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第二十七話 調査

 博士からの命令は『研究のため無傷で生け捕りにせよ』とのものだった。しかしそれは非常に困難である。通常のシーカーとは比べ物にならないくらい高い身体能力を持っているのだ。ガンマとアトムが居ればなんとかなるかもしれないが、呼び寄せる余裕はない。それに近くに博士がいるのだ。人を守りながらの戦いは相当な力の差がなければ出来ない。


「このまま生け捕りにするのは不可能です。多少、体を砕いて動きを弱めなければなりません」

「やむを得んな。やってくれ」

「了解しました」


 ゼロは相手の手足に攻撃を集中した。立つ事が出来なければ追われることもない。手が動かなければ攻撃されることもない。捕獲するためには手足を破壊して無力化しまうのが得策だ。


 僅か一体の敵にこれほど手こずったのはウォルツォーネという大男以来のことだった。通常はある程度パワーセーブを効かせながら戦うようにしている。エネルギーの節約と各パーツの劣化防止のためである。だが目の前の特殊シーカーは到底このままで勝てる相手ではなかった。


 博士から許可をもらい、八十パーセントまでリミッターを解除した。


 幸いにもパワーを開放したゼロの力は特殊なシーカーを上回っていた。

 と同時に、相手が一体だけでなかった場合は非常に危険であるということも分かった。


 二体なら百パーセントのリミット解除で何とかなるだろう。

 五体までなら、ガンマやアトムと共に戦えば倒すことが出来ると考えられる。


 しかし、更に数が多くなれば対応できないのは明白だ。


「博士。私の体はこれ以上パワーアップできないのですか?」

 戦利品として特殊シーカーをひきずって研究室まで戻ったときに、ゼロは尋ねた。それは博士を守るために必要と思われる措置だからだ。


「出力を上げることは可能だが、パーツが持たないのだよ。だが確かに何らかの対策は必要になってきたようだな。この特殊シーカーだけでなく、シティの追っ手のこともある。奴ら、そろそろ『アジア・南エリア』に到達する頃だろうからな」


「まだ我々を捕獲するつもりでしょうか?」

「もちろんだとも。私の研究成果は喉から手が出るくらいに欲しいはずだからな」


 特殊シーカーに加えてシティの追っ手があるとすれば、尚更パワーアップは不可欠だ。あらためて博士にはパワーアップの必要性を訴えなければならない。

 それが、ゼロの人工知能が導き出した次のアクションだった。


 しかし今の博士は戦利品である特殊シーカーの研究で頭が一杯のようである。進言するタイミングは見極める必要があるだろう。


 それに、ニーナのマシン化という作業もある。

 襲撃から一ヶ月経った今でも博士の頭の中には余裕が生まれそうになかった。


 仕方なく、ゼロは付近の地質調査に出ることにした。

 パワーアップするにはSS合金の素材となる鉱物資源が必要だと博士から聞いた。このエリアで採取できる場所があるのかどうかを地道に調べていく必要がありそうだ。


 博士の護衛としてガンマを残し、アトムには今までどおりSブロック周辺を巡回してもらう。そしてゼロは理由を話して外出の許可をもらい、調査に乗り出した。


 さすがに一人では無理なので博士からリーダーのアムールに頼んでもらい、住民達にも手伝ってもらうこととなった。日替わりで参加者が変わるが、大体十名から二十名は集まってくれている。武器も豊富にあるため、この人数ならある程度の規模に襲われても迎え撃つことが出来るだろう。


 だが住民達はゼロがマシンであることを知らない。単に戦闘能力に秀でた戦士だと言う事になっているからだ。そのためブロックの外に出ると非常に用心深くなる。


「やばいですぜ、ゼロさん。ありゃあ結構な大群だ」

「問題ない。このまま進んでくれ」

「も、問題ないってアンタ……」


 運転席の男は前方に見える百体ほどのシーカーを見て怯えている。まるで引き返さんばかりだ。


「お前達は車の中に居てくれ。私が対応する」

「いやいや、銃があるので戦うなら俺らもやるが、さすがに数が多くないか? ブロックが襲われているならまだしも、単なる調査のためにわざわざ命を張る必要なんてねぇだろ」

