第62話 ダメなパンはパン粉にして
「うーん、どうしましょうか?」
ミュヘン=サルザード。三十二にして、幼き鬼才に出会うとは最近まで思ってもいなかった。
自分は先代の公主にも認められた『料理人』。それなりに腕前には自信を持っていたのだが、彼女が来るまでそれは『飾り物』でしかないことを自覚しなかったのだ。
普通以上の味が出せて。
満足のいく料理が出せる。だから、配属も鍛冶部門の寮だが、そこそこに人気があると自負していたのに。
セルディアスからの使者、ルチャルという少女はそんなミュヘンの誇りをあっさりとへし折ったのだ。
むしろ、粉々に打ち砕いたと言ってもいい。
知らない料理。
つまり、知らない製法でミュヘンたちを毎度毎度驚かせてくれるのだ。
それを、ひと月前では騎士団の寮で、マルシスらをしごいてきたのだと言うからには……幼くとも、そこそこ秀でている程度だと思っていた時もあった。
しかし、実際はミュヘンがへばってしまうのに、本人はけろりとしていた。
今も、積みあがった『失敗作』のパンたちをどうしようか、軽く悩んでいるだけだった。
(……味もなにもかも、まったく追い付かない)
技術もなにもかも、真似るくらい簡単だと思っていた矜持を打ち砕かれたのだ。
容赦のない指摘に、出来上がった失敗作の山。これらをどう処分しようか悩んでしまうのも仕方がない。かといって、食材を無駄にするのは料理人としてあるまじきこと。
「ん~。半分はオニオングラタンスープにして。残りはパン粉にして、ハンバーグ焼きますか?」
「は?」
使い道をさっさと思いつくのもだが。両方とも聞いたことのない料理ばかり。
セルディアスの職人は、パン以外の料理にも精通しているということなのか。
『パン粥だと大量に消費出来るけど。料理改善にはグラタンスープの方がいいさねぇ?』
「ハンバーグはハンバーガーのパティの練習にもなるからね? ということで、ミュヘンさん。風魔法を扱えますか?」
「使え……るが」
「それでは。このパンの山の大半を粉々の粉にしちゃいましょう」
「せっかく作ったのに??」
「食べるのが大変だからこそ。アレンジしてメインディッシュの材料にしちゃうんです」
「! なるほど」
たしかに。騎士もだが、鍛冶の方は力仕事がメインの職業。
腹を空かしたドワーフやらエルフたちが所属しているので、基本的に大食漢だらけなのだ。彼らの満足のいく食事に変化できるのであれば、たしかにこのパンの山は無駄にならないのだろう。
言われたとおりに、半分はパン屑のようにしてから『ハンバーグ』の作り方を教わることになった。同じように粉々に近い形状にした肉と調味料などと混ぜ合わせ、焼いた『変わり種ステーキ』。
きつめの塩胡椒で味付けしたそれをひと口食べたが、あの失敗作がどこにいったのかというくらい、肉汁をうまくとじ込めて美味なる味わいを引き出したのだ。
「オニオングラタンスープは、スライスしたパンを浸して……チーズをかけて、あぶるんです」
シンプルな野菜の出汁スープに、とろとろに炒めて煮込んだ玉ねぎが甘く仕上がり。そこに、浸したことでふんわりやわらかくなったパンとの相性が抜群。トッピングのチーズも、とろとろ混ぜれば絶品としか言いようがなかった。
「……こんな食べ方が」
「まだまだアレンジできますが。ロールパンをちゃんと焼けるところまで、修行は続きますよ~?」
「……ああ。力不足なのは痛感したよ」
「マルシスさんたちは、生地に具材を詰めるところで今も行き詰っていますからね?」
「な、んだそれは??」
「そういう技術もいっぱいあることですよ~」
やはり、この少女には全く敵わない。ミュヘンは改めて実感するしかなかった。
次回は木曜日〜




