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episode6.青い閃光と塔の目覚め

 休憩(きゅうけい)区画を過ぎたあたりから、黒い箱の振動(しんどう)がはっきりした。


 最初は、歩くたび内部の部品が揺れているのかと思った。

 けれど、セヴァンが止まっても続いている。


 低く、一定の間隔(かんかく)(ふる)える。


「黒い箱……下ろす?」

「まだ持てる」


「持てるかじゃなくて――」

「傷は少し痛いけど大丈夫。箱は右のほうが重い。音がずっと聞こえてる」


 先回りして答えられた。


「……覚えるの早いな」

「言われたから」


「音は何て?」

 セヴァンは片耳を押さえた。


「遠い。言葉が重なっている」

「昨日と同じ?」


「昨日より近い」

「止まれって言ってる?」


「分からない」


「来いって?」

「それも分からない」


「分からない声についていくなよ」

「ついていくつもりはない」


「おまえの身体(からだ)が先についていきそうだから言ってるの」

「身体だけ?」


「そう。頭はちゃんとオレの言うこと聞いてても、身体が勝手に……ってこともありえるだろ」

「ああ」


 返事はしたが、横顔には薄い緊張があった。

 耳鳴(みみな)りだけではないのかもしれない。


 荷物を下ろせる場所を探していると、通路の奥で、乾いた音がした。


 ぱち。


 青白い光が、壁の線を一瞬(いっしゅん)だけ走る。


「黒い箱は触るなよ」


「触っていない」

「念のため」


 もう一度。


 今度は床の線も光った。

 遠くで、何か大きなものが(きし)む。


 それまで均一だった塔の(うな)りが、急に低くなった。


 風の音が消える。

 足音も、呼吸も、一瞬だけ遠くなったように感じた。


「――来た!」


 言った直後、(とう)全体が震えた。

 床の下から突き上げられ、壁へ手をつく。


「リュカ!」

「平気。触っていい場所を選んだ!」


 壁の塗装(とそう)部分へ掌を当てる。金属の線からは離れている。


 天井の灯りが、一つ点いた。

 冷たい白い光。


 少し先で、二つ目。

 三つ目。


 眠っていた通路が、奥から順に目を開けるようだった。


「箱から電気が出てる?」


 セヴァンの背後を見る。


 布の隙間(すきま)で、青白い光が脈打(みゃくう)っている。

 けれど、塔の灯りへ直接つながっているようには見えない。


 壁の奥で、別の機械が動き始めている。長く眠っていた蓄電(ちくでん)設備か何かが、箱の合図を受けたのだろう。


「箱が動かしてるんじゃない。たぶん、起こした」


「起こした?」

「合図を出したんだよ。塔の中にまだ残ってた電気が、それを聞いてる」


 背後で轟音(ごうおん)がした。

 振り返ると、通ってきた廊下へ厚い扉が落ちている。


「くっ……、戻れなくなった」


 同時に、前方でも金属のぶつかる音がした。

 走り寄る。


 通路の先にも、灰色の扉が下りていた。

 中央に小さな表示窓がある。消えていた文字が、一つずつ浮かんだ。


磁気外乱(じきがいらん)――基準値超過』

遮蔽(しゃへい)区画――自動閉鎖(へいさ)


「最悪」


「開く?」

「制御室からなら、たぶん」


 壁の案内表示が点灯している。


 右に制御室。左に遮蔽室。

 先に扉を開けるか、安全な場所へ入るか。


 迷っていると、セヴァンがふらついた。


「セヴァン?」


 苦しそうに浅く息を吐き、片耳を押さえ、壁へ肩をつく。


「音が、多い」

「どこから?」


「……全部」


 声は落ち着いている。

 けれど、返事までに一拍(いっぱく)の間があった。

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