第54話 鍛冶部門の寮へ
休みを適度に挟んだことで、ガイウスからも鍛冶部門の寮へ行くことの許可をもらえた。
フィンドの願いということもあり、ライ麦パン以外の食事改善をしてもらえないかということだったが。
さてさて、騎士寮を優先にしていたので、どんな反応になるのか。
ひと月近く、あちらを指導していたとはいえ。こちらもだが、ほかの寮などにはまったくと言っていいほど指導してこなかった。
ガイウスからは焦る必要はないと言われていたが。ひと月くらいも経てば、城内であれど噂が行き渡るのも当然。
公主が命じたこととは言え、優先順位を強いていたことについて……気にされていたかもしれない。
しかし、案内にフィンド以外にシュートやフェルナンも居てくれたので、少し以上に心強かった。ルチャルだけでは、子どもの説明なんて説得力は大したことがないからだ。
「おう。ミュヘン! 例の嬢ちゃん連れてきたぜ~」
寮の食堂に到着するなり、フィンドが大声で中にいるらしい相手の名を呼んだ。
寮の造りは目印以外はだいたい同じ造りらしいので、後ろから覗き込んでも調度品の色違い以外は騎士の方と似ているのがわかった。
「ああ、来たか。……どこにも見当たらないが?」
「失礼します。あたしです!」
「……君、が?」
噂は聞いているだろうが、それでも背丈の低い女児の姿に驚いたのだろう。きちんとあいさつをしたが、驚いたままの男性は目を丸くしていた。
「ルチャル=クラスターと言います。セルディアス王国から派遣された職人のひとりです」
「あ、ああ。ミュヘンと言います。……フィンド、こんなにも幼かったのか?」
「おうよ。しかし、腕前はピカイチだ。俺にも面白い調理道具の依頼してくれるしよ?」
「……そう、なのか?」
「まあ、あたしのことはともかく。今日からお世話になります」
ミュヘンは、緑の短い髪と黄色の目が特徴的だが……年齢は、まだ三十かそこららしい。フィンドの方が老け顔だが、ほとんど同期だそう。ドワーフの血が混じっているのかで、腕っぷしが凄いのだ。
「騎士寮の噂をお聞きでしたら、彼女の腕前は一級品どころですみません。くれぐれも、侮らないように」
「……副団長ふたりが揃うくらいなら、そこはたしかでしょうね?」
「相当、驚かされるぜ?」
副団長ふたりは、仕事もあるからとここで退室。
フィンドだけが残ったが、少しそわそわし出した。シュスイと顔を見合わせ、『多分だね』と思いながら……収納棚から、パンをいくつか取り出した。
それを見て、フィンドが声を上げたのも仕方ないと言うべきか。
「これこれ!! うっまいんだよな!!」
「……これが、あちらで振舞われているパン?」
「今日はフィンドさんがお気に入りのカレーパンにしてみました」
「カレー……パン?」
「中に、うまいソースとかが入っているパンだぜ。油で揚げてあんだよ。うまいぞ!」
「……食べても?」
「もちろんです」
ほかの料理人たちも見守る中、ミュヘンは包装紙をめくり……少し見つめていたが、ひと口かじってくれた。
すぐに、『お?』と目を丸くしていたが。飲み込んだあと、またすぐに、が、っと、がっついてくれた。
その様子を見て、フィンドと目が合えば互いににかっと笑ってしまう。
「ミュヘン、美味いだろ?」
「……少し辛いが。甘みも感じるし、外側はサクサクしてる!! これが……パン? 酸っぱくも固くもない!?」
「これはお惣菜パンのひとつですが。テーブルパンもたくさんお教えしますよ~?」
「是非! 伝授願いたい!!」
「はい」
口の端にパン粉がついているのも気にしないくらい、気に入ってくれたのだろう。
美味しいものを共有したい気持ちは、やはり料理人ゆえに人一倍強いのだと分かった。
次回は土曜日〜




