第66話 鍛冶側にも、包餡を伝授
「今日は『包餡』のレクチャーをします」
ルチャルは、事前にキーマカレーの仕込みをミュヘンらに指導して、冷めきったら具材に使うことを伝えた。
ミュヘンにはカレーパンを一度食べさせているので、『あれか』と納得してもらっているが。ほかの料理人たちには、まだ食べさせたことがないのでルチャルが試作するところから見てもらうことに。
ひとりだと瞬間的に終わってしまうから、向かいにシュスイがいることで緊張感を持たせた。そうでもしないと、ルチャルは自分のペースですばやく作ってしまうからだ。
「分割して軽く一次発酵した生地をガス抜きして、ひらたくしたら、利き手に乗せて……このあんベラに、冷ましたカレーのフィリングを適量載せたら」
「……生地の中に、包むと?」
「一気に入れず、少しずつです」
ミュヘンには少し理解してもらえたのか。その言葉で周りの料理人たちにも『なるほど』と頷いてもらえた。綴じ目をきれいに整え、カレーがはみ出していないかを確認したら。試食できる数分を同じスピードで包んでいく。
『この生地をそのまま揚げてもいいが、パン粉をまとわせて油で揚げればさらにサクサクするさね?』
「……俺が食べたときの、あの粒はパン粉だったのか?」
「今日あらかじめ用意したのもそのためです。粉を少量混ぜた水にくぐらせて……そこから、パン粉のボウルに入れて、しっかりまぶします」
今回は出来立てをはやく食べて欲しいため、時間短縮で二次発酵を促す。ほどよく膨らんだ生地を、熱した油鍋にやけどを注意して投入。じゅわ、っと、油の爆ぜる音がルチャルには食欲を掻き立てる音にしか聞こえない。
両面をしっかりと揚げたら、あとはバッドに入れて油を切る。
この繰り返しを人数分出来たら、紙に軽く包んで行き渡らせた。
「彼女が言うんだ。この料理は美味いぞ」
ミュヘンが料理長としての言葉を彼らにかけ、熱いので気を付けながら料理人たちがかじりつくと、ほとんどの者から『美味い!』の声が上がった。
「周りがサクッとしてて!」
「中身はちょっと辛いけど。パンとめっちゃ合う!!?」
「こんなパン、食べたことない……」
「ほーあん、って、むちゃくちゃ難しそう……」
などなど、それぞれの感想をもらえたので、ルチャルは満足した笑顔になれた。
要修行なのはもちろんだが、職人としては美味しいものを素直に美味しいと言ってくれるのがなによりのご褒美だ。物とか勲章などで評価されてもあまり嬉しいものではない。
「さあさあ! 最初はぐちゃぐちゃになって当然!! ミュヘンさんから順にやりますよ~?」
「……マジか」
「マジもマジです! マルシスさんたちも出来るようになるんですから」
「……わかった。だが、もう少し、ゆっくりにしてくれ。早くて見えなかった」
「あらら。そこは注意しますね?」
シュスイの見守りがあっても、自分のペースで作業してしまったのはよくない。
仕方がないが、作業を区切って、その中で『出来る』『出来ない』を指導し直すところから始めることにしたのだった。
次回は土曜日〜




