409-ただいま、地球
ガタンゴトン…
ガタンゴトン…
夢奏列車での帰り道。行きも帰りも列車移動で、景色の変化はあんまりないけど。安全運転の速度だけど……道は開けてるからね。三時間ぐらいかな。
和気藹々と談笑しつつ、地球への到着を待つ。
帰り道の方が人が多いけど……大した荷重じゃないし。約三体邪魔だけど。
「ゲコッ」
「チュー」
「グギョ」
「喚くなゾンビ共。いいか、僕の許可なく人型を取ったらぶち殺すからな。具体的に言うと、ノワの穴という穴に頭からぶち込むからな」
「ちょ!?なんでワタシ!?」
「……?え、制裁」
「終わってないの!?ちょっ!ごめんってぇ!もう許してラピピ〜!」
手のひらサイズまで小さくさせた旧三銃士。窮屈そうな雰囲気出してるけど、これ、決定事項だからね。オマエら人死いっぱい出してるヤツら、野放しにもできないし。
メアリーでさえ反感すごいんだからさ。当然だけども。
オマエら、国単位で滅ぼしたりしてるんだから。正体を隠す為にもそのままだ。いいじゃん、トランプ兵に変わる新たなマスコットやってれば。
好事家に売るのも可。
縋り付くノワを足蹴に、座席に深く座る。クッションがいい仕事してるよ。
……ここ一週間、本当に大変だった。帰ったらまだまだやることがあるから、全然安心できないけど……メアリーからの報告を信じるなら、あれだもんね。
いや、道中逢えるか。
取り敢えずハサミで斬られる用意はしといて……あっ、弟子作った詰問もしなきゃ。
やることが、やることが多い……!
異星人との交流場所とか、国の許可もぎ取ってやる必要出てきちゃったし。クソ、押し付けらんねぇ。宇宙関連はアメリカにぶつけようにも、確認した段階じゃ多分無理。あっさり拠点化される未来が見える……主にタレスの技術パワーで。乗っ取られそう。味方なのに。できそうだからやりましたとか普通に言いそう。
で、なんか未来都市できてそう。
……それはそれでアリ、か?アメリカの文化は宇宙色に塗り変わるけど。
「うーちゃん」
「なぁに、ほーちゃん」
「これで平和だね」
「……まだ、やることいっぱいだけど。一応、平和?にはなったんじゃないかな」
「頑張ったね」
「そう、だね」
肩に寄りかかるほーちゃんをどけずに、受け入れたまま会話を合わせる。一応、これで面倒事の大半は吹き飛んだわけだ。宇宙問題も、もう殆ど気にしなくていい。
なにかあっても、暗黒銀河が地球の防波堤になる。
……その為にも、地球に不可視の結界でも張っとくか。地球産の宇宙船とかだけ認識できるような、高度なヤツを作ろう。
「ぐぅ!」
「こら、逃げるな。オマエは今から英才教育を受け、私に都合のいい悪夢の運び役に……あっ、違うんだうるるー。聞かなかったことにしてくれ」
「真・月魄魔法×2222222」
「死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ」
「そんなに打てないでしょ。てか、なに企んでんだか……ほら、おいでー」
「!」
通路を走るグゥはほーちゃんの腕の中に、何か企んでたリデルは腰枕にした。拘束もできて、隙間も埋められて、一石二鳥ってね。
暴れんな。おい待て誰が重いって?
