第79話 公主も参加したかった
ガイウスは少し残念な気分でいた。
執務は今日もあるので仕方がないのだが、幼馴染みのザイルが楽し気な催し物に参加していると知ったら羨ましい気持ちになったのだ。
報せてくれたのは、同じ幼馴染みで近衛騎士団副団長のシュート。彼も参加はしたかったらしいが、執務に隊士らの訓練があるからと残念がっていた。
(各寮の料理人らが、競って作るパンか。ルチャルもだが、ザイルまで参加だなんて……)
ガイウスの倍くらいに食事を平らげることの出来る彼だからこそ、ルチャルに参加を誘われたにしても。ガイウスとて、城の主だ。美味しいものは食べたいし、日頃ルチャルのパンで味覚が鋭くなってきたのだから、食べ比べもしてみたい。
しかし、執務があるので断念。
ルチャルには、一番うまく出来た寮のパンを進呈するのを頼みはしたが、それはすぐではないだろう。
ガイウスは一から作るところを見たことはないが。パン作りはとにかく時間がかかる料理。鍛冶部門に色々道具の依頼はしているそうだが、一朝一夕で出来上がるものではないから、まだ完成ではないそう。
「……少しくらい。いや、ダメか」
ちょうど、シュートが書簡を持ってきたので目が合うなり互いに苦笑いすることになった。
「待ち遠しいのか?」
「ああ。どんなパンが来るのか非常に楽しみでもあるが、参加できないのが残念で仕方ない」
「寮と同じ食事をしているからって、公主がそこにいたら料理人らがさらに緊張するだろ?」
「ふふ。わかっているさ」
命令することは可能だとしても、料理人らの闘志を無駄にさせてはいけない。ルチャルは指導係だが、実年齢と見た目が幼いので親しみやすさを持てる。対して、ガイウスは城の主なため、料理人らの緊張感が落ち着かなくなるのは仕方がない。
なので、再三再四なくらい悩んでも、行くに行けないのだ。
「あくまで、『研修』らしいからな。互いの力量を見せ合う意味で、いい刺激がもらえてるんじゃないか?」
「そうだろうな。ルチャルの祖国は本当に面白い仕組みを取り入れている」
「ザイルも任務遂行から暇しているが、今日は絶対参加するって意気込んでたしな」
「……羨ましい」
「とりあえず、俺らとかはあとで食わせてもらうしかないな」
「仕方ない」
昼餉にも程遠い時刻だから、まだパンはここに持ち込まれてはいない。
シンプルなパンだとしても、ガイウスはこの部屋で初めて食べさせてもらったあの感動を今でも覚えている。黒パンとまったく違い、甘みと香ばしさが絶妙の生地。あれをここ数か月、毎日のように食べさせてもらっているが……公国で、その食事が国中で出来るようになるにはまだまだ時間がかかる。
城の中でまず試し、技術者が増えてから国民へ。
そこまで念入りに計画しないと、技術の浸透がうまくいかないのはルチャルがよく言っていた。
基礎を叩き込み、手順を覚えたが最後ではないと。
そこから、自然と馴染むように作れるようになってからが本番。
アレンジなどの応用については、ルチャルくらいの職人になってもまだまだ甘いところが多いそう。であれば、セルディアスで生活している祖と師はどれほどの逸材なのか。
話を聞く限りでは『跳んでも追い付かない』くらいの美味をつくり出せる職人らしい。
いつか、友好国の城主としてはあちら方に出向いてお会いしてみたいと思うほど。それは当分先のことなので、今は仕事をしながらルチャルたちが来るのを待つしかなかった。
次回は火曜日〜




