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パン職人の弟子の弟子。スローライフの旅へ出発  作者: 櫛田こころ


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第31話『ホイップ入りの揚げドーナツ』②

 ガイウスのリクエスト通りの揚げドーナツは出来たが。せっかくなので、先にあんこ入りの生地を揚げていく。


 そして、適温に冷めるように魔法で工夫してから、ホイップクリームを注入。砂糖の衣をつけてもまだ少し温かいそれを紙に包んで手渡す。

 

 騎士らと同じ食事をするので、こういうのをサンドイッチでも食べたことがあるか知らないが、ルチャルは是非にと渡して食べてもらえるように促す。ガイウスは少し驚いていたが、自分でリクエストしたものだと思い出したのか、少し笑顔になってくれた。



「これが、件の言っていた甘いパンか?」

「油で揚げたものなので、サクサク感とふわふわが両方あります」

「なるほど、いただこう」

「ルチャル~? 俺には?」

「はいはい。いっしょに作っておいたよ?」



 ザイルにも同じものを渡してやれば、ほとんど同時にかじってくれた。カレーパンとは違うので咀嚼音はそこまで聞こえないが、ふたりの笑顔で仕上がりはきちんと出来ていたのだと内心ガッツポーズをとる。


 マルシスたちに味見はしてもらっても、今回のリクエストはガイウスからのものだ。味の好みは聞いていても、気に入るかどうかは食べてからでないとわからないから。



「……美味い、な」

「マジ、うっま!! 豆の甘いのって、はじめて食うけどこんな感じになるのな?」

「ああ。クリームといっしょなのも斬新な発想だが、ここまで甘い豆の味ははじめてだ」

「あんこは祖が一番手作りする中で、お気に入りの食材なんです」

「……元王女殿下が、か?」

「はい。先代のローザリオン公爵様に今でもお作りになられているそうですよ?」

「夫婦仲がいいのだな?」

「おっまえ、公主なんだから。そこんとこ、そろそろ考えたら?」

「私はまだ未熟者だ。二十歳そこそこの若造が他国の姫君を娶れるわけがなかろう」

「あらま」



 ザイルと幼馴染とは聞いていたが、年齢もほとんどいっしょだとは驚きだった。どおりで、砕けた物言いをお互いにし合うわけである。



「っと。ルチャルの前で、そんな話をしても」

「こいつ。外見と話し方以外、俺らとそんな変わんねぇぞ? 別に気にしてねぇもんな?」

「そだね? 兄弟弟子たちのそういう話とか色々見聞きしてたし」

「……そう、か」

「もっと食べます? カカオ豆を加工したものも作ったんです」

「食う!」

「……カカオ豆、を?」

「これです!!」



 外見はさっきのドーナツと酷似しているが、中身が少し違うのだ。マルシスたちが『是非に』と促すので、ガイウスはその包みを受け取ってひと口かじってくれたら。



「!? 少し苦いが、甘味が強い?? これは、ココアよりも断然に甘い!!」

「チョコレート、と他国では名前が流通しているんですよ。ココアパウダーとかではなく、豆そのものを加工して甘みとクリームを加えていくと、こんな感じになります。冷えやすいので、すぐに固まることもありますよ?」

「……興味深いな。白いクリームともよく合う。もうひとついいだろうか?」

「もちろんですよ」

「俺も食べたい!」

「はいはい」



 ザイルの分はついででも、いっしょに用意してあげるのはルチャルなりの優しさだ。少し歳の近い兄弟子になんとなく似ていたので、つい構ってあげたくなってしまう。


 彼も含め、皆はどこの国を目指して、パンを含める食のレシピを改善していっているのだろうか。交信の魔術は使えなくはないが、まだ離れてひと月程度ではお互いに忙しいので近況報告することもないだろう。


 ひとまず、ルチャル自身まだまだすべきことが多いので、連絡をすることはなかった。


 それがのちに、『おバカ~~』と彼らに説教されるとはこの時知らないでいたが。

次回は火曜日〜

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