第43話 壮年の弟子と、少年弟子①の壱
ラスティンとエイドは謁見の間へと通されることになった。
ソーウェン帝国に到着した際、関所ですぐに使者である紹介状を出すと最速と言っていいくらいの手続きのおかげで……半日もかからないうちに、馬車で城へと向かわされここまで来たのだ。
そんなにも待ち焦がれていたのか、と、ラスティンは近習だったときの経験を振り返ってみたが……こちらの人間と交流する機会は滅多にないし、皇帝が休戦から和平へと条約を交わしたとき、まだラスティンはその地位にはいなかった。
「……余が、当代の皇帝である。はるばるとセルディアスからよく来られた」
ソーウェン帝は先代から即位して数年らしいが、年代で言うとラスティンと同じくらいか少し上くらいの雰囲気を醸し出している。先代が長く地位にいたせいもあるだろうが、戦争を退くきっかけになったのは……間違いなく、セルディアスの元王女のチャロナだ。
ラスティンたちにとっては師の母。つまりは、職人の祖。
その彼女が、セルディアスに浸食していた【枯渇の悪食】を解決し、王妃を復活させた。その功績もあったおかげで、ソーウェンとの休戦から和平へと切り替えられたと……近習の中での秘密事項だが、ラスティンはその関係で知っているのだ。隣にいるエイドはまだ年若いし、その秘密は知らないはず。
「お初にお目にかかります。自分はラスティンと申します」
「俺はエイドです」
「紹介状は読ませてもらった。我が国にも、これまでとは違う『パンのレシピ』を伝授してくれるのだと」
「はい。祖と師からの使命を承り、こちらにも参上した次第です」
「……有難いことだ。先代……わが父の仕出かしたことを顧みても、決してないと思ったことを叶えてくださるとは」
当代の皇帝は、どうやら暴君とかではない様子だ。賢君なのかは滞在期間中に判断すればよいことだが、話し合いの場を設けてくれる良い人間だと認識できる。エイドにも目配せしたら、少し安心したのかで軽く息を吐いていた。
「昔話は、昔のことです。我々は、【枯渇の悪食】により潰えてしまっていたレシピを世界にも広めるお手伝いをさせていただくだけの存在」
「……そうだったな。セルディアスで訪れたときの、元王女殿下が振舞ってくださったパンの味は忘れていない。あれを、こちらの人間も多少は学んできたがまだまだ技術が追い付かないようだ」
「セルディアスでも人材を育てるのに時間をかけてきました。我々でも三世代目です」
「なるほど。孫弟子ということか」
「私の年齢だとおかしいと思われるでしょうが。私は元近習です」
「それは相応の覚悟を持って退いたのだな。……使者として派遣されるまでの腕前を身につけて」
「だといいですが」
「兄弟は、俺以上の腕前を持っていますよ」
「それは期待が高まるな。今日はまず旅の疲れを癒してくれ。明日以降、さっそくだが……貴殿らのパンを食べさせてほしい」
短い会話の中で、他者を気遣える人間だとわかる。賢君の顔を少しばかり見せてくれたので、これなら……と、もう一度エイドと顔を合わせてから無限収納棚を展開させた。残っていたサンドイッチだが、皇帝は目を輝かせながら受け取り……すぐにかじりついてくれた。
久しぶりの、セルディアスのパンということで余計に喜んでくれたのか。懐かしさで嬉しくなったのか、目じりに軽く涙を浮かべてくれたのだった。
次回は火曜日〜




