第70話 職人の食事量
「毎回思うんですが、ルチャルさんもそれなりに食べますよね?」
騎士寮の朝ご飯と少しずらして、ルチャルも食事をするのだが。
今日はたまたまフェルナンが公休日ということもあり、いっしょに食事をすることになったのだ。
テーブルに乗っている皿の数とボリュームを見て、そう思われるのも仕方がないだろう。なにせ、ルチャルは『燃費が悪い』のだから。
「子どもというより、あたしが食べ盛りらしいので」
「大人顔負けくらいに食べますよね? 僕よりも少し多いくらい」
「けど、ザイルほどじゃないですよ?」
「彼は少し異常です」
今日のパンの味確認も兼ねているが。ルチャルは幼少期から燃費が悪かったので、かなり食べるのだ。修行時代からも自分で作ったものは出来るだけ自分で食べることをしているのに……ほとんど太ったりしない。それだけ、身体が欲しているという証拠なのだろうと師や兄弟弟子らに苦笑いされたものだ。
マルシスたちのパンの味はまずまずだが。クリームシチューについてはかなり上達したので、あとでおかわりしようと思うくらい食べ進めていく。
向かいに座っているフェルナンも男性らしい量を食べているが、ザイルと比較すると控えめに見えてしまう。
『ルチャルの寝ぼけに対応する時にも使うけど……最近、自作のパンがなくなりそうだねぇ?』
「あ~。ここんところは作ってないから」
「ザイルにも聞きましたが。そんなに、寝起きが酷いんですか?」
「ほかの人が起こそうとすると、技をかけてしまうんです……」
『だから、わっちが代わりに起こすんだよ』
「大変そうですね……」
「今日は、ちょっと自分用のパン作ってみます」
鍛冶部門の方で、せっかくだから全部ルチャルが仕込むのを見せてやろうと思った。
基本的なテーブルパンのひとつ、『コッペパン』を仕込んで具材をいろいろ挟むサンドイッチ風に仕立てようとした。
ロールパンよりも少し難しいコッペパンの成形を教えるいい機会だと思い、ルチャルはミュヘンらに成形を見せてあげたら。
「……筒状の、パン??」
「細長く、ふんわりした丸パンの類だと思ってください」
「そのまま食べれる、のか?」
「それでもいいですけど。切り込みを入れて、具材を挟んだりすることが多いです」
食事タイプから甘いものまで。多種多様なアレンジを可能とするコッペパン。
これも『揚げパン』に出来るので、あとでおやつ代わりに出来るからと試作用に取っておこうと決めた。
シュスイのオーブンで焼けたら、天板の上には細長くて表面がこんがりきつね色の美しいパンが乗っていた。
「……これが、コッペパン?」
「冷却で冷ましたら、波刃包丁で切り込みを入れて」
あらかじめ用意していた具材。今回はスクランブルエッグを用意していたので、挟んだらケチャップをかけて出来上がり。小腹が空いたときに、卵とケチャップがあれば作れる即席サンドイッチ風だ。
いい匂いが鼻をくすぐったのか、ミュヘンの喉が上下に動いたのを見逃さなかった。
「……こんな食べ方が」
「さあさ、おひとつ」
「……いいのか?」
「あたしも食べますし」
「じゃあ……」
まだほのかにあったかいパンを持って、はもっと、口に頬張っていく。
ルチャルとしてもまずまずの仕上がりになったコッペパンはふんわりしていて表面は香ばしく。スクランブルエッグは半熟加減が好みの出来になっていて、パンとの馴染み方がよく出来ていた。
ひとつ食べ終わるのに数分かかったが、ミュヘンは半分くらい食べたところで止まっていた。
「? どうかしましたか?」
「……その。めちゃくちゃ、美味くて」
「あたしは、職人ですから!」
「……改めて。痛感させられたよ」
シンプルなパンでも手抜きをしたりしない。それが職人としての矜持もあるのだから。
ひとまず、オーブンサンドのレパートリーを知ってもらうのに、ほかの材料も借りて仕上げていくことにした。
次回は火曜日〜




