第82話 文官寮は
サナら文官寮は、ルチャルに指導を受けたのは一番最後ではあっても。
基礎基本の生地については、ほかの寮にも負けないくらいに叩き込まれたとサナは思っている。
計量、こね、発酵。
これらは黒パンにもあったが、黒パンよりもはるかに手間がかかる段取りだった。それでも、あの白パンの美味しさを知ってからは寮に籍を置いている者たちに食べてほしいとも思えるくらいに、修行には意気込んでいる。
そんな中での合同研修。
勝ち負けは特にないのだが、ルチャルとザイルが審査して『どれだけ技術が身に付いた』のかを確認するための研修なのに……ほかの寮とかは勝ち負けを意識している節がある。しかし、文官寮の方も似た雰囲気はあった。特に、副料理長以下の若手料理人たちについては。
「あんたたち? 今日はルチャルちゃんに美味しいパンを食べてもらえるように作るんだ。生半可な気持ちじゃないのはいいけど、勝ち負けは関係ないよ?」
「「「「は、はい!!」」」」
料理長のサナが喝を入れなければ、半分浮足立つ気持ちを落ち着かせられないのが少し情けない。
とは言え、普段から交友する機会が少ない各寮が集まって料理をするのだ。この機会を活かし、どれだけ力が身についているかを確かめなくてはいけない。
ただ、文官寮についてはまだ包餡をほとんど教わっていないため。作るのはロールパン。オープンサンドにして審査に挑むのだ。基礎基本重視でルチャルたちに立ち向かなくてはいけない。
肉も卵もだが。
魚も野菜も挟んで美味しいロールパン。
これを寮で振舞ったら、毎回おかわり合戦ができるくらいの人気になってしまったくらい。
だからこそ、自信を持って挑むことが出来る。なんて、サナも結局は勝負が好きなので内心うきうきしてしまっているのだ。
(あ~。ほかのパンも作ってみたいけど。あたしたちじゃまだそこに足を突っ込むことも出来ない。今できることをするしかないんだ)
欲張ってはいけない。
しかし、羨望はどうしても止められない。こればかりは、公主であるガイウスの指示もあったから仕様がないのだ。たまたま、騎士寮が一番最初だったというだけで。
(そう。たまたまさ。あの子はそんな順番でも惜しみなく、自分の技術を教えてくれてるんだ)
黒パンのいいところもきちんと伝えてくれた。
おかげで、そのパンを無駄にしないことでメニューにもちゃんと根付くことが出来た。
今でも文官らでシチューとセットでほしいという者らもいるくらい。
黒パン自体も、サンドイッチに出来なくないと教わったらこれまた美味しかった。それも突き詰めていきたいが、今日はロールパンだけに集中していく。
黒パンはもうサナが得意とするパンなので、こだわる必要はない。代わりに、【枯渇の悪食】で失いかけたレシピを再現する方が大事だ。それが白パンとかなので、今日の研修でいかに大切かも学ばなくてはいけない。
「トマトの水切りは?」
「腸詰めの茹でと焼き終わった?」
「はいはい。スクランブルエッグ焼けました!」
「ほいよ! 皆、パンの粗熱取れるまでにそれも冷ましな?」
「「「「はい!!」」」」
どこの寮も同じだが、食堂は連携が取れないと配膳に時間がかかってしまう。
その連携をうまくするかどうかで、料理の仕上がりも変わっていく。
ルチャルが来たおかげで、その基本も忘れかけていたこともあったが……この様子なら大丈夫だろう。それだけ、美味しい料理を知ってしまったのだから。
次回は火曜日〜




