第46話『カレーパン』の前に
休暇を間に挟むようになって、幾日か経ったある日。
ルチャルは、そろそろ仕込もうとしていた料理を作ることにした。
ガイウスも好んでいる『カレー』である。
「香辛料をたっぷりと使った料理なんです」
「……想像がつきませんね?」
「……ですね」
「それを、フィリングに仕立てたものをパンの中に詰めるんです」
「「なるほど??」」
まずは、一般的なカレーの作り方を教える。
肉と野菜のごろっとした、師曰く『おうちカレー』だ。以前、ザイルに振舞ったさらっとしたタイプのカレーとは少し別物。あれは、ナンといっしょに食べると丁度いいカレーに仕立ててあったから。
これには、パンもいいが『米』が非常によく合う。ゼストリア公国には米文化があまり浸透していないため、今回はルチャルが無限収納棚に入れていた米の一部を鍋で『炊く』ところも同時にとりかかっていた。
「……不思議な、甘い香りですね?」
「パンとは違う主食の一種なんですよね~」
祖はホムラ皇国で幼少期を過ごしたということもあり、セルディアスにも積極的に米の流通を促したと師から聞いている。ルチャルの年代なら当たり前にあった食材も、他所では違うと納得するのにどれくらい時間をかけたことか。
とにかく、米の美味しさを知ってほしいので、炊き上がったら軽く塩むすびでマルシスたちに食べてもらうことにした。
手で持つのに意外性を感じていたが、あちち、と言いながらも頬張ってくれたふたりは笑顔になった。
「塩気が! やわらかい粒を引き立てているような」
「ほろっと崩れて……これだけでもご馳走ですね!」
「カレーに使う米には塩をかけませんけど。美味しいですよ~」
「「食べてみたいです!!」」
平たい皿に、米を適量。その上から、カレーをたっぷりと。まかないも兼ねているので、ここはたくさん食べて欲しかった。スプーンでどうぞ、と告げれば、ふたりとも迷わず口に運んでくれた。
「少し、辛い。けど、コメと合わせるとちょうどいい辛さですね!?」
「野菜もほろほろしてて、本当に合いますよ!?」
「この味をパンとも併せてみたくないです?」
「「是非」」
「では。カレーを食べてから大仕事ですよ??」
カレーのフィリングを作るのはそう簡単ではない。
用意したそれぞれの野菜を、おうちカレーとは違って『みじん切り』にしなくてはいけないからだ。シュスイに『変換』してもらえば、もっと簡単にできることはわかっていても。その大変さを体験してもらってからではないと、手間を少し軽くしづらいと、師はよく言っていた。
師も祖から習うときに、玉ねぎを大量に切って目を腫らしたと懐かしい思いで話をよくしてくれたものだ。ルチャルも、最初の修業でみじん切り大量については本気で嫌だと思ったくらい。
それを、大人だからと免除するわけにはいかない。固いにんじんも、ほかの野菜も容赦なくみじん切りを終わった頃には……軽く二時間くらい経っていた。その間に、ルチャルは手ごねでカレーパン用の生地を仕込めるくらい、余裕があった。
「……こんな。大変な仕事を、ルチャルさんも??」
「修業時代は頑張りましたよ~?」
「料理長。私たちも頑張らなくてはいけませんよ。たしか、この料理を使ったパンって」
「はい。公主様の好物になったパンです」
「……頑張ろう。俺たちの修業時代を思い出すくらいに!」
「はい!!」
ということで、次は下ごしらえ班にもやらせることが決定し。
彼らにも、残っていたおうちカレーを食べさせたことで納得してもらえたのだった。
次回は火曜日〜




