第63話 運動不足解消ついでに
「あたしと組手しない?」
最近運動不足を感じたルチャルは、ザイルにそう提案したのだが。
彼は訓練場に到着するなり、渋い表情をした。
「見せるのか? 騎士の連中らに」
「ダメかな?」
「ん~~~~……」
珍しく、悩んでいる感じだ。
風邪から快復して、訓練にも積極的に参加しているとエクシスらから聞いていたので。ついでなら、とルチャルの相手をしてもらえないか頼んでみただけなのだが。
関所までの短い旅路で、ルチャルの実力は彼も目にしているはず。
それを見せるのを、何故渋るのか。ルチャルにはわからなかった。
体力気力が通常の子どもより高いのは、彼も知っているだろうに。
「なにをしている?」
そこに団長のライオスが登場したので、ほとんどの騎士たちは稽古を中断して一礼をしていく。ライオスにとってはいつものことなのかで気にしていないようだが、『稽古再開』と号令をかければ、彼らもすぐに元の稽古へと打ち合いを再開するのだった。
「よぉ、ライオス。ルチャルが組手しないか誘われたんだ」
「……ルチャルとお前では、加減が難しいのでは?」
「そこなんだよ。下手すると俺より強いから」
「は? 私は逆を言ったつもりだが」
「違う違う。SSランクの俺関係なく、こいつは強い」
「職人と言えど、身体を鍛えるのは師からの教えだったので」
正確には、師の夫であるアルフガーノ伯爵との方針だが。身体の構造を知れば、幼い身体でも力を倍増することが可能となる。それを素直に受け続け、武にもそれなりに実力をつけることが出来たのがルチャルら職人。
女子どもとて、武に通じないなど関係がない。
兄弟子らの中に女も複数いるので、彼女たちもそれなりの実力者なのだ。ルチャルはまだ身体が小さいので自分の力を加減するのは難しい。寝起きの悪さ以外に、そこも欠点のひとつだ。
「はじめて組手したときは驚いたぜ? 本気でライオスくらいの実力持ってんじゃね?って疑ったくらいだし」
「……私並なのか?」
「いやいや、ザイル。団長様ほどじゃ」
「俺が言うんだぜ、ルチャル。間違ったつもりはない」
「では、ルチャル。私に膝をつかせることは出来るか?」
「……体格、の問題は特にないですが」
ザイルと無鉄砲な組手をしたかっただけなのに、何故こうなったのか。
ライオスの願いを聞かないわけにもいかないから……仕方なく、構えを取った彼の背後のスペースを目視してから動き出した。
身体が小さいので、足の間に滑り込むのはお手の物。
ライオスが捕まえる前に、背後に回って膝を少し強めに蹴る。当然、予想外の攻撃をされたため、ライオスでも膝をついてしまった。
「……ほーら。だから、見せたくなかったんだよ」
ザイルは気に入りのおもちゃを取られたような物言いをしていたが、肝心のライオスはと目配せしたら……少し放心はしていたが、間を空けてから立ち上がった。
「……そうか。これほどの実力者なら、お前が気に入るのも当然だな」
「シュートやエクシスらにも知られたくなかったしな?」
「だろうな。……エクシスにシュート。お前たちでは力量不足だ。申し込みはやめておけ」
ふたりで打ち合いをしていたのを止めていたが、放心していたシュートは団長の指摘に気づいてすぐに息を吐いた。
「そりゃ。そこまでの実力持っているんなら、相手はザイルでもギリギリだろ?」
「え~? あたしは遊んで欲しかったですぅ~」
「我慢しろ」
「は~い」
「え~と? とりあえず、ザイルと組手していいの?」
場所の許可をもらえるくらいの実力は見せれたと思っていると、頭を軽く撫でられた。その相手はザイルだった。
「いいぜ。半分くらい本気出しても構わねぇぞ?」
「病み上がりなのに、問題ないの?」
「心配はいらねぇ。お前のおかげで絶好調だ」
「それなら!」
軽く足踏みを繰り返してから、間合いを詰めるのに地面を蹴ったのだった。
次回は土曜日〜




