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第十四話 異変

 どれくらいの数がいただろうか。

 とりあえず、第一陣は凌いだようだ。仲間に被害が出ていない事が確認できて直哉は安心した。


「イブ、どうだ」

「この辺りは、もう居ないようだ。だが向こうのほうにかなりの数がいる」


 イブが指差した方向は、他の住民達の住居があるところだ。

 やがて、その方向から発砲音が聞こえてきた。かなり乱射している。


「助けにいかないと」

「ばか言え! 道連れになりたいのか?」

 イーサンが激しく反対した。


「しかし、どのみち車のキーが無いことには逃げることすら出来んぞい」

「ちっ。仕方がねぇか」


 直哉達は音のするほうに急いだ。

 こちらも大量のシーカーに襲われていた。


 彼女は大丈夫だろうか?

 直哉の脳裏にジェーンの顔が浮かんだ。他の住民が直哉達に冷たく接するなか、ジェーンだけは味方をしてくれた。昨日の夜には二人で会って色々な話もした。


 ジェーンはここの人間ではなく、外部からやって来たと言っていた。ここと同じような農場で生活していたが統治する人間の派閥争いが原因で追い出され、彷徨っていたところを保護されたらしい。


 すぐ目の前で住民の一人に襲い掛かろうとしているシーカーに斧を振り下ろす。


「助かったよ」

「いえ、それよりも僕らの車のキーをブラウンさんという人が持っているらしいのですが、どこか分かりますか?」

「分からない。この騒ぎで皆ばらばらになっちまった。彼の家なら向こうなんだが……」


 とりあえずその住民が教えてくれた家に急ぐと、途中で見知った人影が前方を横切った。

 

「ジェーン! 無事だったのか!」

 人影は走り去るジェーンだった。


「直哉!」

「ブラウンさんは何処だ? 車のキーが欲しいんだ」

「分からないわ。それよりも一緒に来て。銃を取りに行くの。あなた達にも渡すわ」


 ジェーンが案内してくれた場所には、大量の銃器が保管されていた。


「すげえじゃねぇか。これだけありゃ何とかなりそうだ」

 早速イーサンが嬉しそうに銃を漁り始めた。


「直哉、手伝ってちょうだい。ミーヤ達が家に閉じ込められたままシーカーに囲まれているの」


 ミーヤというのが誰かは知らないが、この銃器類を使って助けるのを手伝って欲しいということだろう。

「手伝うのはいいが、銃の腕前は子供以下だよ」

「運ぶだけでいいのよ。あとは大人たちに渡せば何とかしてくれるわ」

「わかった。イブ、君も一緒に運んでくれ。グレイトさん達は車のキーを捜してください」

「ああ、わかった」


 持てるだけの銃を持ってジェーンと共に閉じ込められた住人の救出に向かう。途中、何体かのシーカーに襲われたがジェーンが銃で仕留めてくれた。


「みんな! 銃を持ってきたわ」

「ジェーン! 助かった。俺達がここで引き付けておくから、裏口からミーヤ達を救出してくれ」

「ええわかったわ」


 大人たちが早速銃を手に取り、手当たりしだいに乱射を始める。まるでその音が食事の合図であるかのようにシーカーがうようよと集まってきた。それを確認したジェーンは家の裏口に回った。直哉も同行する。


「まだいるわね」

 ほとんどのシーカーは銃の音に(いざな)われて表に向かったが、まだ二体のシーカーが残っていた。ここで銃を使えば囮作戦の意味がなくなってしまうし、そもそも銃を運ぶために他の武器も置いてきたので今は丸腰だ。


 ここは仕方なくイブに頼むしかなさそうだ。


「イブ、あの二体を排除してくれ」

「了解した」

「ちょ、ちょっと……」


 ジェーンが心配そうに引きとめようとする。

「大丈夫だよ。銃は使わない」


 イブの接近に気が付いたシーカーが掴み掛かってくる。イブはその腕を逆に掴み返し、拳を顔面に叩き込んだ。まるで巨大な鉄球をぶつけられたようにシーカーの頭部が破壊され、無事に一体目の処置が完了となる。イブはそのまま二体目のシーカーの後頭部に蹴りを入れてあっさり仕留めると、終わったとばかりに直哉に視線を向けた。


「え? 今のは一体……」

「話は後で。ここの人を助けるんだよね?」


 誤魔化すために戸惑っているジェーンを促して救出を行う。

 その後は特に問題なかった。家には小さな女の子と、その母親らしき女性が残されていただけだった。女の子の名前がミーヤというのだろうか。とにかく無事救出できた事で直哉も一息つく事が出来た。


