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パン職人の弟子の弟子。スローライフの旅へ出発  作者: 櫛田こころ


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32/55

第32話 少女弟子①の壱

 ホムラ皇国に到着し、ニンリーは関所で身分証になる紹介状を渡せば……待ち望んでいたとかで、すぐに現皇帝との謁見へと案内された。


 現皇帝は、祖の幼馴染のひとりの従兄弟とは話に聞いているが。目の当たりにしてみると、男性らしい勇ましさと雄々しさに圧倒されそうになる。兄弟弟子たちにも色んな男たちはいたが、彼のようなタイプは見たことがない。


 噂では、後宮を撤廃したくらいの愛妻家だと聞いているが。それくらい、愛情を注がれる女性が羨ましいと思えるくらいに、ときめいてしまいそうになる。


 だが、本来の目的はそんなことではないので、互いに挨拶をしてから侍従経由で紹介状を見てもらった。



「ほう? チャロナの孫弟子のひとりか?」

「ニンリーと申します」

「見たところ、我が国の者が血縁にいそうだな?」

「身内にひとり。もうひとりはセルディアスの者です」

「なるほど。であるなら、こちらに来る理由は半分里帰りか?」

「訪れるのは初めてですが。想像以上に活気が凄いですね」

「はは。【枯渇の悪食】が潰えたこともあり、少しのレシピ改善は先にチャロナからもらっていたからな? 少しばかりの活気が戻ったくらいだ」

「……そうですか」



 市の賑わい。食の豊富さ。


 この皇帝の先代あたりでは内乱が勃発していたらしいが、今ではその心配はないようだ。祖のことを呼び捨てで呼ぶくらい仲が良いとなると、祖がまだ少女だった頃に多く交流があったのだろう。もしくは、従兄弟から近況を聞いているのか。



「さて。レシピ改善のための使者に、孫弟子をわざわざ派遣してくれたことには感謝する。パンについては、チャロナたちから習った者らもおるが……彼女のに追いついた者は誰もいない。その者らに、幼くともそなたが伝授してくれるか?」

「はい。もちろんです。師から異能(ギフト)を賜った身として、全力で教えていきます」

「ふむ。舐めてかかる者が居たら、遠慮なく我の名を使ってもいい。チャロナの孫弟子に痛い目を見せたら……承知は出来んからな?」

「ふふ。仕方がないと思いますが、ありがとうございます」



 わざわざ、皇帝の監視下でそんな大それたことをする人間がいるかと言えば……ないとは言い切らない。ニンリーは成人はしていても、まだ幼さを少し抜けた程度の少女だ。侮る大人たちは大勢いても仕方がないのは当然。


 とりあえず、手始めになにかパンはないかと皇帝に聞かれ……収納棚に入っていた、この間作っておいて残していた『角煮マン』を出せば少年のような笑顔を見せてくれたのだ。



「おお! これは我も好きな饅頭ではないか!! 生地の美味さがチャロナたちの方が上だった」

「是非、ご賞味ください」

「そうだな。……うん、うん! この味だ!! 懐かしい」



 侍従を含め、控えていた臣下らにどよめきが湧くのも仕方がない。成人したての少女の料理を手放しで褒める皇帝の様子が、やはりニンリー以外も珍しいと思ったのだろう。祖には遠く及ばないが、懐かしさを感じるくらいには味の調整が出来ていたかと、心の中で拳を作った。



「セルディアス周辺を含める、パンの改善だけでなく。私の得意とするのは饅頭の皮です。基本は今召し上がっていただいた通りですが」

「これは期待の弟子を派遣してもらったな? 調理場の者らにも振舞おう。料理長をここに呼べ」

「! は! ただいま!!」



 侍従のひとりが慌てて呼びに行くのに笑いをかみ殺したが、さてさて、きちんと言うことを聞いてくれる相手なのかが心配なものの。自分より幼いルチャルの方がもっと大変なのだろうから、くよくよしている場合ではないと、ニンリーは意気込むことにした。

次回は木曜日〜

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