## 異世界生活六日目、森の姫君と川の恵み
光が差し込む森の中は、穏やかで温かい空気に包まれていた。
草が少し肌に刺さるけど、敵意を見せない生き物たちに囲まれていると、不思議と幸せな気分になる。
俺は一匹の動物の頭を撫でた。猫に似ているけど、大きさは俺の腰くらいまである。
白みがかった毛並みが美しく、目はどこか微笑んでいるようだが、撫でられている間も表情は平然としていた。
ふと子供たちに目を向ける。自分たちで歩けるくらいには成長しているようだ。
(*……撫でたい。でも、母親は怒るだろうか?*)
俺は意を決して、騎士のように堂々と胸を張り、彼女に語りかけた。
「我が称賛を贈る美しき獣よ。この小さな天使たちを撫でる許しを頂けるだろうか?」
柄にもなく詩的でエレガントな言葉。自分でも「今の俺、キマってるな」と自画自賛してしまう。
対する母親はポカンとした顔をしていたが、まあ、言葉の壁があるから仕方ない。
子供たちは母親の分厚い毛の中に隠れていて、めちゃくちゃ可愛い。
俺が手を伸ばすと、数匹は逃げたが、一匹を撫でることに成功した。
驚いたことに、母親は俺を敵と見なすどころか、近づいた俺の顔をペロリと舐めてきた。
(*……俺のこと、自分の子供だと思ってんのか?*)
何匹かが俺の膝の上に乗ってきて、丸くなった。
裸の肌に伝わる毛並みの感触がくすぐったい。彼らが満足げに(?)「ニャー」と鳴くたび、俺は天国にいるような気分でニヤけてしまった。
トラやヒョウも鳴くと聞いたことがあるけど、この世界の猫科もサイズに関わらず鳴くらしい。
「さらば、この森に住まう姫よ。これは別れではない。いつかまた会いに来よう」
名前も知らない猛獣を「姫」と呼ぶ。……これこそ騎士の醍醐味だ。
俺はさらに食料を求めて、森の深部へと足を進めた。
しかし、今日は服を脱いできたのが仇となった。
直射日光が肌を刺し、喉が焼けるように乾く。
(*……脱水になりそうだ。水が欲しい……*)
見かけるのは逃げ足の速い小動物ばかりで、体力だけが削られていく。
俺は大きな岩の上で休憩することにした。
目を閉じると、森のASMRが聞こえてくる。風と草の音、鳥の声。
(*……ん? 湿ってる?*)
岩の上に寝転ぼうとした時、ひんやりとした感覚があった。
ここ数日、雨は降っていない。なのに岩には水の跡がある。
俺は直感を信じて進むことにした。しばらく行くと、水の流れる音が聞こえ、目の前に小さな滝と川が現れた。
そこには、鹿のような生き物がいた。
普通の鹿くらいのサイズだが、二本の角が真っ直ぐ上に伸びていて、不思議な光沢がある。
(*……モンスターか?*)
俺は木陰に隠れて策を練る。
「落ち着け、美しき生き物よ。俺は争いに来たんじゃない。少し水を分けてほしいだけだ」
そいつは警戒しながらも、俺を襲うことはなかった。
俺は無我夢中で川の水を掬って飲んだ。生き返る心地だ。
川の中を見ると、魚が泳いでいる。
(*……よし、今夜はフィッシュパーティーだ!*)
俺が剣を抜いた瞬間、鹿は驚いて逃げていった。
(*……ああ、戦うつもりじゃなかったんだけどな。*)
それからが本当の戦いだった。
腰まで水に浸かり、剣で魚を突こうとするが、水の抵抗と音で魚がすぐに逃げてしまう。
作戦を変え、腰を落として石器ナイフを使うことにした。
魚を狭い場所に追い込み、水中で一気に突く。
手応えがあった。ナイフに貫かれた魚が血を流し、動きが鈍くなる。
「獲ったどおおおっ!」
結局、夕方までに五匹の魚を仕留めることができた。
帰り道、重い石を三つと魚を抱えて歩くのは、トレーニングより過酷だった。
家に着くと、まず干していた服を着直した。
焼く前に、石器ナイフで魚をさばく。どれが内臓でどれがそうじゃないか全然わからないから、とりあえず全部かき出した。子供の頃、友達と川で遊んだ時の記憶が少しだけ役に立った気がする。
石を擦り合わせて火を起こし、三つの石でコンロを作って魚を焼く。
味付けはない。でも、焼きたての魚の身は驚くほど柔らかく、甘かった。
(*……最高だ。*)
一週間の疲れが、この一口で報われる気がする。
明日もまた、新しい発見があればいい。
俺は満腹感に包まれながら、泥のように深い眠りに落ちた。




