第17話 ちょっとぶりの再会
マルシスに『手ごね』への細やかな技術と、結構な体力消耗にあくせくしていると……騎士でない客人の訪れがあった。
「よっ、ルチャル!」
関所で別れたきりだが、半日ちょっとでもうSSランクの試験に合格でもしたのか。ザイルがいい笑顔をしながら中に入ってきた。
「ザイル。試験終わったの~?」
「おう。半日かけて、みっちりやってきたぜ! んで、ギルマスからももらったぜ! ランク認定のギルドカード!!」
黄金よりさらに上のプラチナ色に輝いているカードを見せてくれた。ランクの箇所もきちんとSSとあったので、これで本当にランクが確定したのだろう。ちょっと抜けていたりもするが、お人よし以外にも実力はたしかなのだなと、今度手合わせしたくなったルチャルである。
「あの~……そこのお兄さん。ルチャルさんのお知り合い?」
ひとり置いてけぼりにっていたマルシスのことを、若干忘れかけていたのでザイルのことを紹介することにした。
「シュート副団長とは知り合いの、冒険者さんです。ザイルって言います」
「こっちにはあんま顔出ししてなかったしな? ライオス団長らにも許可もらってんだ。しばらく厄介になる」
「そう、ですか。自分はマルシスです」
「今白パン作り教えてたんだー」
「早速か。んじゃ、邪魔しちゃ悪いし。シュートらと打ち合いしてくるわ」
「おいおい。向こうは仕事かもしれないんだよ?」
「俺のランク昇格知ったら、動くの向こうだぜ?」
「あーね……」
風のように登場して、そのまま去る……またあとで会えるのなら、それはそれでいいというのもザイルらしい性格だ。
それに、まだ手ごねを終えてからの『発酵』をマルシスに教えなくてはなので構っていられなかったのも本音だった。
「……すぐに切ったり丸めたりせずに?」
「ガーゼ布を濡らして、少しかぶせておくんです。あたしのような職人はスキルで短縮出来ますが、今は初回なので『手作り』を重視しましょう」
「……なるほど」
ほかのパンに発酵がないわけではない。しかし、【枯渇の悪食】の影響が色濃く残っているというゼスティア公国ではライ麦パン以外の主食が乏しいと教えてもらえた。パン以外だと煮込み料理が多く、やはり北国と言うこともあってスープをメインに食べることがほとんどだとか。
そのため、パンはあくまで添え物程度。地方色で残ったライ麦パンがそれかもしれない。
他国との交易がないわけではないが、文化交流が少ないと食文化についても同じ。そこを改善すべく、公主のガイウスがここから動けば。少しずつで国民たちの食事改善に繋がるだろう。ルチャルは使者としての仕事は、まずそこからだと思っている。
なので、騎士たちの胃袋からどんどん掴んで行こうと、マルシスへ積極的に教え込んでいくのだった。
「発酵は一回だけじゃなく、二回以上」
「え」
「分割して丸めてからも、またベンチタイムという置く時間を作って」
「えぇ?」
「さらに焼く直前のふくらみもきちんと目で確認です。ここも大事ですよ?」
「……えぇえ?」
語彙が失ったような反応になるくらい、パンの調理法がここまで浸透していないとは。直感で選んだ国だったが、ルチャルくらいの職人がゼスティア公国に最初に来たのはちょうどよかったかもしれない。
ほかの弟子らはそれぞれ任務をこなしているだろうが、今頃どのあたりまで行ったのか。ホムラ皇国、ソーウェン帝国などなど、友好国や同盟国は多数あるが……セルディアス王国からかなり離れた北国に、ルチャルがいると知ったら彼らはどんな感想を浮かべるだろう。
多分、『大丈夫じゃない?』とほとんど言ってくれそうだが。
「はい。焼けましたよ~?」
ミトンを借り、天板の上にあるパンを見せてやれば。きちんとした『白パン』の出来上がりだった。マルシスは手伝いとは言っても、ほとんどを自分の手で作ったライ麦パン以外のパンの仕上がりに……思わず、涙をこぼしそうなくしゃっとした表情になっていた。
「見た目は合格圏内。次は味です。バター、あります?」
「バターを?」
「つけると、最高に美味しいんです」
「取ってきます!!」
ルチャルの弟子ではないが、慕ってくれるくらいに信用してもらえたのが嬉しく。背中でそれを体現していたマルシスの様子を見ながら、天板を調理台の上に置く前にシュスイの魔法で浮かせてもらった。
『あんなので、いいんかい?』
「まあ、ここからスタートだよ」
師の言いつけ通りに出来ていると言えば出来ているかもしれないが。まだまだ赤子のハイハイ以下の、指導開始なのだから。それでもあれだけ喜んでもらえるのは本気で嬉しかった。
次回は木曜日〜




