押し寄せる住民と、緑色の戦い(前編)
モンスターの大群を蹴散らし、私たちが案内役のジュリアンたちを連れてパルミラ集落へ戻ると、留守番をしていたラシードや村人たちが出迎えてくれた。
「おお! 皆、無事でよかった!」
「勇者様のおかげです! あんな大群を、たった一振りで……!」
ジュリアンたちが興奮気味に私の戦いぶりを報告すると、村人たちからどよめきと称賛の拍手が巻き起こった。
でも、助けられた隣の集落の人たちは、どこか暗い顔をしてうつむいていた。
「……助けていただいて本当に感謝しています。でも、私たちの村は家も農具も、モンスターに滅茶苦茶に荒らされてしまって……もう、帰っても生活できないんです」
それを聞いた私は、ラシードの服の袖をちょいちょいと引っ張った。
「ねえ、ラシード。この人たちもパルミラに住んじゃダメ?」
「お気持ちはわかりますが、そんな余裕はありません。いくらあなたたち恩人の願いでも、急にこれほどの人数を受け入れれば、食料が底を尽きてしまいます」
ラシードは苦渋の表情で首を振った。
うーん、確かに。
ラシード自身も、水や食料を分けてもらえず、行き倒れてたわけだし……。
「なんか、ぱあっと解決するアイテムでもあればなぁ……。そうだっ!」
私がポンと手を打って呟いた瞬間――私の右手に、いつの間にか『光り輝く小槌』が握られていた。
それに気づいたシャリエルが、ヒッ、と短い悲鳴を上げる。
「ちょっ、こ、小春さん!? またむやみにアイテムを出さないでください! これ以上やったら、本当に私の首、物理的に飛んじゃいます!」
「ごめんごめん、つい! 今後、気を付けるよ! てへぺろ!」
「あ、こら!」
「あと一回だけだから~」
追いかけてくるシャリエルをよそに、私は打ち出の小槌を村の広場の砂地に向かって振った。
「食料よ、出ろーっ!!」
ぽんっ! ぽんっ!
煙と共に、パンや野菜、山盛りの干し肉が詰まった木箱が次々と出現する。
「はい、ついでに家も!」
ぽんっ!
さらに小槌を振ると、今度は何十人も住めそうな立派な木造の長屋がポンッと現れた。
「おおーっ!?」
「なんという奇跡だ……!」
「こぉぉぉはぁぁぁるぅぅぅさぁぁぁんんっ!!」
鬼のような形相で飛んできたシャリエルに、私は慌てて小槌を後ろに隠した。
「小春さん……勝手にパワー使わないでって、言いましたよね?」
「ち、違うよ!? これは天界のパワーを使ったんじゃなくて、この『打ち出の小槌』の効果で出ただけで……」
「アイテムを使うこと自体が天界パワーの消費なんです! これ以上は、使用禁止です!!」
シャリエルにこってり絞られている間にも、パルミラの住民と難民たちは、大量の食料と新しい家に歓喜の声を上げていた。
***
しかし、事態はこれだけでは収まらなかった。
天界から勇者が降臨し、怪物や食料危機から救ったという噂は、あっという間に近隣の集落へと広がっていったのだ。
そして、モンスターの被害に悩まされていた他の集落からも、救援を求めて次々と難民がパルミラに押し寄せてくることになってしまった。
「これほどの人数が押し寄せては……勇者様にいただいた食料も、すぐに底を尽いてしまいます」
「ねえシャリエルちゃん、あと一回だけ小槌使っていい?」
「だめ、禁止です!! ぜったいに禁止です!!」
「えー、かわいそうだよ。」
私とシャリエルが言い争っていると、ジュリアンと名乗っていた金髪の若者が一歩前に出た。
「……では、広大な農地を作るのはどうでしょう?」
彼はスッと背筋を伸ばし、貴族らしい優雅な礼をした。
そういえば難民たちの中で、なぜか彼だけが場違いに身なりが整っている。
「私は『ジュリアン・ド・ランベール』男爵と申す、辺境の田舎貴族でございます」
痩せた土地でも育つ農作物を開発し、経済苦にあえぐ自領地を救う――そのために、彼は近くの集落に住み込みで研究を続けていたのだという。
