第40話『クロワッサンサンドイッチ(卵サラダ)』
「お待たせしました~」
ガイウスのところに、行くと。ちょうど執務がひと段落ついていたので、端から見てもうきうきしているようだった。
「すまないな。わざわざ頼んで」
「いえいえ。あたしも久しぶりに復習も兼ねて作れたので、満足していますよ?」
「復習? そんな難しいものをか?」
「こちらです」
と、取り出したのは、三日月型のパンに卵のサラダがハムといっしょに挟みこまれた『サンドイッチ』だ。
パンはバターをたっぷり使用して丁寧に焼き上げた分、黄金色に見えてもおかしくない色合い。そこに、薄黄色でもきらきらしたものがふりかかっている卵サラダ。絶対に美味しい組み合わせ、とルチャルは信じて作ったパンなのだ。
「……食べるのがもったいないくらいだな。これは、なんというパンなんだ?」
「デニッシュの種類のひとつで、クロワッサンといいます」
「クロワッサン……やはり、聞いたことがないな?」
「ゼスティア公国では、やはりレシピが廃れてしまったのでしょうか?」
「可能性は高い。……その、食べていいだろうか?」
「はい。あ、結構ぼろぼろなりやすいのでお皿はしっかり持ってください」
「やわらかいのか?」
「とも、違うんですよ」
実際、ガイウスがひと口食べた途端、『バリバリ』と音が立って皿の上に少しパン屑がこぼれてしまった。
「これは……サクサクなのに、中からバターの風味が強く! しかも、サラダにもなにか特別な材料を使っているのか? 何か嗅いだことのない薫香を感じるが」
「それは、これです!」
取り出したのは、小さな小瓶。蓋を開けて、ガイウスにも嗅いでもらったが軽く顔をしかめるだけだった。
「……いい香りだが。これは?」
「トリュフ塩です」
「トリュフ?」
「少し稀少なキノコなんですよ。香りが豊かで、加工も色々出来ます」
「……これが、キノコの香り? 土っぽいあれがないな」
「ゼスティア公国にもあるかもしれませんが、乱獲すると市場が荒れるので慎重に探した方がいいですよ?」
「それは大変ですまない。……しかし、このパンは美味い! 一つじゃ物足りないくらいだ」
「そう思って、もうひとつ」
「もーらい!」
「「あ」」
いつの間にか、ザイルが入ってきていたのかでクロワッサンサンドイッチをかっさらっていった。そうはいかない、と、ルチャルは風魔法の蔦でクロワッサンだけを回収した。
「あ」
「あ、はこっちのセリフ!! これは公主様の分。ザイルのはちゃんと用意してるから、待っててよ」
「え~。同じもんならいいだろ?」
「よくない」
「……ザイル。みっともないぞ」
「……いーんだよ」
なにがいいのかよくわからないが、ガイウスにパンを渡してからこつんとザイルの頭に軽く小突いた。背丈は足りないが、その分跳躍でカバーしている。叩かれる予想をしてなかったザイルは、軽く『いって』と声を漏らしたが。
「幼馴染みだからって、分は弁えなくっちゃ」
「今は公式じゃないから、いいだろ?」
「よくないって。公主様、あと一個はありますがふたつで大丈夫ですか?」
「ああ、構わない。あまり腹を満たし過ぎては仮眠をとらなくてはならないからな?」
「わかりました。……ザイル、行くよ?」
「お?」
「残りは食堂に置いてあるから、シュートさんたちに取られちゃうよ?」
「そりゃ、まずい!!」
「では、あたしたちはこれで」
「ああ」
と、先を急ぐザイルをさっさと行かせ、ルチャルはガイウスの執務室をあとにした。
せっかく、一個は譲ってくれたというサンドイッチを先に渡してもよかったのだが。あれだけ急いでいるのなら、あとで食べ損ねたら渡そうと決めた。
大人ななはずなのに、食欲に関しては子どものままなのは彼の魅力のひとつだろうが。そこだけ、ルチャルと同世代くらいのままでいいのか……大人でないルチャルは少し心配になった。兄弟子らの中にも食欲旺盛なメンバーはいたりしたが、あそこまではしゃいでいたかな?と振り返ってみた。
(ん~、兄弟子らもあんま変わんない?)
と、行き着いたので、はやくはやくと前から呼んできたザイルのあとを追うのに、少し早足で向かうことにした。
次回は火曜日〜