「あの数なら大丈夫だ。それより銃を使われると付近のシーカーが集結してくるので迷惑だ。車の中でじっとしていてくれ」


 ゼロは最善策を示した。相手の数が二百を上回るなら住民達にも銃を使ってもらい迎撃したほうが良いのだが、この数なら自分一人で何とかなる。銃を使う事によって余計なシーカーを増やす事は避けるほうが懸命だ。


 それなのに住民達は明らかに不快感を示した。

 頼られる事を期待していたのだろうか。それなら落胆するのも無理はないが、残念ながらゼロの人工知能ではこれ以上最適なコミュニケーションを取ることは不可能だった。


 調査ポイントに辿り着くと、住民達を車から降ろして仕事を依頼する。


「私はここで周囲の警戒にあたる。各自、与えられた仕事を滞りなく遂行してくれ」

 そう告げると、またもや不満そうな顔を向けらた。


 何故だ。

 自分も働いたほうが良かったのか?


 確かに自分一人だけ休憩していて、皆をコキ使っているように見えなくはない。

 しかし、今度は住民達の力を頼ったのだ。


 やはり博士が居ないと人間とのコミュニケーションは難しいと思われる。

 だが博士の手が回らない以上は多少強引でも調査を進めるしかない。幸い、博士とSブロックとの契約の事もあって鉱物資源採取のための調査については拒否される事はなかった。住民達の心の内は全く分からないが。


 調査を行っているときも当然のごとくシーカーが漂ってくる。一〜二体であれば住民達が自ら排除するが、多い場合でも銃は使わずゼロが駆けつけるのを待つように言ってある。


 運よく五百や六百といった大群に見舞われることなく調査が進んでいたのだが、調査開始から十三日目に不測の事態が発生した。


 シーカーの大群とは異なる物体をセンサーが検知したのだ。

 重量のある大きな物体が地面を駆ける音である。


 これは九十八パーセント以上の確率で人工的に作られた鉄の塊、すなわち装甲車だ。

 すぐに住民を呼び戻さねばならない。


 相手が人間となれば、戦力の大きさは全く分からない。装甲車に乗っているということであれば、少なくとも銃などの装備はあると考えた方が良いだろう。


 更に、現在は博士が不在の状態である。もし敵対された場合、穏便に相手をやり過ごすことは不可能に近いと言わざるをえない。


「すぐに車に戻るんだ。急いで撤退する」

 ゼロは住民達に声を掛けてまわった。


「何があるってんだ。シーカーならいつも通りお前さんがやっつけりゃいいじゃねぇか。数が多いなら俺らも手伝うぜ。いい加減、いつまでも子供扱いしないでくれよな」

「違う、シーカーではない。おそらく人間だ」


 明らかに住民達の動きは悪い。

 普段から不満が積もっているのだろう。調査の際も依頼した事に対する動きは非常に悪かった。だからと言って調査スピードが遅いという以外には実害がなかったため、ゼロも特に問題視はしていなかった。


 しかし今の状況では致命的だ。

 場合によっては住民を見捨てて逃げる必要があるかもしれない。優先順位的には博士の次に自分自身の身を守る様にプログラムされているからだ。


 車が更に近づいてくる。

 どうやら一台のようだ。センサーから導き出された車のタイプは、小型の装甲車であった。せいぜい四〜五人が乗車できるタイプだ。これなら対応できるかもしれない。


 銃撃されて住民に死者が出ても、それはそれで仕方がない。

 逃げ出してSブロックの場所を突き止められるよりは、ここで迎え撃ったほうが良いだろう。


 やがて目視できる距離まで相手の車が接近してきた。

 フロントガラスからは運転している人物と、助手席に座っている人物が確認できる。


 後部座席にも何名か乗車しているようだ。


 そしてゼロの瞳から脳にあるチップに届けられた映像は、相手が知っている人物であることを明確に示していた。


 四流村(しりゅうそん)のリーダーであるウォルツォーネという人物だ。


 二メートルを超える巨体が車から降り、二人の人物に守られながらゆっくりと歩いて来る。

 このときゼロは計算が大きく狂った事を認識させられた。


 第一に相手が彼だったこと。

 並みの人間とは戦闘力が格段に違う。


 そして第二に相手にもマシンが居たこと。

 ウォルツォーネの傍についている二人の人物は人間ではなく、マシンだ。


 運転手の一人も含めると、どうやら全部で四人のようだった。

 それに比べ、こちらはマシンであるゼロに加えて十三人の武装した住民が居る。相手が通常の人間だった場合は何の問題もなかったのだが、どう計算しても楽勝という状況ではなくなった。