あとアリエスは僻むな。オマエは抱き枕であってだな。対抗心燃やすな。
「賑やかでござるなぁ〜」
「何処もこんなもんだろ」
「いやぁ〜、一件落着でよかったッス。危ういって場面がいっぱいでしたけど」
「ん、万事解決……あっ、課題やってない…」
「えっ、出てるの!?」
「ねこちゃ!?あたしそれ知らない!待って!?ねぇお口チャックしないで!?」
呑気に湯呑みでお茶を嗜んでるヴォービスさ、新参者でありながら、既に場の空気に馴染んでいる。一緒に茶菓子食べてるビルとペローも、手馴れた様子。
ちなみに、二人の異形態は既に解除済みだ。
僕の承認が無ければとはいえ、よくなったもんだ。覚悟すごいよねぇ。二度と使わないで欲しいけど。最悪、元に戻れないんだし。
怖いじゃん。
昔の三銃士は兎も角、今の、僕が選んだ三銃士は愛着があるからね。大事にするよ。寝子が言う課題云々は、学校側への言い訳として、期間不明の留学設定で星を飛び出しているからだね。
感想文書けってさ。あのゆるふわ担任、若干気付いてるかもなぁ。
で、そんなこんなで列車は進み───地球に近付いた、その瞬間。
「うわ、ホントにいた…」
列車内だというのに。
僕の喉を狙って、よく研ぎ澄まされた氷を纏うハサミが突き付けられた。下手人が誰かなのかは、言うまでもないだろう。いや本当、どういうわけなんだか。
僕でも知覚できない気配消しで列車内に潜って、殺意を差し向ける女。
「ヤッホー、センパイ」
「……久しぶりですね、後輩」
「わー!キル先輩!本物だ!!」
「元気でよろしい……おかえりなさい。代わりと言ってはなんですが、守っておきましたよ」
「ありがと!」
“正義”のキルシュナイダー……僕が悪夢に与したことにブチ切れている正義厨である。
ごめんって。てか、首パキパキ凍り始めてるんだけど。
当然、先輩以外の……僕たちの代わりに、夢の世界側で地球を守っていた魔法少女たちが、続々と現れる。車窓を乗り越えて、こんにちはと。
モロハ先輩に、オルドドンナ、マペットプリマーレと、イリスミリエ。懐かしい顔ぶれが、五人も。
……遅いよ。
「あーねき〜!」
「は、ライ!?テメ、なん……ッ、ハハッ、重ぇ!死んで肥えたか!?」
「んなわけあるかよ!」
「師匠!?」
「うむ、うむ。よく頑張ったな、弟子よ。ただ、ラピスに負けたのはいただけんなぁ〜」
「うぐっ、しょ、精進します…」
「みんなー!」
「……!」
姉妹の再会、師弟の叱責。そして、後輩二人が仲間との再会を喜ぶ。なんというか……見たかった光景が、そこにある感じ。穂花ちゃんたちも、六花の面々も、魂の状態でここにいる魔法少女とのふれあいに、少し涙ぐんでいる。
殺意が削がれたのか、キルシュ先輩は刃を下ろす。
溜め息を吐いて、仕方がないなと呆れ顔。ごめんって。でも、本気の殺意じゃないだけ、受け入れてはもらえてるってことかな。
「反省してます?」
「不可抗力だって……」
本気だったら……今頃、全身氷漬けでバラバラにされて列車の外だろうし。
怖いね。
───その後も、まぁ。幽霊状態のフルーフ先輩とは全然違う質感の亡霊たちとの交流を挟んで。彼女たちが、この領域から外には出れない……ユメの世界でしかいられないことを知ったが、それはそれ、これはこれ。
閻魔大王とやらを脅して、輪廻転生しないのを条件に、この夢を守り続けるとかなんとか。
うん、覚悟極まってんな?
これだから魔法少女は……自己犠牲ばっか。あと、一度決めたらテコでも動かない。
結局、たまーに会いに行ったり、配信魔法で繋がるのを約束したりして。
「そんじゃ」
「やると決めたのなら、貫くことです……応援してます。精々頑張りなさい」
「上から目線〜。はいはい、わかったよ……次こそ、目ぇ逸らさないでね」
「えぇ」
お別れの言葉はなく、礼を告げて───現実へ。地球へ帰還する。
꧁:✦✧✦:꧂
久しぶりの地球。
懐かしさまで感じる土の踏み心地に、なんともいえない気持ちを抱く。いやぁ、なんだろ。宇宙の土とはちょっと違うんだよ。なにが違うのかは、僕もわかんないけど。
夢奏列車が、役目を終えて光の粒子となっていく。
そして、降り立った先───星見公園の大きな丘の上。人払いを済ませたその地にて。
先んじて、迎えに来ていた留守番組の……オリヴァーがうるさく泣く。
「ブルームーン!サンシャイン〜!よかった!無事だな?ヨシ、この勝負、我らの勝ちだ!ヴェ〜ハッハッハッ!!おかえり!!」
