第65話 ぼろぼろになって、仰天
「いぇーい! 一本取れた〜!」
「……っくしょー」
ルチャルがザイルと組手を始めてからしばらくの後。
勝ったのはザイルではなく、断然体格差が不利なはずのルチャルだった。
これにはシュートもだが、団長のライオスも目を見張るものだと凝視するしかなかった。
(……瞬殺、に近かったぞ)
ライオスの目には、ルチャルの攻撃が光の一線のように動いたくらいしか見えていなかった。
相手が、そこそこ腕の立つ騎士ならともかく。彼女の相手をしたのは、つい先日SSランクの冒険者資格を取得したばかりのザイル。
若いながらも、英雄級のランクを保持しているザイルとの組手で『一本』を取れるはずがないのに。
たった十歳程度の子どもが、相手が半ば本気を出しても無理だった。地面に倒れさせたのだ。
これには、ほかの騎士らも見ていたので、ぽかーんとなってしまうのも仕方がない。団長のライオスからしても、『あり得ない』以外の回答が出てこなかった。
「ちくしょ~。これで、五度目かよ……」
「あたし、マックス先生には指導受けてたからねぇ?」
「そう言ってたけど。毎回負けるのも、俺としては……」
「は? ルチャル? マックス先生って」
「マックス=ユーシェンシー先生。御歳はそこそこ言っているけど、まだまだ指導員は現役なんですよ。ご子息のミラクル様も全然敵わないんですよねぇ?」
「おい、ザイル。英雄級の指導受けてるんだから、かないっこないのか?」
「マジで、隙が見えねぇ……」
シュートの質問にも、ザイルはしっかりと頷いていた。
たしかに、ライオスでも知る英雄級の元SSランク冒険者だったマックスが指導した『弟子』とくれば、幼くともザイルが敵うはずがない。
繰り出してくる相手の癖などを見抜く、慧眼の持ち主。
それが本業ではなく、ただの運動不足解消のためだけというのが……普通なら、おかしいと思うだろう。
ルチャルの本職は、パンを含めた料理をこの国に伝えに来た『職人』なのだから。
「肩の関節に余分な力が入っているし。足腰も、もうちょっと鍛えた方がいいよ?」
「く~!? それ毎回言うよな!?」
「使えているようで、使えていないからだよ。鍛え直しの余地あり」
「……ルチャル。お前さん、騎士に転向とかしないのか?」
「まさかぁ? あたしは職人ですよ? シュートさん」
「惜しい……惜しい人材です! やはり、僕にもご指導願えませんんか!?」
「え? フェルナンさんに?」
「あたしも!!」
「エクシスさん?」
などと、次々に彼女を囲むので、ここは団長らしく……咳払いで一喝の代わりを示した。途端、ルチャルとザイル以外が姿勢を正したので、ひとまずは落ち着いたようだ。
「無理強いは良くない。彼女の本職を違えるようなこともしてはいかん。……ルチャル。料理長らへの指導とかは、今日はいいのか?」
「はい。今日は課題を与えたので、このあと見に行く予定です」
「……そうか」
単純に遊んでいるわけではなく、時間潰しも兼ねていたとは。そろそろ時間が迫っていたのかで、ルチャルは訓練場をあとにした。ザイルは残ったので、ライオスに模擬剣を投げつけてきったが。
「久しぶりに、打ち合わねぇか?」
「……団長になってからは、久しいな?」
「だろ? 俺の実力もまだまだ未発達だ」
「……そうだな」
幼い同行者にああも言われてしまっては、鍛えないわけにはいかない。
それに、いかにザイルが今SSランクであれど、騎士団長の誇りとしては負けるわけにはいかないのだ。
まずは片手で様子を見ようと、構えをすればすぐにザイルは膝をうまく使って間合いを詰めてきた。
次回は木曜日〜




