第55話 ロールパンの存在から
部門が変わっても、教えることに変わりばえがあるわけでもない。
なので、美味しいパン作りに手を抜くことをしなかっただけだが……ライ麦パンづくりとは違う手ごねの違いに、料理人たちは最初すぐにバテてしまった。
『……だらしない、さねぇ?』
「こらこら」
ミュヘンらの息切れに、シュスイは容赦のない言葉を投げかけるが。
ルチャルはこのくらいは想定の範囲内なので、特に怒っていなかった。むしろ、無知な大人たちより悪くないと思っているくらい。
特に、料理長のミュヘンは息切れてはいるものの、いい笑顔でいた。
「……こんなにも、体力を使うのを子どもでも可能に出来るのか?」
「出来ますよ~。養育機関では、あたしくらいの子どもの入学もだいぶ増えていましたし」
「だったら、へこたれているわけにもいかんな。……仕込んだ生地を、次は分けるのか?」
「はい。発酵が終わったら、分割しましょう~」
時間短縮のスキルは、異能の中に含まれているので他者が簡単に扱えるスキルではない。似たような時間操作くらいはあるが、的確に対象物の時間を短縮することが出来るのは……ルチャルも、まだほかのそれを目にしたことがないのだ。
今回は初回ということもあって、スキルを使ったが目を丸くされたのも仕方がない。それだけ、希少価値の高いスキルなのだから。
スケッパーでの分割。
ベンチタイム前の、丸め。
さらに、生地を休ませ。
次に成形。
この繰り返しを半日くらい、休みを挟んで動いてもらっても、慣れない労働に息切れ続出になるのも仕方がないだろう。
窯で焼く工程にきたところで、ミュヘンもさすがにバテる寸前だった。
「……ルチャル、さん。君は、これを毎日??」
「修行時代はもっと頑張りましたよ~?」
「序の口で、これか。しかも、テーブルパンだけで」
「マルシスさんたちは、とりあえず食べれるくらいには作れるようになりましたしねぇ?」
「……ひと月近く。君に認められるまで、か」
「まだまだ修行は必要ですけど」
「……たしかに」
ロールパンひとつ作るだけで、相当な体力を要する。
その事実を、大の大人が知らないままで、『簡単に』ものにすることが出来ないことを学ぶのも大事。
師から、それを修行時代にいやというほど、兄弟弟子らに伝えていた。師もルチャルくらいの年齢でようやくまともなパンが作れるようになったと言うのだ。
その師を超えているつもりはないが、筆頭孫弟子と名乗っているのだからそれなりに指導力を見せなくてはいけない。
マルシスたちと同様、容赦しないのはルチャルの性格でもあるし、使命でもあると思っている。
「じゃ、焼けたら食べてみましょうか?」
「そうだな。最初の出来具合も、きちんと見てもらわないといかん」
「あたしは、容赦ないですよ~?」
「……多少、お手柔らかにお願い、します」
「ダメです~~」
実際、焼いてみて……仕上がりはまずまず。
だけど、割ってみたら、スカスカの穴だらけ。
ミュヘンらが食べてみても、ぼそぼそと美味しくないものが出来上がってしまった。かつての【枯渇の悪食】の名残のまま、作り上げたというものを祖から食べさせてはもらったがそれよりはマシな味だとルチャルは思ったくらい。
しかし、ミュヘンらは撃沈するほど落ち込んだので、今度はゆっくりと手本を見せてやることにした。手加減の仕方が下手なのは、ルチャルの悪い癖だったから。
次回は火曜日〜




