第48話『とろ〜り、チーズカレーパン』
チーズは塊でカレーのフィリングといっしょに包んだ方がいい。
慣れている料理人とかなら、削ったものでもいいがマルシスたちは初心者なので無理だ。
専用のナイフで手のひらに乗るくらいのサイズに、チーズをカットしていく。そのあとに、ガス抜きした生地の上に、カレー、チーズの順に載せ。ルチャルはこれもまた、木の葉型に近い形状に成形をしていく。あとはパン粉をつけて。
さ、さっと、五つくらい仕上げたら、ここは『時間短縮』を直接かけることで発酵を促す。ルチャルの魔力と体力の関係で、シュスイには大量生産のときには頼むが、数個程度ならなんとかなるのだ。
これを油で揚げ、サクサクに仕上がったら……カレーのスパイシーな匂いだけでなく、チーズのまろやかな香りも漂ってくる。
紙に包んで、シュスイも入れて四人でかじりつく。
ふた口目くらいで、みょーん、とチーズが伸びていくので結果的に成功となった。
「うっ、わ!?」
「カレーの辛味が、チーズで少し優しくなった気がします……。食べやすい!」
『チーズの種類によっても、味がまた違うさね?』
「ね? モッツァレラとか作りたいなぁ?」
『……凝固剤がないだろう?』
「自分で作るのは大変だからねぇ?」
「「また美味しいものですか?」」
「美味しいんですけど、日持ちしにくいチーズなんです」
フレッシュチーズで手作りできるものもあるが。リコッタとかカッテージは比較的簡単にできても、鮮度がもたない。
さらに上位種とも言える、モッツァレラはもっと手間暇がかかるので、セルディアスなどでも国内生産が主流。職人でも、作るのが至難の業だと言われる代物だ。
「ルチャルさんでも、難しいんですか?」
「あたしも、まだまだ修業中ですからね? 兄弟子たちには負けます」
『とか言っといて、最高位の孫弟子の地位持ってんのに』
「「最高位?!」」
「大袈裟なだけだよ。あたしはまだ、師や祖の域に到達してないもん」
作れるだけ。
それだけでも凄いだろうが、それだけではよくないと、ルチャルは思っている。
祖の世代で、【枯渇の悪食】を解決しなかったら……世界中のパンだけでなく、食事も不味いのは今も変わっていなかっただろう。
笑顔に、幸せに、と、人々を喜ばせる食事。
学とか技術が伴っていても、『心』を震わせる食事を作れるとは、まだ自分自身では納得がいっていないのだ。
幼いとか関係ない。
師や祖のパンを受け取って、食べたときの……あの、感動以上に膨らんだ気持ちをどう表現していいのか、今のルチャルでもわからないが。
ただただ、美味しいだけのパンを伝授するだけではダメだと思っている。
だからこそ、北方の中でもパンの粗悪さが酷いと噂されていたゼストリア公国に来たのだ。実際は、パンの種類が違っていただけで、白パンなどの文化が廃れていただけの結果だったが。
『まーだ、誇張表現とか思っているのかい?』
「本当のことだもん」
『まあ、いいけど。で? このカレーパン、あの公主に持っていくのかい?』
「そうだね? そろそろ、おやつの時間だし」
ガイウスのおやつに合わせて作っていたので、次は夕飯の主食用にとマルシスたちには包餡の練習がてら、指導するのだった。
次回は土曜日〜




