## 異世界生活五日目、死にかけた。
目が覚めた。……お、昨日よりマシだ。
筋肉痛もだいぶ引いてる。昨日の「パンツ石器ナイフ」の興奮がまだ残ってるのか、やる気も十分だ。
ベッドの上で軽くストレッチをして、剣を掴んで外に出る。
焚き火の灰が風に舞っている。
剣を木に立てかけ、燃え残りの枝で家の周りを適当に掃除。バケツの残り水を喉に流し込み、朝のルーティン開始だ。
今はだいたい朝の八時くらいか。
今日は丘から家まで三往復走る。
昨日と違って体が軽い。呼吸も安定してるし、スピードもいい感じだ。
(*これ、もしかしてレベルアップしたんじゃね?*)
単純な俺はそれだけでテンションが上がり、一往復、二往復とあっさりこなす。
三往復目は昨日バケツを持って走ったけど、今はとにかく走り込みたい気分だ。
そのまま丘を越え、家まで戻ってゴール。
……ふぅ、さすがに疲れた。でも昨日のような「殺してくれ」ってレベルの痛みじゃない。
爽快な、朝のランニングって感じだ。
そのまま川へ行って顔を洗う。
冷たい水が、火照った体に染み渡る。めちゃくちゃうまい。
エネルギーが再充填される感覚。
一息ついて家に戻り、これからの作戦を練る。
最後のパンを口に放り込む。……さて、ストックが尽きた。
やるしかない。あの森へ再チャレンジだ。
朝なら猛獣も寝てるだろっていう希望的観測を胸に、剣と自作ナイフを装備。
いざ、樹海へ。
相変わらず日光が遮られてて薄暗い。
膝まである草をかき分けながら進む。
木の上には見たこともない植物がぶら下がってるけど、怖くて手が出せない。
とりあえず、帰りのための薪(枝)を拾いながら奥へ。
すると、足元にベリーっぽい紫の果実を見つけた。
(*……うまそう。けど、毒とかあんのかな?*)
匂いを嗅いでみる。周囲に動物が食べた跡がないか探す。
……いや、分からん。野生の知識なんてゼロだ。
でも匂いは悪くない。最悪死ぬかもしれないけど、食ってみる。
「…………あ、甘い」
普通にベリーだ。うまい。
速攻でポケットに詰め込む。けど、これだけじゃメインディッシュにはならない。
やっぱり肉だ。あと塩。
でも海なんてないし、今は塩より「楽に火を起こす方法」の方が優先だ。
そんなことを考えながら奥へ進むと……いた。
ニワトリに羽と角が生えたような妙な生き物。
……モンスターだ。
でも、ニワトリだろ? 今夜はチキンステーキか?
サイズは俺の胸元くらいあって威圧感があるけど、所詮は鳥。勝てる。
俺は草むらから飛び出した。
「我が名はレン! この森の魔物よ、いざ尋常に勝負!」
騎士っぽく名乗ってみる。
背中の服の中に薪を突っ込んで、背負い太刀っぽく見せてハッタリをかます。
腰の剣を引き抜き、不安定な構えで斬りかかった!
――キンッ!
「……は?」
弾かれた。刃が通らない。
なんか見えない膜に守られてる感じ。これ、魔法か?
そいつが「グオオオッ」と吠えた。
……ヤバい。これはマジでヤバいやつだ。
「さよならっ!」
全速力で逃げる。
後ろから咆哮と足音が迫ってくる。速ぇ! 草むらの中なのにめちゃくちゃ速ぇ!
ジグザグに走って攻撃をかわす。
(*死ぬ死ぬ死ぬ! 五日目で終わるとか冗談じゃねぇ!*)
必死に走る。背中に突っ込んだ枝が刺さってクソ痛い。余計なことすんじゃなかった!
そいつは翼を広げて低空飛行で追いかけてくる。
死に物狂いで木々の間を縫い、なんとか川の近くまで戻ってきた。
デカい木の陰に隠れて息を潜める。心臓がうるさすぎる。
……しばらくして、気配が消えた。
川を渡り、対岸へ。
そのまま地面に崩れ落ちた。
足がガクガクだ。恐怖で力が入りきらない。
「……無理。基礎ができるまで狩りとか絶対無理……」
そもそも、なんだあの硬さ。
俺の剣、斬れるどころか跳ね返されたぞ。
あれが魔法のバリアか何かだとしたら、俺も魔法が使えないと話にならないんじゃ……。
でも使い方も修行法も分からん。詰んだ。
昼過ぎ。トボトボと家に戻る。
収穫は枝とベリーだけ。
修行しなきゃダメだ。でもあの剣、初心者が振るには重すぎるんだよ。
もっと女子用みたいな軽い剣をよこせよ、ったく。
ベリーを全部食い、夜の肉(最後の一枚)を残しておく。
掲示板に書いた「ランニング三往復」をもう一度やることにした。
あの鳥から逃げ切るために、スタミナを増やさなきゃいけない。
バカな俺は「五往復に増やそう」なんて考えた。
……結果、二往復で沈没。
さっきの死走で体力使い果たしてたのを忘れてた。
そのまま木陰で昼寝。気づいたら、もう夕方。
(*……終わった。今日、何もしてねぇ……*)
火を起こす新しい方法も見つからず、また石をカチカチやる。
ようやく火がついた頃には、もう真っ暗。
ため息をつきながら、最後の肉を焼く。
明日からマジでどうしよう。
昼寝しすぎたせいで目が冴えてしまった。
焚き火を眺めながら、虚無感に襲われる。
今日は散々だった。
ふと、近くに置いてあったあの「読めない本」を手に取る。
……やっぱり一文字も分からん。
でも、やるべきことは見えた。剣の素振りだ。
アニメとかだと、とりあえず百回くらい振るよな?
俺もやってやる。
一、二、……十。
「……っ、腕が……」
重い。重すぎる。
十回で腕がパンパンだ。下半身がグラグラで安定しない。
映画の主人公みたいにブンブン振るなんて、今の俺には夢のまた夢。
結局、休憩を挟みながら深夜までかかって、たった三十回。
焚き火の火が小さくなっていく。
剣と本を持って家に入り、机に置く。
昼間は散々だったけど、夜に新しい課題が見つかった。それだけで十分だ。
明日は……明日こそは、もっとマシな一日にしてやる。
掲示板のスケジュールを少し書き換えて、俺は深い眠りに落ちた。




