魔物の群れと、闇を割く一閃(後編)
「た、助けてくれーっ!! 魔物の群れだぁぁぁっ!!」
翌朝。平和な静寂を切り裂くような悲鳴と怒号で、私はガバッと跳ね起きた。
急いで長老の家の外へ飛び出すと、集落の入り口には、ボロボロの服を着て血相を変えた人々が何人も倒れ込んでいた。
「どうしたの!? 何があったの!?」
「隣の集落の者たちです! 夜明けと共に、突然モンスターの大群が村を襲ってきて……命からがら逃げてきたと!」
ラシードが倒れた人たちに水を飲ませながら、険しい顔で報告してくる。
怪我をしている人もいるし、子供たちも砂まみれで泣き叫んでいる。
「せっかくいい気分で寝たのに、朝からムカつく。わかった、私が全部やっつけてきてあげる」
私が胸を叩くと、隣で寝癖をつけたままのシャリエルが「えぇ~……」と寝ぼけまなこで引き止めてきた。
「小春さん、落ち着きなさい。……これは地上の俗物の争い。これ以上関わる必要はありません」
「は? こんなに困ってるのに見捨てられないでしょ。そこのあんた、村に案内してよ」
「あ、ありがとうございます……! ジュリアンと申します。こちらです」
私が指名した案内役は、村人にしては身なりの整った、貴族のような気品を感じさせる、涼しげな顔立ちをした金髪のイケメンだった。
「…………小春さん! 一刻を争います、急ぎましょう!!」
「……はいはい。ホントにあんた、ブレないね」
ジュリアンの顔を見た瞬間、シャリエルは偉そうな態度をかなぐり捨てて身を乗り出した。
私は呆れながら、ジュリアンの案内に従って隣の集落へと砂漠を駆け出した。
***
隣の集落へ向かう道中、砂丘を越えたところで、さっそく十匹ほどのモンスターの群れと遭遇した。
狼のような姿をした凶暴そうな獣たちだ。
「あれが村を襲った魔物です!」
「オッケー。……闇を切り裂く奇跡の光を我が手中に。出でよ、『聖剣エクスカリバー』!!」
私は大真面目な顔でゲームの決め台詞を叫び、眩い光と共に虹色の聖剣を召喚した。
そのまま地を蹴って群れの中心に飛び込み、適当に剣を振り回す。
ズババババァッ!!
まるで手応えなど無いかのように、モンスターたちは一瞬で光の粒子となって消滅した。
「おおおおっ!! 一瞬で魔物を……! あ、あなたは真の勇者様だ!」
ジュリアンが歓喜の声を上げると、すかさずシャリエルが前に出て、天使の微笑みを浮かべた。
「当然のことをしたまでです。さあ、この私、天使シャリエルを讃えなさい……ふぎゃっ」
「本当にありがとうございます、勇者様!」
ジュリアンたち村人はシャリエルを押しのけ、私を取り囲んで一斉に頭を下げた。
砂の上に突き飛ばされて涙目になる天使をスルーして、私は剣を肩に担いだ。
「魔物の群れはまだ先にもいます。村はこちらです」
「おっけー、この調子でどんどん行くよ!」
***
さらに砂漠を進んでいくと、やがて巨大な砂煙が見えてきた。
百匹はくだらないモンスターの大群だ。
そして、その群れの最後尾。
ひときわ小高い砂丘の上に、立派な白馬に跨った一人の少女の姿があった。
「……わたくしの実験の邪魔をするのは、誰かしら」
見下ろすように声をかけてきたその少女は、見事な金髪の縦ロールを揺らし、フリルのついた高貴なドレスを着ていた。
扇子で口元を隠し、ツンとすましたその態度。
「……おおっ、金髪ドリルヘア。悪役令嬢じゃん」
「いきなり無礼ですわね!」
少女は顔を真っ赤にして扇子をバシッと閉じた。
「わたくしは、アルカディア王国筆頭アルベール大臣の孫であり、神聖リベリオン教団の最高権力者・ユリウス司祭様の依頼で魔法の研究をしている、シャルロット・ド・グロリューですわ!」
ふふん、と誇らしげに胸を反らすシャルロット。
