第16話 美味しくないのは理由じゃない
さっ、と出したパンの方はすぐに幻影にして収納棚に仕舞い込んだが。
今披露したスキルをどう説明しようかと思っていると、誰かにがしっ、と肩を掴まれたのでびっくりした。相手はエクシス。物凄く頬を赤くして興奮している様子だった。
「ねぇねぇねぇ!? あんなにもたくさんのパンがあるの!? セルディアスには美味しいもの多いって聞いてたけど、そんなに!?」
「……ごく、一部です。今のでも」
「もっとあんの!?」
「おいおい、エクシス。ルチャルがびびってんだから、ちょい離れろ」
「え~? 副団長のケチぃ」
「ケチとか関係ない。あと、目ぇ怖えーから顔戻せ」
「え~~~」
シュートに無理やり引き剥がしてもらったので、少し息を吐けた。慣れていないわけではないが、久しぶりのそれに近かったので少しびっくりしただけだ。別にシュートの言うように怖がってはいなかった。
「とにかく。ルチャルは大事な客人だ。同じ女だからって、同室にするとか言い出すなよ?」
「え!? なんで!!?」
「一人部屋の方がいいだろ。長旅で疲れてるだろうし」
「え~~? お姉さんとじゃ、ダメ?」
「却下」
「副団長のいけずぅううう!!」
「僕も同意見です。幼いとか関係なく、精神年齢は君より断然上の女性のそれに近い。丁重に扱うのが道理ですよ?」
「……フェル副団長までぇ」
「あはは……」
たしかに、契約精霊も連れているのでひとり部屋の方が有難い。話してよくない秘密も多いので、同室でまずいことは色々多いのだ。
「あ、あの! お、お嬢さんはゼスティアにしばらくいるんですか!?」
ここで、あっけにとられていたのがようやく落ち着いた調理人のマルシスが、今度はルチャルに質問をしてきた。その表情は興味以上に期待に満ちた目でいたが……正直な答えを返すことにした。
「しばらくはお邪魔しますが。ずっとではありません」
「……そ、そうですよね。すみませんです」
「いえいえ。ライ麦パン以外のパンのレシピをこの国でお伝えするのが、あたしの役目。それはちゃんと伝授しますよ?」
「! ほんとに!?」
「けど。ライ麦パンを否定するのはよくないですよ? 酸っぱくてぼそぼそするけれど、師曰く、これは地方色の影響が強いパンらしいです」
「「「「「地方色??」」」」」
「【枯渇の悪食】の残り滓とも聞いていますが。流れに流れて、それぞれの地域でなんとか復活した食事のことを言うそうです。ライ麦パンも、きっとそのひとつです」
「……まずいわけじゃ」
「全然。シチューにつけたり、スープと食べるとちょうどいいパンなのはわかったじゃないですか? あとは、サンドイッチもいいですね?」
「「「「「サンドイッチ??」」」」」
「……ここにはないんですね」
まずは、そこからか~と、ルチャルはせっかくだからと収納棚から適当にサンドイッチがないかステータスで探してみる。
その中でいくつか残っていたので、さっきと同じようにして幻影でないそれらを……まずは、団長と副団長ふたりに差し出してみた。
「「「これが??」」」
「卵サンド、ツナサンド、ウィンナーのオープンサンドっていう種類のやつです。バターロールっていうパンに切り込みを入れて具材を挟んだだけですよ」
ルチャルとシュスイのおやつ用に仕込んだだけなので、ほかにもまだまだ色々あるから問題ないと言いたかったが……念話でシュスイが騒いだので、食べたかったのかもしれない。厄介になる間作るからと諭しておくことにした。
三人は目線を合わせてから食べだしてくれたが、皆同じくと言う感じに、『美味しくてびっくり』な顔になったあと……周りを気にせずにがっついていった。
「……団長たち、いいなあ」
「……ですね」
そして、エクシスたち騎士らは恨めしそうにしていたが、ここは慎重にいかなくてはなので彼女らは少し後回しだ。
「ふわふわなのに、味がしっかりしていますね!」
「病みつきなるな、こりゃ!」
「……美味かった」
「良かったです」
ライオスからもいい反応をすぐもらえたので返事をすれば、ぽんっと頭を軽く撫でてくれた。
「……試食係は大食らいが大勢いるから気にしなくていい。だが、身体が幼いことに変わりはない。無茶はしないでほしいし、マルシス以外の調理人らにも教えてやってくれないか?」
「団長!!」
「了解しました!」
その日の夕食のメニューには、さっそくと言わんばかりにマルシスへ白パンの作り方を『手ごね』から順に教えることとなった。
次回は火曜日〜




