第26話 少女弟子②と女性弟子②
「右ですかね?」
「わたくしも、右を選びます」
少女と女性。
ふたりの回答に囲んでいた面々が『おお!』と声を上げたのは仕方がないと言うべきか。
彼女らの前にあるのは、ごく普通のバターロールが二皿。左は少しこぶりに見えたが、ふっくらとしているのが右。
それを作ったのは、正面にいる壮年の男性。彼女らに教えを叩きこまれた、料理人らの長だ。
「! ……ありがとうございます」
「あら、お礼を言うまでもないよ? 料理長」
「ええ。素直に美味しいものを作れるようになったのは、あなたの実力がたしかだったからです」
「もったいないお言葉」
彼女らは、セルディアス王国から派遣されてきたパン職人。年齢性別関係なく、師から異能を受け継げることの出来た『逸材』として……その実力は、下手な料理長より確実に上であるお墨付きを自国の国王陛下からも認可されているのだ。
逸材の中でも、派遣された職人らは通称『三世代目』と言われているのだが。筆頭弟子ではなくとも、【枯渇の悪食】による影響で廃れたレシピを改善すべく、任務を言い渡されたのだから実力は確か。
女であれ、男にも容赦なく指摘を入れることのできる立場を持つふたりを……最初は敬遠していた料理長らだったが、即座に見せられたパンの腕前には素直に折れるしかなかった。あまりの美味過ぎる彼女らのパンに、惚れ込んだために。
その彼女らから、ふた月くらいこの言葉をもらえたのだから、感無量になるのも仕方がない。
「では。次の議題に移るわよ? 今度は前に食べてもらった『総菜パン』ね!!」
「デニッシュはまだ早いと思いますよ? シェラス、まずは菓子パン生地を教えねば」
「そうですね、リシア姐!! ん~……ルチャルなら、この場合何教えるかな?」
「あの子の機転の良さは、わたくしもなかなか敵いませんからね?」
料理長は、小さくだが唾を飲み込んだ。このふたりがたびたび口にする『ルチャル』と呼ばれる兄弟弟子のことだ。筆頭弟子の話は聞いていたが、ふたりよりはるかに幼いのに非常に優秀なパン職人として旅に出ているとか。
どんな幼子が彼女らより秀でているのか。
今はどの国でその教えを披露しているのか。
気になるものの、必要以上の会話がまだぎこちなく感じてしまうために上手く聞き出せないでいる。
今日出来たバターロールですら、『とりあえず』の合格点をもらえただけでまだまだ満足してはいけないのだと思い直すしかない。
左は料理人らの中でも特に覚えのいい者に作らせたが、自分が勝たねば立場が逆転していたことにはほっと出来た。これまでの、料理の技術の概念を覆すくらいの腕前は彼女たち自身もまだ満足していないというのにも驚きだが。
やはり、彼女らが特に認めている『ルチャル』という筆頭弟子にも一度教えを請いたいと思うのは……このふたりが、指導中だけは鬼の形相になるのが恐ろしくて冷汗が止まらないのもあった。せめて、もう少しの情けくらいかけてもいいのではと思ったものの……あまりのパンの味の差に怒りを起こすようなものを作っていたこちらが悪いのは仕方がなかった。
「じゃ、料理長? 今度は卵たくさん用意して?」
「た、卵?」
「テーブルロール以外のパンのレシピを伝授しますわ。お覚悟なさいましね?」
「……はい」
次のレシピもまた、驚きの連続と苦労の積み重ねだと覚悟するしかなかった。
次回は木曜日〜