 しかし、状況が良くなった訳ではない。

 囮になってくれていた住人達と合流すると、シーカーを排除しながら移動する。


「え?逃げるんじゃないのか?」

「当たり前じゃない。どこに逃げるって言うのよ」


 直哉はてっきり皆でここを捨てて逃げるものだとばかり思っていた。が、そうではないらしい。まさか、これだけの数のシーカーを迎え撃つというのだろうか。


 皆について行くと、例の武器が大量に保管されていた場所に戻ってきた。さっきは慌てていて良く分からなかったが、単なる武器庫ではなく、バリケードで強化された一つの建物になっていた。まるで砦のようである。


 中には既に十数人の住民が避難していた。非常時に立て篭もって応戦するための建物なのだろう。吹き抜け構造になっており、二階の窓からは数人の住民が投石器でシーカーを攻撃していた。小さな集落にしては、不釣合いなくらい防衛体制が取れているようだ。


「本格的だね……」

 思わず声に出してしまう。


「稀にシーカーの大群が来るのよ。今回はさすがにいつもより多いけど」

「過去にもあったんだ」

「きっと柵も大分やられちゃったわ。せっかく直哉たちが直してくれたのにね」


 そういえば、もう少しで復旧作業が終わる所だったのだ。


「いいのよ。あなた達は約束を守ってくれたんだし、この騒ぎが収まればちゃんと物資も提供する。……って、私が決める事ではないけどね。ブラウンさんだって、きっと不義理はしないわ」


 そう言うとジェーンも二階に上り、投石器での攻撃に参加した。


「何かおかしいわ」

「そうだね」


 ジェーンのつぶやきに直哉が同意する。

 ジェーンと共に二階から投石器で攻撃していた直哉だったが、良く観察すると動きのおかしなシーカーが居ることに気がついた。こうして上から見ていると良く分かる。通常奴等は決まった動きをせず、単にふらふらと動き回るだけだ。


 しかし一旦人の存在を嗅ぎ付けると、わらわらと集まってくる。そしてそれは連鎖反応的に集結してくるのだ。


この状況であれば、住民が立てこもっている砦に集まってくるはずだ。確かに集まってくるシーカーも居る。が、大半は何かに向かって歩いているような、そんな感じがした。


「みんな、一旦攻撃の手を止めてみて」


 ジェーンが皆に提言する。


「ジェーン、どうしたんだ?」

「静かにして。様子をみるのよ……。ほら、何となく、どこかに向かって歩いているような気がしない?」


 攻撃の手をとめてみると、何体かのシーカーは砦の壁や扉を叩き、よじ登ろうとしているのが見える。しかし、それはあきらかに少数だ。


「ね、変だと思わない? こちらから手をださなければ、そのまま通り過ぎて行くみたいよ」

「本当だな。これはどういう事だ?」


 住民達も、この不思議なシーカーの行動が理解できず、ただ息を潜めて通り過ぎるのを待っている事しか出来なかった。


          ◆


 『インド・南エリア』のBブロックでは異常が起きていた。

 日常の延長線上にある異常だ。


「撃てーーーーっ!」


 轟音とともに人の頭ほどの大きさがある黒い弾丸が飛んでいく。その弾丸は、シーカーで出来た海の中心に着弾し、派手に炸裂する。その攻撃力ときたら、ちゃち(・・・)な拳銃の比ではなかった。一度に百体ほどのシーカーが飛び散るように投げ出されて、有無を言わさずその活動を停止させた。


 Bブロックの軍事力は他に類をみない程である。

 南側に据え付けられた三基の大砲は、まるでこの世界を丸ごと破壊してしまうかのような迫力をもって火を吹いていた。

 おそらく重火器の数では『インド・南エリア』どころかインドエリア全体で見てもトップクラスだろう。


しかし、リーダーの顔からは止め処なく汗が流れ出ている。

 もう何十発撃っただろうか。


「まだ残っているのか!」

 とうとう我慢できず、不安な気持ちを部下にさらけ出してしまった。

「残っているどころか、ますます増えております。リーダー、ここは念のためマドゥに避難をしてください」

「ばかもの! オレが逃げてどうするんだ。それよりも、新型の爆薬を使え」

「え? あれは未だ研究中では……」

「そんな事を言ってる場合ではない。大丈夫だ、前回の改良で運搬中に誤爆することは無くなった。失敗しても単に不発となるだけだ。ダメもとでやってみろ」


 リーダーは、部下に避難しろと言われて腹が立ったが、そのお陰で少しだけ冷静になれた。


「おい、弾薬の残りはどれくらいだ?」

「三十程度です」

「新型を加えても五十というところか……。誰か、マドゥに使いをだすんだ。至急援軍をくれ、とな」


 北にあるMブロックの事を通称、マドゥと呼んでいる。このBブロックとは交流が盛んで良好な関係を築いていたため、援軍の要請には応えてくれるだろう。あそこは重火器類の数はそれほど多くないが、兵士の量と質では『インド・南エリア』のなかではトップクラスだった。


 マドゥまで距離があるため、援軍到着まで早くても二〜三週間はかかるだろう。果たして凌ぐ事は出来るだろうか。弾薬が尽きた後は白兵戦だ。リーダーは、部下に準備をさせると自らも武器を手に取った。


