第67話 フォローも大事だが……
「はい。そこまで」
ルチャルが今しているのは、ミュヘンらが『包餡』の作業に挑戦しているのを見守りつつも
指示をしているところ。
いきなりの初心者が失敗するのは当然。ルチャルとて、修行前の子どもの頃は何度も手を汚したほどに苦労した工程だ。
それを、大人だというのは関係がない。誰もが初めてチャレンジすることに失敗はつきもの。そこをフォローするのも指導する役目の者が請け負う。修復不可能になる手前で、ルチャルが止めに入って生地を無駄にしないように包み直すのだ。
この繰り返しを幾度かしても、ミュヘンを含めて、なかなかモノに出来た面子はいない。
それくらい、包餡は至難の業とも言える作業。
「「「うぅう~~」」」
「……一日かそこらで出来ないのは、わかっていたが」
失敗せずして、成功に導くことは出来ない。
こればかりは、経験がものを言う。
『職人』とて、はじめから苦難を知らずして修行に明け暮れたわけではないのだ。
レシピの損失を元に戻すのに、どれほど苦労してきたのは祖たちが一番よく知っている。それを知らないよその人間に伝えても、『出来る』と『出来ない』の差を伝えたところで……よくわからないと返答があるかもしれない。
だからこそ、スパルタと言われようが、ルチャルはこんな指導法をしているのだ。ほかの兄弟弟子たちは同じようにしているかどうかまではわからないが。
『しっかし、全部が全部ダメとはねぇ?』
シュスイも容赦のないツッコミを入れたため、ミュヘンらはさらに撃沈。
カレーパンの山が出来るくらいの量を挑戦させたので、そこはたしかに仕方がない。次のパン粉をつける工程も、素手だと感触に慣れないのかでまた彼らはとまどっていたがやるにはやらせた。
最後の『揚げ』の工程については、一番容赦していないため、ミュヘンを中心にしてよくよく指導していく。
そうして、出来上がった『失敗作』のカレーパンを食べさせたが。
「……不味くは、ないが」
「穴が空いたりして、大変だったでしょう?」
「綴じ目の難しさを痛感したよ」
「これが甘いものだと、もっとくどく感じますからね?」
「甘いものまで?」
「じゃ、明日はドーナツをつくりましょう~」
同じものを毎日つくるのもわるくはないが。
胃が受け付ける食事量を踏まえると、味変したいだろうし、目にも優しくなるのでルチャルは『気分転換』を推奨しているのだ。
祖も、師も。毎回毎回同じパンを作り過ぎると口が受け付けにくいことがあると言い切るくらい。
なので、フォローも兼ねてこの気分転換は大事なのだ。
「君のいた国では、これ以上の職人がいる……んだよな?」
「師と祖がその代表者です。あたしなんて、筆頭と言えどまだまだひよっこですよ?」
「君くらいで、ひよっこ??」
「第三世代の弟子の中でだけです。兄弟弟子たちはもっと頑張っていましたから」
出立前にも、見送りはあったが直接は言葉を交わしていなかった上の兄弟弟子たち。
彼らは彼らで、今セルディアスでどのように過ごしているのだろう。のんびりゆったりと、後任育成に取り組んでいるのだろうか。
次回は火曜日〜




