富んでいる。ルチャルが来訪してきてからは、彼女の美味なパンを口にしているため、余計に拍車がかかっているのだ。試作を召し上がってはもらっていても、残しはしないがまだまだと思うところがあるのはシュートから聞いてはいる。
だからこそ、日々の努力を惜しまないように、と、ルチャルにも言われているのだ。すぐに出来ては、邁進して技術が衰える可能性が高いから。
(そう。今回で終わりとかではないんだ。ルチャルさんが『美味しいですよ』とまず言ってもらえるようにしなくては)
なので、窯に入れて焼き上がるまでの間。マルシスはシャルルと調理台を丁寧に片付けるのだった。
次回は木曜日〜