 ここBブロックの城壁は完璧だ。重火器類の弾薬が尽きたからといって、そう易々と崩されることはない。白兵戦用の武器も大量にあるのだ。


 リーダーはとことん篭城して応戦する覚悟を決めた。


 が、その僅か一時間後に悪夢のような報告がなされた。


「リーダー。使いに出したメンバーがシーカーに襲われました。十名で出発しましたが、もしかすると全滅かもしれません。予想よりも多くのシーカーが、このブロックの北側にも集まっていた模様です」

「なんだと?」

「メンバーの一人が戻って来たのです。すでに感染しているためお連れできませんが、状況を聞く限り絶望的です。残りの九名はマドゥに向かっていますが、おそらく無事ではないでしょう」


 最悪の結果だ。

 時間とともに、ここBブロックはシーカーに取り囲まれていった。もはや使いを出すこともできない。


 奇跡的に、使いの者が無事にマドゥまで辿り着くのであれば、この篭城に意味はある。

 しかし先ほどの報告を聞く限り、可能性はゼロに近いだろう。


 助けはこない。

 なら無謀を承知で打って出るか。

 出るならもちろん早いほうが良い。


 リーダーは、既に判断ミスをしていた事を心の底から悔やんだ。

 まさか、このBブロックが軍事力で遅れをとるとは思っても見なかった。変なプライドがあったのかもしれない。もっと早くに助けを呼ぶか全軍で逃げておくべきだったのだ。


「ここを捨ててマドゥに向かうぞ」

 悲壮感を全て自分の中に閉じ込めて、力強く部下達に伝えた。その表情を見れば、部下たちは希望を持つことが出来るだろう。


          ◆


 マドゥのリーダーであるウォルツォーネは、その報告が信じられなかった。


「何だと? もう一度言ってみろ」

「は! Bブロックが壊滅した模様です。若干名の生き残りが南街に辿り着きましたが直ぐに発症したため、やむを得ず処置しました。僅かに聞き取れた情報では、シーカーの大群に襲われたとのこと」


 再度報告を聞いても信じられない。


「あれだけの軍事力を誇るBブロックが、単なるシーカーにやられるなど考えられん!何かの間違いではないのか?」


 部下に罪は無い。

 しかしウォルツォーネは、その男を殴り倒したい衝動に駆られた。


「逃げてきた者の中には、途中までBブロックのリーダーと行動を共にしていた者も居たとのことです。おそらく間違いはないかと」


 リーダーもやられてしまったということか……。

 もしそれが本当なら、ここマドゥにもシーカーの大群が押し寄せてくる可能性が高い。


 真偽の確認は後回しにして、まずは南街の防衛を強化する必要がある。


「……わかった。至急、兵を五百ほど確保するんだ。南街の防衛にあたる」

「ご、五百でありますか? それでは、ここマドゥの戦力が半分になってしまいます」

「Bブロックの二の舞になりたいのか? 大丈夫だ、近隣の街や集落から兵を少し引き上げさせるんだ」


 マドゥが保有する兵は約三千ほど。しかし二千近くの兵は近隣の街や集落へ派遣されていた。その見返りのような形で物資を徴収することによりマドゥは生計を立てている。兵の引き上げは緊急事態ということで納得はしてもらえるだろう。


「わかりました。すぐ手配いたします」

「配分は任せる。準備が出来しだい出るぞ」

「え?リーダー、もしかして……」

「ああ、私も南街に行こう。Bブロックが壊滅するなんて只事じゃないんだ。一体何が起こっているのかこの目で見てやる」


 ウォルツォーネはそう言うと、(いくさ)の支度を始めた。ヨロイを身にまとい、巨大な偃月刀(えんげつとう)を振りかざす。身長二メートルの巨体ならではの武器だ。他に操れる人間はいない。その隆々とした筋肉から繰り出される素振りは、まるで一振りで百体くらいのシーカーを吹き飛ばすのではないかと思われる程だった。


 もともとウォルツォーネは単なる一人の兵士だった。しかし生まれつき体格に恵まれ、圧倒的なパワーでシーカーをなぎ払っていく彼をみて、当時のMブロックの住民達がリーダーとして迎え入れたのだ。約十五年前、まだ彼が十八歳の時である。


当時のMブロックは小さな所帯で住民の数は百人程度だった。彼は、特に軍事面に力を入れて兵力の拡大を続けた結果、現在のように近隣の街や集落を護衛する形となっていったのだった。


 何が起きてるにせよ、力でねじ伏せてやる。


 ウォルツォーネは己を奮い立たせた。

 Bブロックが誇る重火器の威力は素晴らしかった。そして、マドゥの軍事力はインドで一番だと思っている。万一この二つのブロックがやられるような事になれば、インドは、いや、世界は終わりだ。決してそうはさせない。


 偃月刀(えんげつとう)を握り締める手に、自然と力が入っていった。


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