## 異世界生活四日目、一歩前進?
目が覚めた。……全身バキバキだ。
昨日、慣れないことばっかりしたせいだな。
体が固まってて、動くたびに「うぐっ」て声が出る。
三日連続の筋肉痛。さすがに学習した。このままだと体が持たない。もっと計画的に動かないと。
這いずるようにして掲示板の前へ。
板の隅っこに、前の住人が使ってたらしいチョークの欠片を見つけた。
(*……やっぱり、俺以外にも誰かいたんだな。*)
ここが俺のために作られた隔離施設じゃなかったことに、少しだけ安心する。
そのチョークで、今日やることを書き出した。
一つ、もっと楽な火起こし法を探す。二つ、基礎トレ。このままだと剣なんて一生振れない。三つ、食料確保。袋のストックがもうヤバい。
とりあえず、こんなもんか。あとは外の様子を見て考えよう。
外に出て、昨日の残りの肉とパンを胃に流し込む。
焚き火はもう灰になっていた。掃除してると、朝日が目に沁みる。
草の匂い。いい天気だ。少しだけやる気が出てきた。
よし、川まで走るか。
バケツを持って、家と川の間を三往復。……いや、まずは一往復からだ。
そう決めた瞬間、節々の痛みが主張を始めたけど、未来の自分のためにムチを打つ。
丘に向かって小走りを始める。……痛ぇ。マジで体が重い。
でも、これも成長のためだ。無理やり足を動かす。
一往復で死にそうになった。
腰から下が悲鳴を上げてる。明日からでいいかな……なんて弱音がよぎる。
二往復目は、痛みを忘れるために全力で走ってみた。
確かに痛みは感じない。けど、スタミナが瞬殺。一往復も持たず、丘の上で崩れ落ちた。
(*……前世でもっと運動しとけばよかった。*)
ボロボロになりながら、なんとか二往復。
家に着いた瞬間に大の字でぶっ倒れた。
空が青い。風が気持ちいい。
ここ、雪の中に放り出された割には暖かいんだよな。熱帯地方に近いのか?
少し休んで、今度はバケツを持って走る。
さっきの「全力ダッシュ」が意外とマシだった気がして、また飛ばしてみた。
……バカだった。丘に着く前にバテた。
ガチガチのフォームで、喉を鳴らしながら進む。
下り坂を利用して加速。勢いだけで川まで突っ込んだ。
川に着くなり、顔を洗って水を飲む。そのまま河原に寝転がった。
冷たい地面が火照った体に最高に気持ちいい。
(*昼と夕方のトレーニング……無理じゃね?*)
心が折れそうになるけど、「剣を使いたい」って気持ちだけでなんとか繋ぎ止める。
ついでに、服を脱いで水浴びをした。
冷たいけど、めちゃくちゃリフレッシュできる。
そのうちここに温泉とか作れたら最高だよな。知識ゼロだけど。
家に戻って、火起こしの研究を始める。
ググれないのがこれほどキツいとは。スマホさえあれば……。
木をこすり合わせるか、また石か。
石は疲れる。まずは木で試してみた。
昨日拾った枝を下に置いて、別の枝をグリグリ回す。風除けも作った。
……が、全然ダメ。石の時と変わらない。
「クソッ、いつまでこれやらなきゃいけないんだよ!」
発狂しそうになって、枝を投げ捨てた。
完全に詰んだ。
というか、そもそも食い物どうすんだ。
木には実がなってるけど登れないし、森には獲物がいるけど……。
(*……待てよ。ナイフもねぇのに、肉どうやって捌くんだ。剣でやれってか?*)
魔法とか使えないのか?
頭の中で小さな火をイメージして、「火!」と指を差してみる。……無反応。
詠唱か? アニメで見たようなそれっぽい言葉を並べてみる。……シーン。
魔力とか、才能の問題なんだろうな。
じゃあ、オーラは?
剣を抜いて、目を閉じる。
オーラってのは体内から溢れるもんだろ? 感じろ、俺の中の力を……。
…………。
何にも感じない。
魔法もオーラもダメ。狩りもできない。詰んだ。
また寝転がって、ため息をつく。
昔の人はどうやって生きてたんだよ。グーグル先生がいない世界、ハードモードすぎる。
昼過ぎ、腹が減ったのでパンを齧る。
気合を入れ直して、また火起こしの実験。
木は諦めて、また石に戻る。時間はかかるけど、火花が出る分まだマシだ。
剣と石をぶつけたらどうなるかと思ったけど、剣がボロボロになるのが怖くてやめた。
これがないと、あの森を抜けることすらできないからな。
結局、石を探しにまた川へ戻った。
河原で手頃な石をいくつか拾う。
その時、尖った角に触れて指を切った。
地味に痛い。……けど、これ、ナイフにできるんじゃないか?
試しに鋭い石を対岸の木にこすりつけてみたら、線がついた。
でも、これじゃ小さすぎて使いにくい。
一方向だけを鋭く欠けさせれば、石器ナイフになるはずだ。
(*俺、アインシュタイン並みに天才かもしれない……。*)
「この世界で教授とか名乗っちゃおうかな、くふふ」
一人でニヤけながら、大きい石の上に別の石を叩きつける。
ガンガン打つけど、なかなか割れない。
上から3回、下から3回。交互に何度も叩きつける。
……パカッ、と割れた。
手応えがあった。思いっきりぶん殴ると、破片が飛んだ。
拾い上げてみると、めちゃくちゃ鋭い。
木に当てて引いてみる。……切れる。簡単に切れるぞ!
思わずガッツポーズ。
けど、問題発生。
全体が鋭すぎて、持つ場所がない。力を入れると自分の手が切れる。
何かで固定しないと……。
枝を添えて、紐で縛ろうとした。草はすぐ千切れる。
服を破るか? いや、夜の寒さを考えるとこれ以上布を減らせない。
下を見つめ、考えた。
(*……これだ。*)
パンツだ。
女子ならともかく、男ならノーパンでも死なない。
パンツを脱ぎ、数枚に引き裂く。
……スースーする。開放感がすごい。
前世なら恥ずかしくて死ねるけど、どうせ一人だ。誰も見てない。
自分のパンツでナイフを固定してるって状況、冷静に考えるとヤバいけど。
ナイフを数本作ったら、もう夕方だ。急いで帰る。
さっそく自作ナイフで枝を削ってみた。
面白いように薄い削りカスができる。
これを集めて火花を飛ばすと……。
あっさり火がついた。
「おお……っ! 楽勝じゃん!」
腕はパンパンだけど、達成感がすごい。
最後の肉を取り出し、ナイフで薄くスライスする。
これならすぐ焼けるし、硬くないはずだ。
ご褒美に5枚焼いた。残りは明日。
実食。……柔らかい!
相変わらず味はないけど、食べやすさが全然違う。
塩さえあればな。……贅沢か。
食後、木の下に寝転がって月を見る。
今日はいい日だった。ナイフが作れた。トレーニングも……まあ、やった。
一つずつ、できることが増えていく。
股間に夜風を感じながら、空を見上げる。
月が綺麗だ。草のざわめきが心地いい。
明日も、こんな風に上手くいけばいいな。
もっと楽に、もっとまともに生きられるように。
祈りながら、泥のように眠りについた。




