第42話 余った生地で惣菜パンを
さて、ルチャルは厨房に戻ってから……無限収納棚から出した『生地』に向き合っていた。
マルシスらも見守ってくれていたが、昼間作った『クロワッサン』を成形したときの残り生地。
カットした際の切れ端を集め、またシート状にしたものをどうしようか悩んでいたのだ。
二次利用、ということで使う生地。一次利用したクロワッサンは文句なしに美味しく出来たが、余り生地をまとめたこの生地もせっかくだから何かに使いたい。
また同じクロワッサンにしても、少しは余りが出てしまう。それを避けるために、ちゃんと全部成形したいのだ。
「うーん。甘いの、しょっぱいの……」
『この量だと、どっちかがいいねぇ?』
「夕飯にだと、しょっぱいのかな?」
『魚の切れ端と焼いたらどうだい? ほら、兄弟子らと作ったあの』
「あ、いいね! それなら四角に切ればいいし、切れ端も出ない!!」
ということで、マルシスらにはほかの材料集めを頼み。その間に、ルチャルは生地を包丁でカットしていく。
少し長細い四角に切ったら、両端にまた細長い切れ込みを入れ……麺棒で少し伸ばす。
切っていない部分に、燻製した魚。シャルルには卵サラダの要領で作り方を教えた『タルタルソース』を。野菜は茹でたほうれん草。それを細かく刻み、準備は整った。
「これで、どんなパンを?」
「お惣菜パンを作ります。本当は、間に挟むものがひとつ違うんですが……旬のものではないので、なかったですしね?」
「それはなんですか??」
「アボカドというものです」
「「アボカド??」」
「暑かったり、温かい国の特産品なので、ゼスティア公国にはないものだと思うんです」
曇りがち、少し雨が多い地域に部類するゼスティア公国。なので、温暖な気候や熱帯に部類するところでしか自生もしないアボカドがないのだろう。
あれは野菜ではなく果物なのだが、ないものは仕方ないので代用するしかない。
まずは、鉄板の上に生地を乗せていき、切れ込みがないスペースに具材を順番に乗せていくが。
「編み込み……?」
「生地を包み込んじゃうんです。クロワッサンより少し複雑ですね」
交互に編むというより、髪型の三つ編みに近い。
それを繰り返していき、最後はばらけないように閉じる。
焼くときに、ドリュールをしっかり塗って窯で焼いたら完成。
デニッシュのバターに加えて、マヨネーズの焼ける香ばしい匂いが堪らない。
「「いい匂い……」」
「タルタルソースのデニッシュ出来上がり~」
じゅうじゅう音を立てる、バターとマヨネーズの音が食欲を掻き立てる。これに抗える人間はいるだろうか? ルチャルの知る限り、まずないと思っているくらいの自信作だ。
とりあえず、冷却で粗熱を取ってから試食するのにひとつをカット。ボロボロとこぼれやすいかと思われるが、ソースの水分でしっとりしている部分もあるので大丈夫そうだ。
『「「「いただきます」」」』
シュスイにも分けて、まずひと口。生地の味は申し分なく、間に入れた魚の燻製がジューシーになっていて、タルタルソースとの相性抜群。ほうれん草をアボカドの代用にしたが、ほのかな苦みがちょうどいいアクセントになっていた。
これはこれで、美味しい総菜パンに変身したわけである。
「いや、これは! すごく美味しいです!!」
「卵のソースに、こんな使い方もあるだなんて」
「生で使うだけでなく、軽く焼くだけでも味の変化が出て面白いですよね?」
「「はい」」
とりあえず、これもガイウスに食べて欲しいので夕飯のときに持って行くのは決定。
あとは、数が限られているので早い者勝ちだ。食堂解放時間に、まず真っ先にやってきたのは……やはり、ザイルだった。なぜか、後ろからエクシスも追いかけるようにして入ってきたが。
「なんか! 美味しそうなものの予感したから!!」
「正解です、エクシスさん。早い者勝ちですが」
「やった!」
と、エクシスを含め、駆け足でやってきた数名の女性騎士にも非常に気に入ってもらえたデニッシュ総菜パン。また作ってもらえないかと、リクエストが多く出た。
ガイウスにも持っていったが、かなり気に入ってもらえたのでアボカドのことを話してみたけれど……やはり、自生してないので本来の作り方の再現は断念することになった。
次回は土曜日〜




