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パン職人の弟子の弟子。スローライフの旅へ出発  作者: 櫛田こころ


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33/55

第33話 孫弟子の寝相の悪さ

 ルチャルは天才的な才能を持つ子どもだと、ゼスティア公国でも認知されてきたが……ひとつだけ欠点があるのをシュスイは知っている。


 契約精霊と言うことで、呼ばれない限りは契約者の影の中に潜って息を潜めているのだが。その主人であるルチャルに『早朝』だけは特別な任務を頼まれていた。


 まだ子どもゆえに『早起き』が苦手……ということもあるのだが。それのせいもあって、ルチャルは非常に『寝相』が悪い。この国に来る途中、ザイルにも見られて驚かせたことがあるくらいに酷いのだ。


 だからこそ、騎士寮でも一部屋を望んだ理由ともなっている。


 寝方自体は普通の子どもらしく、すよすよと眠っているが。シュスイは龍体からヒト型に変身して……少し尻尾を生やしてからちょいちょいとルチャルの布団を突いてみた。普通なら起きるとかで身じろぎするくらいだろうが。ここからが勝負なのだ。



「む!」



 ばん、っと布団が蹴り上げられ、ベッドの上でルチャルが構えを見せた。寝起きにしては目を開けていないし、そのまま首を左右に動かして気配だけでシュスイを探しているようだった。



(うわ~~……。昨日もたくさん指導したけど、軽く疲れてる程度? これなら)



 無限収納棚ほどではないが、シュスイにも『亜空間収納』なるスキルは保持しているので……そこから、主人の好みである『パン』はなにかないかを色々探してみた。ステータスでざっくり見たが、クリームパンがいくつか残っていたのでそれを取り出してひょいっと主人目掛けて投げてみた。



「あむ」



 子どもらしいかじりつき方だが、ルチャルは大人っぽく見せようとしたってたったの十歳なのだから仕様がない。口に入ったパンの美味しさに頬をほころばせながら、立ったまま食べずに胡坐をかいてマットの上に座り込んだ。


 これをすべて『寝ぼけて』いる間にするのだから……兄弟弟子らには条件反射が凄いとしか言われていない。ちなみに、パンとか食べ物がないまま触れてしまえば投げ飛ばされてしまうとか暴力沙汰になるのだ。


 それなりに働き、それなりに食べていても寝たらまた空腹の時間が出来てしまう。


 普通のことだが、祖曰く、『燃費の悪い』この孫弟子の場合。朝起きたらすぐになにか食べないと夢遊病手前の寝相の悪さが発動してしまうのだ。彼女の両親は師のところで世話になる前からそこを心配していたが、祖たちが解析してくれたおかげで今は『まだ』この程度で済んでいる。


 ルチャルがパン一個で満足したのかで、普通の寝起きの姿勢になっているのを確認したシュスイは……残りのパンの個数がどれくらいかを確認してから、主人の頬をぺちぺちと叩いた。



『ルチャル~~。追加のパン作らないと、ここ壊すかもよ~?』

「ふぉ?」

『起きて起きて~~。まだ早いけど、追加のパンいるかい??』

「……き、た。あ~~、今日は暴れてない??」

『ぎりぎりセーフ。時間は午前三時かな?』

「うーん。ぎりぎり。せっかく、朝の賄い許可出たんだし。白パンとかの仕込みも教えたいからね?」



 鍛錬をしている子ども時代だったときもだが、職人の仕込み時間はとにかく早い。


 厨房の人間でも早いくらいだが、ルチャルはマルシスたちの了承を得てこの時間に起きるように決めているけど……自分の寝相の悪さは今日も元気に発動していたとかで、シュスイに頼むしかなかったのである。


 シュスイも、これだけはどうにかならないかと思うが、まだ成長途中の子どもだから仕様がないと受け止めているだけだった。

次回は土曜日〜

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