第47話『カレーパン』を仕込んでいく
煮詰めて、十分に冷ましたカレーのフィリング。
ルチャルが仕込んでおいた生地に包むのは、至難の業だというのが料理人たちに教えなくてはいけない。あんぱんと同様に、『包餡』という技術を使って具材を生地の中に包み込む作業。
金属の薄い板ベラで丁寧に包んでいくルチャルが出来ても、それを多少慣れた程度の人間が出来るはずもない。マルシスたちは、その『あんベラ』を使ってみてもあんこの時以上にぐちゃぐちゃした仕上がりになってしまうのだった。
「……ルチャルさん。これは、どう修正していけば」
「それは脇に置いておいてください。あたしが修正しますから」
「フィリングがぼろぼろ落ちて……全然うまく、とじ込めないんですが」
「生地の中に軽くぎゅっと押し付けるのがコツでしょうか? こればかりは個人差が出てくるので、慣れてもらうしかないです」
包み込んだら、綴じ目を下にして軽く押して木の葉型にし。
これをそのまま油で揚げるのではなく、衣をつけるのに事前にシュスイの変換した道具で作った『パン粉』と少量の粉を混ぜた水を用意する。
包餡の作業を中断させ、シャルルたちにもこの工程を見てもらうことにした。
「包んだ生地をまず水につけて、そのあとにパン粉のボウルに。空いている手でかぶせるようにしながらまとわせます」
「何故、そのような?」
「カレーパンに衣をつけると、サクサクして美味しいからです」
と言うのも、師と祖からしか伝授してもらっていないので、明確なレシピがあるわけでもない。ドーナツのようにして揚げるのも有りかもしれないが……こっちの衣有りの方が美味しいと、ルチャルも実感しているからだ。
いくつか出来たら天板に乗せ、シュスイにドウコンへ変換してもらい……『時間短縮』で発酵を短縮させた。使い過ぎると、精霊でもシュスイ自身が疲れるのであまりやりたくないが、今回は特別。
出来立てのカレーパンを食べれるのだから、彼女も張り切っているのだ。
『発酵した状態のカレーパンは格別さね?』
「ね。アレンジも色々出来るから、作り甲斐あるし」
「アレンジ??」
「それはまたあとで。とりあえず、揚げますね?」
「「はい」」
パン粉を軽く沈め、適温だと判断してから生地をそっと入れてみる。
じゅわ、っと、音が鳴り、ぱちぱちと爆ぜていく音が油料理の醍醐味だ。側面が軽くきつね色になったら、トングでひっくり返してもう片面もしっかりと揚げていく。
出来上がったら、網を敷いたバッドに乗せて油を切る。ある程度冷めたら、紙に包んで食べることにした。
「はい、召し上がれ」
「「いただきます」」
激熱なのはわかっているが、かすかに香る香辛料の匂いが堪らないのだろう。マルシスが先にかじりつくと、サクッ、とした音と同時に『ん!?』と驚くような声が上がった。それはあとに続いたシャルルも同じようになっている。
「コメでも十分美味しく感じたのに……!?」
「むしろ、馴染みのある味わいです!! サクッとしたパンとの相性が……すごい、です」
「ふふ。これはあくまで、ノーマルですよ?」
「……これが、基本ですか?」
「包み方次第ですが。違う食材をさらに包み込んだりも出来るんです」
「「是非教えてください!!」」
「もちろんですよ~? じゃ、まずは『チーズ』を用意しましょう」
「「これに、チーズ??」」
チーズの使い道があまり需要のなかった、ゼストリア公国では味の想像がつかないのだろう。
だが、その味を知っているルチャルには、ガイウスとかがさらに気に入る味だと確信を持っていた。
次回は木曜日〜




