第25話 好みを聞く
甘いパンと言っても、ルチャルの知る『パン』や『菓子』では星の数ほど存在するので。
まずは、ガイウスの『好み』から聞くことにした。
「私の味の好み?」
「甘い物でも。砂糖の甘さや果物とかの甘酸っぱさがあるじゃないですか? せっかくのおやつです。リクエスト伺いますよ?」
「それは嬉しいな?」
銀の目がやわらかく緩むのは、本当に嬉しいという感情を表している証拠だ。無理難題を言われたとしても、普段から騎士らと変わらない食事を取っている公主にとって『珍しい食べ物』には興味津々のようだ。
「俺はなんでもいいぞ~」
「ザイルには聞いてないー」
「ひっでー」
「はは。ザイルと仲が良いな?」
「出会い頭があんなだったので」
「あんな?」
「食事取り忘れて、こっちの結界の前で倒れてたんです」
「……また、減り具合も見ずに携帯食料を食べ尽くしたのか?」
「よくあるんですか?」
「こいつはな? それでいて、よくSSランクの試験合格したものだ」
「まあな!」
「「褒めてない」」
ガイウスとも意気投合しかけていたので、互いに少し苦笑いしたが話の続きをすることにした。
「ゼスティアの甘いものって、ベリー系が多いのは調べていたんですが」
「そうだな? そのベリーをジャムにしたり、スープのようにした飲み物が多い。甘酸っぱいのが主流だ」
「ガイウス様としては?」
「嫌いではないが、日常として食すものだからな? できれば、それ以外がいい」
「ん~……だとしたら、砂糖の甘さ重視ですね? あと、豆はお嫌いですか?」
「豆? 甘い物に豆を使うのか?」
「あ、それ知ってる!! アズキってやつの甘いもんだろ? お袋から聞いたことあんぜ」
「そうそう。それそれ」
「……豆を甘くする??」
「面白いですし、美味しいですよ~?」
「ふむ。ふたりがそこまで言うのなら、それを頼みたいな」
と言うわけで、貯蔵庫に邪魔をして『小豆』かそれ以外の豆がないか確認したところ。小豆はなかったが、使えそうな豆以外に面白い『豆』が見つかったのだ。
「おお、これはカカオ!!」
「あ? それ何の材料?」
「ココアとかチョコレートの原材料」
「……あの苦いの?」
「あれ? 甘いチョコレート食べたことない??」
「ないない。結構旅したけど、ねぇよ」
「ほう。それは面白い!」
最初は小豆で作る『あんぱん』をイメージしていたが。せっかくのカカオがあるのなら、シュスイと協力して『チョコレート』を作ってみようとプランを追加した。チョコレートがあるかないだけで、普段の栄養の取り方も大きく変わってくることをルチャルはセルディアスでしっかり学んでいた。
『チョコクリームにするんす?』
「そだね。パンは揚げパンにして、あとからホイップと入れるようにすれば」
『久々やね! ルチャルの揚げパンは絶品じゃから!』
「そーう??」
「……揚げ、パン??」
マルシスたちにも指導するのに同席してもらっていたが、説明するところから始めなくてはと『揚げパン』の概要について説明することにした。ひとつは、昨日作ってあえて残したままのパンを揚げ鍋の中で表面をしっかり揚げたところから。
当然、そんな調理法を知らないのはザイルもいっしょだったので、おかしな顔になったのに笑いが止まらなかったのはシュスイと同じだった。
「そんな笑うことか!? 食えんのかよ、それ!?」
「このまま油切ってだけでもいいけど。細かい粒の砂糖をまぶすんだよ?」
「砂糖?」
「これ~」
収納棚から出した『パウダーシュガー』のバッドの中に転がせ、紙で軽く包んだものをザイルへ渡してやる。美味いか不味いかで少し悩んだようだったが、ひと口かじった後の反応は予想通りのぺろりと完食で終わった
「あっま!! 昨日のパン粉とは違った意味でサクサクしてるし……油吸ったとこが、なんか美味いな!?」
「でっしょ~? 白パンじゃなくて、甘いパン生地で揚げるのも有り。この間食べてもらったカレーを包めるようにしたのも有りだね!!」
「カレー!? あれがパンで食えるのか!?」
「今日はそっちはなし。甘いものだけにしとこう。……あれ、初心者には包むのめっちゃ大変だから」
「お、おう。俺、出来上がるまで騎士団の稽古して来ようか?」
「そだね? ちょいと時間かかるし……二時間くらい?」
「ん、わかった」
役割分担が違うと分かれば、さっさと退散する弁えはちゃんとあるようだ。
そのあとに、マルシスたちにはまず『チョコレート』と並行して菓子用のパン生地づくりを指導することにした。卵をパン生地に使うのは大層驚かれたが。
次回は火曜日〜




