第59話 心配をかけてしまった
また忘れてましたー
寝ていただけのつもりが、風邪を引いてしまったとは。
ここ数年、冒険者になって状態異常になるのは毒や麻痺を、魔物から受けなければ特になかったと言うのに。
意識が混濁するくらいの、気怠さに襲われるなんて思ってもみなかった。しかし、ふいに感じたいい匂いに、起き上がれるようになるのは自然なことだった。
想いを寄せている相手が、わざわざ作ってくれた食事。
それを食べないわけにはいかない。
通常食ではなかったが、スープよりもとろみの強いそれは、『パン粥』というものらしかった。
お椀一杯だけでは物足りず、最初のひと口は食べさせてもらったが、あとは自分で食べれた。その気力を一気に回復出来るほど、ルチャルの料理は病人食でも美味しいところが凄い。
今は離席してもらっているが、あとでまた来てくれると言っていた。今日は、一日ザイルのことを看病してくれるそうだ。
(あ~……不謹慎だけど、嬉しいもんだな?)
好きな女の子が、自分のために動いてくれるということが。
言い寄ってきた、ザイルの外見と冒険者ランクだけの見てくれを知った女たちとは全然違った。
ザイルの弱さも、ほかの悪いところも知っていて、離れていかない女とはまるで違う。
外見も年齢も子どもなのに、下手すると成人した大人たちも敵わないのではという気遣いと料理上手。
そのふたつが、ザイルの心を解きほぐしていく。
こんな嬉しい気持ちになったのは、いつ以来か。覚えている限り、相当昔以来ないかもしれない。
「……とりあえず、着替えるか」
汗は軽く拭いた感じはあるが、粥を食べたことでさらに汗が出てきた。年齢差を考えれば見られてもいいかもしれないが、ルチャルは鍋を返してくるからと離席した。その気遣いは、最早大人のそれと同じだ。
下手すると、ザイルの母親とかにも匹敵するかもしれない。
シャワーか風呂にも入りたいが、ふらふらなのはそのままだったので完全に快復していないから危険だ。仕方ないので、着替えたらもう一度ベッドへ横になる。満腹にもなったせいか、横になるとすぐに眠気が襲ってきた。
「……ルチャルがすぐに、来るのに」
もったいない気分だ。
シュスイもいるが、ふたりがかりで献身的な介護をしてくれるのであれば……それには、非常に甘えたい気分になってくる。
そんな弱さを見せても構わないと思えるくらい、ザイルはルチャルに心酔しているのだ。弱っているから、いつも以上に想いを自覚するほどに。
「ザイル~? 入って大丈夫~?」
うとうとしていると、ルチャルがノックしてくれた。結構早く戻ってきたことが、嬉しくて堪らない。
軽く返事をしてやれば、すぐに扉がゆっくりと開いた。
『水持ってきたさね』
「果物ももらってきたんだけど、食べる??」
「……食う」
本当に、姉か母親のような看病をしてくれるのか。
仕事が色々あるだろうに、それを押しのけてまでこの部屋に来てくれたことが嬉しい。
想いが吐露しそうになるが、病人の口で言っても意味がないことくらいわかっている。ちゃんと、ザイルの『それなり』を見せた上で、彼女にも振り向いてもらいたいから。
今はただ、この優しい時間に甘えたかった。
次回は木曜日〜