 そうなると重要なのは敵か味方か、だ。


「久しぶりだな、ゼロ。まさかこんな場所で再開できるとはな」


 大男が言葉を発した。

 まるで偶然だといわんばかりの内容である。

 彼等は四流村(しりゅうそん)に住んでいたはずで、何らかの理由で移動をして来ただけなのかもしれない。確か最初は敵対したものの、その後は友好的な関係だったはずだ。


 だがしかし、二体のマシンに守られていることの説明がつかない。

 今のところマシンを作る技術を持っているのは博士とシティの人間だけのはずである。という事は、彼はシティと手を組んだという事なのか。


「用がなければ、このまま素通りしてもらいたい」

「残念ながらそうはいかん。出会ってしまったからにはな。申し訳ないが捕獲させてもらう」


 彼は『出会ってしまった』と言った。

 言葉通り取るなら、不本意ではあるが出会ったがために敵対せざるを得ないという事か。ゼロの人工知能ではこれ以上の深い解釈は出来そうにない。


 とにかく今は敵である事は間違いないようだ。

 素早く戦力を計算する。

 ウォルツォーネは以前に戦闘しているため正確な数値が分かる。車の中の人間はルービックという女性だと判別できた。こちらも以前にアトムが戦ったときの情報が共有されている。あとの二体のマシンだが、シティで作られた量産タイプであることは間違いない。


 住民達も加わってくれれば戦力は五分だ。しかしゼロのパワーを八十パーセントまで開放すれば戦力はこちらが上となる。緊急事態のため、パワー開放は問題ないだろう。


「銃の使用を許可する! 奴らは侵略者だ! あの大男を銃で狙い撃ちしてくれ」

 何が起こって居るのか全然理解できず、呆然としている住民達に大声で怒鳴った。

 相手が四人という事もあり、別段問題視はしていないのかもれしない。


「どうした? 相手は間違いなく敵なんだぞ! それも戦いのプロだ」

 その言葉でようやく緊急事態ということを悟ったようだが、皆慌てて車の陰に隠れてしまった。


 仕方なくゼロは相手に向かって突進する。

 敵のマシンは所詮、量産タイプである。二体同時に相手をしたところで全く問題はない。ウォルツォーネは後回しにして、先にマシンを沈めることを選択した。


 マシンという盾がなくなれば、距離をとって銃撃するという戦法もとれるだろう。住民達が落ち着いて協力してくれればの話だが。


 ゼロが距離をつめると、二体のマシンが同時に攻撃を仕掛けて来た。やはり量産タイプだ。その攻撃力には何の脅威もなかった。十分に余裕をもって受け止め、反撃の拳を叩き込んだ。


 その攻撃を相手はがっちりと両腕で防御する。

 彼らの腕には小型の盾が付けられていた。今までの量産タイプには無かった装備だ。念のために合計三回、盾に拳を叩き込んだ。相手の防御力を確かめてデータ化し、博士に伝えるためだ。


 今までの量産タイプなら、八十パーセントまでパワーを開放したゼロの拳をもってすれば一撃で腕を破壊できていたはずだ。しかし、今は全くダメージを与えていない。かなりの強度をもった材質で作られていると考えられる。


 ゼロは攻撃をキック主体に切り替えた。足には盾が付いていなかったからだ。

 すると相手は途端に逃げの体制に入った。逃走するのではなく、あくまで戦闘態勢は保ったままである。


 何故攻撃してこないのか?

