第64話 青年の弟子①と女性の弟子①の壱
サルシェは、旅の途中でふと思い出すことがあった。
それは妹弟子のルチャルのことだ。
筆頭弟子とは言え、まだまだ幼い彼女は今どこで何をしているのかを。
「どうかしたかい? サルシェ」
同じ兄弟弟子であり、恋人でもあるマージュに声をかけられると足を止めていたことに気づかないでいた。それくらい、妹弟子のことが気になってしまったのだろう。
「ふふ。ごめんなさい、マージュ。ルチャルのことなの」
「ああ。そろそろ、こちらも旅立ってふた月近く経つしね?」
元気にしているだろうか。一番年下の使者として、彼女はどこに出向いているのか。
マージュも足を止め、いっしょに語り合うのに収納棚から茶菓子になるパンを出してくれた。
今日はあんこの多いあんバターサンドだった。
サルシェもだが、弟子たちも好物のお茶菓子のひとつである。
「あの子は私たち以上にスパルタだから。ある程度の実力をつけさせるために、ひとつの国にとどまっているかもしれないわ」
「そうだね。僕らでもひと月以上はかかった」
ある程度。
その差は個人の力量による。
『枯渇の悪食』によって、正しくないレシピが蔓延していた頃に比べれば、マシな技術を。
そこからは彼らの探求心次第。そんな教え方をする弟子もいれば、そうじゃない者もいる。ふたりの知るルチャルは後者の可能性が高い。
今頃、どの国でどれくらい、料理人たちを厳しく教えていることだろうか。
気になると、故郷のセルディアスで四世代目以降の弟子らに指導していたしごき方をついつい思い出してしまうものだ。
「優しそうに見えて、一番の鬼教師はあの子だったもの」
「同世代の僕らにも容赦しなかったからね? 水温の具合とか、あの子の方が適格だった」
「祖の再来とまで言われていた子だもの。……それ以外は、なかなか大変なところもあったけれど」
「寝起きとか、組手の加減だね?」
「同室になりたくない子は多かったわ」
欠点と言えば、可愛らしいものが良いとされているが。ルチャルのそれは、少し以上のものではない。顔立ちなどは及第点なのに、その真相を知ると離れていく者もいた。それだけがすべてではないのに、決めつける者とかはどうしたっている。
だから、ルチャルは、進んでひとりで旅立ちを選んだのかもしれないと、サルシェは思わずにいられないのだ。
「大丈夫だよ、サルシェ」
マージュは肩を抱き寄せ、髪を優しく撫でてくれた。ここが誰の目も気にしない山中だからこそ、甘やかしてくれるのだろう。寄りかかると、耳に当たったところから鼓動が聞こえてくる。温かな、優しいものだ。
「あの子は、幼いなりに自分のことをよくわかって行動しているんだ。それに、ルチャルの人となりを知れば、慕ってくれる存在も出てくることはセルディアスでもあったじゃないか」
「……そうね。私たちもそのうちのひとりだもの」
「そうさ。僕たちもあの子が大好きなんだから」
姉さん、兄さん。そう呼んで、ひな鳥のように寄ってきてくれていた頃もあったりした。
あの頃もそれなりに可愛らしかったが、旅立つ直前の真剣な面持ちもそれなりに可愛いものだった。
だから、心配こそすれ、今を信じてみようじゃないか。
サルシェも実の姉ではないが、慕ってくれていた妹弟子の心配をするのを出来るだけやめることにして……たまには、魔法鳥で連絡してみようかと、マージュと話し合ってみたら賛成してくれた。
お互いの情報交換もそろそろ始めないと、次のステップアップも難しいからだ。
次回は火曜日〜




