第35話 意外な気に入り様
ザイルは朝の素振りもとい、近衛騎士団の朝稽古に参加していた。
打ち込み合いだが、相手は副団長のシュート。フェルナンでも団長のライオスでもなく、自ら言い出したので稽古を続けているのだ。
数刻経てば、ルチャル監修の美味い朝飯が食えるとなると、いつも以上に腹を空かせなくてはいけない。空腹は最高の調味料だと誰が言ったかはわからないが、ザイルらの世代にはそんな言葉遊びが伝わっているくらいだ。
「ほーら、よっ!」
「ぐっ!?」
ザイルも模造剣を使用しているが、せっかくなのでと双剣のように二本扱っている。交互に打ち出す剣戟をシュートはなんとか受け止めてはいるが、普段鍛えていても現役の冒険者にはやはり敵わないと言うところか。
経験と実力の差が大き過ぎる。特に、試験を終えたばかりとはいえ、SSランクに昇格したばかりの強者とくれば。何度か打ち合っても、一撃ごとの重さに耐えるのが必死で軽く息切れるくらいだ。もっと鍛錬したいだろうが、副団長としての書類整理の仕事もあるのでフェルナンたちだけに任せるわけにはいかない。
結果、短期間で効率良い鍛錬法を、ザイルのような少年から伝授してもらえるかどうかの駆け引きも関係しているのだ。面倒だが、無賃状態で城に寝泊まりさせてもらっているのでそれくらいの仕事は一応引き受けている。
「まだまだまだ。ほいほいほい!」
「くっ……そっ!?」
しかし、自由奔放な剣戟に対処できるかと言えばそうでもなく。二つの閃光をぎりぎり受け止めることしか出来ないでいた。魔物討伐に慣れているのはザイルが上なのは当然だが、陽動しやすいように打ち込んでくるのが上手い。シュートのペースを乱しつつも、実力を引き出そうとするのは流石と言えよう。
「はやく、俺から一本でも取れよ? ルチャルの美味い飯、一番乗りで食いに行きて―し?」
「お前がめちゃくちゃ食うのはわかっとるわ!! ルチャルだって、わかってて多めに用意してくれてるだろ? 最後まで付き合え!!」
「え~? そんな乗り気じゃねぇけど?」
それと出来れば、ルチャルもパンのことがなければこの打ち合いに参加してほしかった。実力はまださわり程度しか見ていないが……魔物討伐をこなす実力はなかなかのものだった。年齢や身体の小ささを活かしつつも、魔法を駆使して相手の弱点を見抜くのが上手い。それをシュートらに教えてもいいのだが、ルチャル自身は使命のこともあるので稽古にはほとんど参加できないだろうと事前に言っていたのだ。
なので、少し打ち合いをしたかったザイルとしてはつまらなくて仕様がない。パン作りはもちろん大事なこともわかっているが、実力の差が自分とどれだけあるかを確かめたいのだ。
子どもとは言え、職人。
しかも、魔物が往来しているという国境を契約精霊だけ伴うなど死にに行くようなものなのに。実力があるからこそ、事実上のひとり旅を許可されたのだろう。だから、ザイルは知りたくてたまらないのだ。
「……異様に気に入っているんだ、な!」
「まあな? あいつの実力は料理以外にもある、ぜ!!」
「……そんなにもか?」
「俺に出会うまで、国境をひとり旅だぞ?」
「マジか」
「マジマジ~」
だんだんと打ち合いながら会話するくらいに、息切れが減ってきた。この打ち合いの加減が他人に合わせるのが難しいのが、ザイルの悪い癖だ。
ソロの旅がほとんどだったため、護衛任務以外でほかの冒険者と協力し合う機会がなかなかないせいもある。選んで進んできた道ではあるが、そこの経験だけは致し方ないと言うべきか。
「そんじゃ。本人に聞いて、時間あるときに参加してもらおうか?」
「俺も打ち合いてぇんだよ。ルチャルの実力のちょこっとも見てねぇし」
「何日もいっしょだったわけじゃないのか?」
「寝起き最悪だけは学んだ」
「子どもだからだろ?」
「それで加減のないラリアット喰らったぜ」
「……二度と受けたくないって感じか?」
「……あれは勘弁」
寝た状態のはずなのに、周りの気配を察知して反撃に向かう姿勢。それを落ち着かせるには、シュスイ曰く、自分で作っておいたパンたちを食べることだと。かなり力を浪費した場合、英気を養うのも兼ねて寝起きでも食わせると効果があるらしい。
今日もそうだったか怪しいところだが、自分たちより相当早く起きるから体力は問題ないはずだ。多分。
次回は木曜日〜




