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パン職人の弟子の弟子。スローライフの旅へ出発  作者: 櫛田こころ


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第69話 合同練習会

 部門ごとの訓練も大事だが、そろそろマルシスたちの方も気になってきていた。


 なので、ルチャルはある提案をしてみることにしたのである。



「第一回、包餡の合同訓練でぇす!」



 場所は広いことを理由に、騎士寮の厨房を使うことにした。料理するのも食堂側を使って、全員で披露する。


 なかなかに大胆な行動だと思われるが、互いの訓練のためだと提案すればそれぞれの料理長も頷いてくれたのだった。



「騎士寮、鍛冶部門関係ありません。お互いの成果を見せ合いましょう~」



 ルチャルは主催者なので、出来上がるまでは口出ししないことを自分に科した。


 マルシス、ミュヘンらはそれぞれの力量がどれくらいになるのかを……互いに向き合うことで、確かめることになる機会。このチャンスを逃すわけにはいかないと思うはず。


 たとえ、先に騎士寮の方が先だったとしても。日々の努力の度合いは個人差があるのでうまくいくかいかないかは違ってくるのだ。


 今日の包餡内容は、『あんぱん』。


 カレーは一番難易度が高いため、間をとってルチャルはあんこを提案したのである。



「よーい、はじめ!」



 ルチャルが合図を出せば、それぞれのテーブルで作業が始まっていく。


 生地の発酵などは既に全員で済ませてあるので、本番はここから。


 どちらが丁寧に、より形よく包めるのか。これまでのルチャルの指導で訓練してきた成果を見せるための会合なわけだが。


 鍛冶部門の方が、もたつくのは仕方がない。まだこの練習方法に切り替えて一週間程度しか経っていない。先にひと月以上も練習を重ねてきた騎士寮の方が手際がいいのは当然のこと。



『ふ~ん。まあまあ、さね?』



 しかし、その当然も契約精霊のシュスイの前からしたら大したことがない。辛口コメントをもらうとマルシスらもまた苦笑いしてしまうのも無理ないのだ。彼女に散々しごかれてここまできても、『まあまあ』と評価されるくらいにはなったのだと思うしかない。


 逆に、ルチャルは鍛冶部門をメインに観察していたが。ヘラを使った包餡作業にもたつく料理人がほとんど。互いの手元を見る余裕がないのか、騎士寮の方を見ようともしないのは少し残念に見えた。別に競い合いのつもりでこの会場をつくったわけではないのだが、若い料理人たちにはその感情が無意識に出てしまうのだろう。



(まあ。あたしも養育機関にいた頃は、嫉妬の対象にされていたしね?)



 いくらか失敗しても、すぐに次の練習で活かすことが出来る。


 その才能を見出した、師に導かれて筆頭職人になれたのだ。この場でもその対象になるのは変わりないが、『使者』であるお陰で必要以上に陰口は囁かれない。むしろ、自分たちの手際の悪さを改めて自覚する機会だと思っているようだ。



「……よし、十二個。シャルル、そちらは?」

「私も十二個出来ました。発酵させましょう」



 料理長と副料理長の手際の良さを見せつけられ、鍛冶部門は一部落胆したような表情を見せるが……やはり、練習期間の差と個人の力量もあるから仕様がないのだ。



「うん。だいぶきれいに出来ていますね? 半分は揚げて、半分は焼きましょうか?」

「「そうします」」

「鍛冶部門の皆さん~。手元見るのもいいですが、ほかの人の出来栄えもちゃんと見ましょうね~?」



 ルチャルが指摘を入れれば、さらに落胆するのも数名。ミュヘンはマルシスらの天板を見て、目を丸くしていたからまだ悪くない。


 とりあえず、お互いの成果を見せ合う機会としては悪くないことだったので、ルチャルはときどきこういうのやろうと料理長らに再提案することにした。

次回は土曜日〜

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