 もしかすると増援を待っているのかもしれない。今でも決して余裕があるわけではないので、増援は避けたいところなのだが。


「聞いてくれ!」

 ウォルツォーネが言った。

「我々の目的は、この女だけだ! 他の者は速やかに立ち去るが良い!」


 威圧感のある大きな声が響き渡ると、五秒間の静寂が続いた後に住民達は逃走した。その動きは非常に素早かった。

 鉱物資源の調査を行っている時の動きとは比べ物にならなかった。住民達もパワーを解放したのかもしれない。


 ゼロも更にパワー開放する時がきた。今、極めて危険な状況となっているからだ。第二優先事項である自分の身を守るという事が遂行できない可能性が非常に高くなっていた。


 速やかに内部のリミッターを外して百パーセントまで出力を上げる。

 この状態で戦うとパーツの劣化が著しいため、短期間で戦闘を終了させなければならない。


「大人しく降参してくれないか? 出来れば無傷のまま捕獲したいのだが」

 そう告げるウォルツォーネに向かってゼロは飛び掛かった。


 二体のマシンがすぐさま前に立ちはだかるが、構わず体当たりを仕掛ける。フルパワーのゼロの前には、盾を装備しただけの量産タイプは無力だった。


「貴様! それほどまでに強いのか」

 吹き飛ぶ二体のマシンを見てウォルツォーネが臨戦態勢に入った。以前装備していた偃月刀(えんげつとう)とは異なるが、相変わらず身の丈に合った巨大な鉄製とみられる剣を保持していた。


 あれだけの長さであれば、かわしてから懐に入るのは難しい。多少ボディが破損する可能性はあるが受け止めてから潜り込むしかなさそうだ。


 ゼロはそのまま突進した。


 そこへ巨大な鉄の固まりが振り下ろされる。およそ人間とは思えない激しい一撃だったが、全く体制を崩すことなく受け止めることに成功した。ここまでは計算どおりだった。


 しかしその直後、ゼロの体に異変が起きた。

 チップからの信号が肢体に伝達されないのだ。


 ゼロは、頭の上で両手を交差させて剣を受け止めた状態のまま固まってしまっていた。


「すまん!」

 そしてウォルツォーネが短く謝罪のような言葉を発するとともに腹部に何かを巻きつけた。金属製のワイヤーだ。そしてワイヤーには電子機器らしきものが取り付けられている。


 やがてゼロの頭部に搭載されているチップの動作も、その動きを停止した。


 まさしく不測の事態だ。

 だがゼロの頭部にはバックアップ装置が搭載されていた。万一、メインのチップに障害が発生した場合に予備のチップが作動してシステムの復旧を行うのだ。


 予備のチップは設計どおり、五分後に起動した。


 まずはメインチップの状況を確認する。

 メインチップは完全に動作を停止していた。原因は不正な電流によるものだった。現在も流れてきている。まずは電源を供給する回路から切り離し、予備チップから直接電気を送るように変更した。


 これで再起動できるはずである。

 予備チップの活躍により、何とかメインチップだけは再起動が完了した。

 だがこれが限界である。


 相変わらず外部のどこかから異常な電気が流されており、それがゼロの体全体を覆っている。メインチップ以外は、この電流から切り離すような仕組みは搭載されていなかった。


 無事にメインチップが稼動すると、ゼロは周囲の状況を確認した。

 人間で言うところの『目』、『耳』にあたる部分との通信が全くできないため、メインチップに搭載されている簡易的なセンサーのみで情報を収集しなければならない。


 だがあくまでマシンとしての高性能な検知能力がなくなっただけで、一般的な人間と同じ程度の聴覚や視覚は保持できている。


 センサーは、不規則な振動をキャッチした。

 どうやら車に乗せられて移動しているところらしい。どこに向かっているのかは不明だ。


 次に自分の体をチェックすると、完全に拘束されている事が分かった。幸い確認できた範囲では、体には物理的な損傷は無い。相手の目的が何かは分からないが、少なくともゼロの破壊ではなさそうだ。博士と取引するための材料にする予定なのかもしれない。


 もし目的地がSブロックだった場合、博士の身には危険が迫っていることになる。ただでさえ現在はガンマが一人で護衛している状態なのである。それに加えて、ゼロの体を停止させた未知の武器が存在するとなると勝ち目は無い。


 何とか危険を知らせる方法は無いものなのか……。


 逃げた住民達が正確に博士に報告してくれていれば良いが、そうでなければ最悪、単なる盗賊の襲撃と思って応対される危険がある。ガンマとアトムも変な機械を取り付けられて停止させられてしまう可能性が高いだろう。


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