「ただいま!うるせぇ!」
「泣くな喚くなみっともない……ただいま。そっちも色々あったみたいだね」
「そうなのだよ!聞くかね!?私たちの武勇伝!!」
「もう聞いたよ。なに、酔っ払っ……てはいないのか。素なんだそれ」
陣頭指揮を取っていたオリヴァー。彼にも、ちゃーんと感謝は告げるべきなのだろう。それはそれ、これはこれで辛辣に当たっちゃうけど……こればっかりは仕方がない。
文句があるとすれば、このうるささだけだし。
感極まって抱き着こうとするのを阻止して、後ろにいた女二人に声をかける。
包帯塗れのルイユと、目の焦点が合ってるメアリーだ。
「おかえり」
「ただいま」
「……無事で何よりです。こちらとしても、命を尽くした甲斐があります」
「ありがとね、本当」
異星人の投下作戦に、絵の具の怪物……単騎で半分以上狩り尽くしたのがメアリーだ。本当に頭が上がらない……理性があるだけで、ここまで頼り甲斐があるとは。
不死の絵の具共も、処刑で一撃死させてたらしいし。
後で労いも必要だろう。ルイユにもマッサージとかでもしてやるか。
そう彼女たちに礼を告げていると、メアリーが僕の背後へと視線を向けた。
「……その者たちは…」
そこには、彼女なら見覚えのある……妖精体と酷似した形状になった、三銃士の面々が。女王様……と小さく呟くカエルとネズミに、初代様は目を見開く。
瞬間、メアリーの姿が掻き消え……
気付けば、僕の背後に。元妖精の国民たち、宇宙からの移民も関係なく抱き締めて、なんと、蹲ってしまった。
……啜り泣きは、聞かなかったことにしよう。
この人だって、悪夢に抗った英雄なんだ。少しぐらい、救いがあってもね。
「なにがあったんや…」
「ゴナー・アクゥームの調整をミスった。魂が降りてくるなんて、想定外にも程がある……流石に世間様にはお見せできないからね。暫くはあのまんまかな」
「そうかい。取り敢えず、早く帰ろう。あんまり長居は、できないからね」
茶々を入れるリデルと、それに倣おうとするグゥを一旦食い止めつつ、ルイユの言葉に頷き。騒ぎ立てるみんなに声をかけて、庭園に戻る。
その、直前に。
微風が吹き、風に煽られる。頭の上のハットが、小さく悶える。
【ハッツ…】
「ん…」
不意に、空を見上げて。
雲一つない快晴、青空を目に映す。いつ見ても、綺麗で代わり映えのない景色、だというのに。今日ばっかりは、何処か感慨深いモノがある。
……ずっと、星空ばっか見てたからかな。
いくら綺麗だからって、ずっと見ているのも、なんだか味気なかったし。
帰ってきた、って実感が湧いてきた。うん。やっぱり、青空が好きだわ。
「うーちゃん」
「うるあ!」
「お姉さん!」
「ん、うーねぇ」
「うるるー」
「蒼月様」
「……ハイハイ、遅れたからって呼ばんでいいよ。すぐ、行くから」
待っているのは、いつもと変わらない……ちょっとだけ平和になった、日常。
昔から追い求めていた、未来。
悪夢という脅威は、手のひらの上に。星喰いという宙の脅威は、退けた。きっと、他にも問題はゴロゴロしてるんだろうけど。
多分、もう大丈夫───だってもう、僕は独りじゃないんだから。
空間の裂け目が開いた先に、続々と消えていくみんなを追いかけて。最後まで待っていた、幼馴染と共犯者に手を掴まれる。
その手を、しっかり握り返す。
今日はまだまだ忙しい。改めて、戦争終結のお祝いと、新メンバー加入のお祝いを兼ねたお茶会をするんだから。協力してくれた大人たちも、呼べば来るかな。
来させようか。
「いえーい!」
「ふぅー!」
「これなんの時間〜!?」
「わっかんない!だってあたしたちは、いつも!雰囲気で生きてるからっ!!」
「デデドン!」
「キャッキャッ」
「〜♪」
……楽しそうでなによりだよ。
みんなの背中と、笑顔を見て。少しだけ、僕もくすりと笑みを零して。
笑顔の輪に混ざるように。
ほーちゃんに引っ張られながら、飛び込んで……意味もなく笑い合う。そんなありふれた日常が、いつの間にか、自分から無くなっていたんだから。本当に、たまったもんじゃない。
でも。
「ただいま、地球!」
これからは───いや、これからも。きっと、楽しいで満ちてる筈だから。
僕は、そう信じている。
꧁:✦✧✦:꧂
───そして、一年後。
平和になった世界で───運命の歯車が、また。少し、軋む音がした。
次回、最終回