「農地さえあれば、自らの手で作物を育て、この地を発展させることができます。……ですが、モンスターの襲撃で、私たちの農地も農具も、すべて荒らされてしまったのです」
「でも、農具とか全滅したんでしょ? これ以上パワーを使っちゃいけないってシャリエルちゃんが……」
私が振り返ると、そこには両手を胸の前で組み、頬をピンク色に染めてジュリアンをうっとりと見つめるシャリエルがいた。
「それは、素晴らしいお考えですわ」
「……は?」
「ここでもう一度やり直すチャンスを、この天使シャリエルが授けましょう」
「……天界のパワーは? 首飛ぶんでしょ」
「イケメンを救うのは、天界の使命です!!」
「……はいはい」
振り返って大真面目に言い放つシャリエルに、私は呆れてため息をつく。
「じゃあ早速、クラフトゲームみたいにサクサク耕しちゃえ!」
鞄からごそごそと、何かを取り出すような仕草をし、『輝くクワ』と『輝くシャベル』を両手に召喚した。
私が輝くクワを振り下ろすと、砂や石ころと岩だらけの荒れ地が、真四角の範囲で、次々とフカフカな土へと変化していく。
さらに、水源地から荒れ地に向かって、輝くシャベルをズドォォン! と振り下ろす。
すると、硬い岩盤が真四角のブロックのように削れ、幅の広い真っ直ぐな水路があっという間に開通した。
「あはっ。ゲームみたいで、超気持ちいい!」
「す、素晴らしい……! なんという奇跡の農具だ!」
ゲーム感覚でサクサクと土木作業を進め、たった十分で、見渡す限りの広大な農地が完成した。
「本当にありがとうございます。ですが……我々の住み家はどうしましょう。やはり、資材となる木が足りません」
「あー、そう言えばこの辺、木が少ないね。ゲームだったら……よしっ」
私は鞄から『不思議な苗木』を取り出し、水源地の周りにポイポイと植え始めた。
「これ、二、三日すれば立派な木が生えるから、それまではちょっと狭いところで我慢してよ」
「二、三日? いや、さすがにそんなわけは……」
ジュリアンは、半信半疑だったが――。
数日後。
水源地の周りには、天を突くような巨大な木々が鬱蒼と生い茂っていた。
「よし、木材ゲット!」
私は『輝く斧』を取り出し、大木をズバーン! と伐採していく。
丸太をサクサクと加工し、まさにクラフトゲームのノリで、あっという間に何棟もの立派な木造住宅を建ててしまった。
ついでに、木から落ちてきたリンゴのような『木の実』も大量に手に入り、作物が育つまでの当面の食料も確保できた。
「小春様、本当に何から何まで……。我々も、全力で農業に励みます!」
ジュリアンの指導の下、パルミラの住民も難民たちも総出で、新しくできた広大な農地で働き始めた。
汗を流しながらも、みんなの顔には希望に満ちた笑顔が浮かんでいる。
「小春様! もっと農地を広げれば、さらにたくさんの集落の人々も助けられます!」
泥だらけになりながらも、ジュリアンが目を輝かせて私に提案してきた。
「おっけー! じゃあ、もうちょっと広げとくね!」
私はニカッと笑い、輝くシャベルを肩に担いだ。
読んでいただき、ありがとうございます。
評価・ブックマークして頂けると、とても嬉しいですわ。
なろうの連載は、月・金の夜20時30分、次回もお楽しみに ( ⁎•ᴗ•⁎ )୨୧
・物語のキャラ・設定イラストを、ピクシブに掲載中です。
https://www.pixiv.net/users/119429388
・カクヨムでも、毎週水曜日の夜20時30分に別作品を連載中です。
https://kakuyomu.jp/users/t_yukiyuki13
・最近、note始めましたの。4コマ漫画付きエッセイですわ。
https://note.com/t_yukiyuki13
・作品掲載時は、Xで告知しますので、フォローお願いします ( ⁎ᵕᴗᵕ⁎ )୨୧
https://x.com/T_YUKIYUKI13
是非、ご覧くださいませ ( ⁎>ᴗ<⁎ )୨୧




