第78話 三寮合同研修
教える箇所が増えたため、ある程度の基礎が出来てからルチャルは考えていた『研修』を実行することにした。
前回の二か所合同訓練と同様に、最後の文官寮を加えての合同訓練と言ってもいいだろう。お互いの基礎が整っているかを見直し、情報を共有する機会。個人個人の力量を見極めれる機会にもなる。
ルチャルは、あくまで師と祖の基礎を彼らに伝えるまで。
これから、毎日の食事にしていくのは城の料理人である彼らだ。基礎を応用にどう活かすまでは下手に口出ししない。
と言っても、仕上がりが不十分なときは声をかけたりするが。
「っつーと、今日はパンが食い放題ってことか?」
「雑な解釈だけど、間違っていないよ~」
ザイルも試食係として、今日は参加している。ルチャルのパンの美味しさを一番に理解しているからと、比較を述べるのと無尽蔵な胃袋を見込んで頼んだのだ。任務もあれ以降特にないので、騎士らへの訓練指導以外は基本的に暇なため。
「騎士寮が一番というのを見せてやるぞー!!」
「鍛冶寮も負けん!!」
「はっは! 文官が最後だからって、基礎はそれなりに叩き込まれているさね!」
それぞれの料理長が意気込んでいる様子を見る限り、ルチャルは見応えがありそうな調理訓練になる予感がした。
シュスイとふたりで教えてきたとはいえ、それぞれだいたい『ひと月』は基礎の土台をたたき込んだのだ。文官寮に関しては、たしかに一番最近であっても料理人たちのやる気はほかの寮にも負けていない。
「は~い。今回は各々好きなパンをつくってください。あたしとザイルのふたり分で大丈夫ですよ~」
「「「応!!」」」
「やる気すげぇな~」
「じゃ、はじめ~!!」
スタートは生地の仕込みだけは時間がかかるから、そこは事前に用意させてある。
分割、ベンチタイム、成形、焼成。
それぞれを手際よくさばけるかで、仕上がりがまったく違うものになるのだ。ベースを同じにして、味の比較があまりないようにするのが今回の研修のポイント。
あくまで、日常の食堂利用者が『美味しい』と言えるパンを作れるようになるのが目標だから。
『ほい。オレンジジュース~』
シュスイも食べなくはないが、ルチャルらの話し相手がメインなので茶請け代わりの飲み物を作っていた。果物丸絞りの濃厚ジュースを持って来てくれたらしい。
「わーい。オレンジ~」
「お? 俺もいいのか?」
『いいさね。今日はあんさんも関係するんやし』
二次発酵に時間がかかるので、ここはのんびり構えているしか出来ない。
一次発酵の生地作りももちろん大切だが、食感がいのちの二次を大事にしないと焼いたときに膨らみが悪くなるし……せっかくの味も台無しになるからだ。
(あたしに、どんなパンを食べさせてくれるのかな?)
幼くとも、セルディアスの第三世代の中で筆頭弟子とも呼ばれたルチャル。
多くのパンを口にし、舌の肥えた彼女を納得させるパンが出来上がるかどうか。養育機関の修行時代を思い出すようで、本人はそれなりに楽しみになってきていた。
次回は土曜日〜