権力者の名前を並べ立ててバックの強さをひけらかすその姿に、私は思わず呆れた顔になった。
「うわぁ……その高慢さも、テンプレ通り。すげー!」
私は目をキラキラさせて見上げ、思わず拍手をしてしまった。
「……痛い目を見たいのかしら、その減らず口!」
シャルロットは扇子をしまい、代わりに腰から抜き放った杖を振り下ろした。
すると、周囲を取り囲んでいたモンスターの群れが一斉に私に向かって襲いかかってきた。
「輝け、幾千の誓いをこの一閃に。闇を切り裂けっ!」
私はエクスカリバーを構え、群れの中に飛び込んでいく。
「うりゃ! とりゃ!」
剣を振るえば、モンスターは次々と消滅していく。
しかし、相手は百匹以上。
いくら切れ味が良くても、砂漠の暑さの中でずっと剣を振り回し続けるのは、さすがに疲れてきた。
「ああ、もぅ……ウザーい! ちょっと、数多すぎなんだけど?」
「オーッホッホッホ! どうしましたの? もう息が上がっていますわよ!」
私が額の汗を拭っていると、シャルロットが勝ち誇ったように高笑いした。
「これでとどめですわ! わたくしを怒らせたこと、後悔なさい!」
シャルロットが杖を掲げると、砂漠の砂が渦を巻き、天を見上げるほどの巨大なゴーレムが現れた。
ズシンッ!
地響きを立てて迫り来る巨体に、「ひぃぃっ!」とシャリエルが腰を抜かす。
「ふふん、どうかしら? 降参するなら、今のうち――」
「あーもう……。めんどくさいから、一気に終わらせる!」
私はエクスカリバーを消し、代わりに右手を空高く突き上げた。
「天の怒りをその身に受けよ! 落ちる雷霆の前に……砕け散れ。トールハンマー!!」
ゴロゴロゴロォォォッ!!
雲ひとつない青空から突如として雷鳴が轟き、私の右手に『巨大な戦鎚』が顕現した。
自分の身長よりも巨大なそれを、私は軽々と振りかぶり、空高く飛びあがると――巨大ゴーレムの脳天に向かって、思い切り叩きつけた。
ドゴォォォォォォォンッ!!!
爆発のような轟音と共に、巨大ゴーレムは一撃で粉微塵に砕け散り、周囲のモンスターたちもその衝撃波でまとめて吹き飛んだ。
「なっ……!?」
凄まじい爆風に巻き込まれ、白馬の上で砂まみれになったシャルロットの顔から、余裕の笑みが完全に消し飛んだ。
「な、何ですの、あのふざけた力はぁ!?」
「あはは! ざこ、ざーこ!」
私がハンマーを肩に担いでニカッと笑うと、シャルロットは青ざめた顔で馬の手綱を引いた。
しかし、爆発に驚いた白馬が前足を高く跳ね上げ、彼女の体が宙へ放り出される。
「ひゃああっ!?」
そのまま砂上に振り落とされたシャルロットを置いて、白馬は一目散に走り出した。
「お、覚えてらっしゃい! 次こそギャフンと言わせてやりますわ!! こ……こら、お待ちなさいっ!」
シャルロットは涙目で馬を追いかけ、砂埃を上げながら逃げ去っていった。
「あはは、悪役のお手本みたいな逃げ方!」
私が大笑いしていると、背後からシャリエルが青い顔をして近づいてきた。
「こ、小春さん……今の、その大きなハンマーは一体……?」
「あ、これ? 何か、勢いで新しいの出しちゃった。てへぺろ」
「天界の宝物庫から次々と神具を持ち出すなんて……、ウリエル様に見つかったらどうするんですかっ!」
シャリエルは涙目になりながら、私の首元をガシガシと揺さぶった。
「あはは、ごめんごめん! ちょっと気分が乗っちゃって、つい」
「いいですか。見つかったら小春さんだってただじゃ済まないんですよ!?」
「はいはい、ごめーん」
ガミガミとお小言を続けるシャリエルに笑って返しつつ、私はジュリアンたちを連れて、意気揚々とパルミラ集落へ向かって歩き出した。
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