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夜澄みの蒼月、闇堕ち少女の夢革命  作者: 民折功利
エピローグ

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408-明るい未来に向けて

エピローグ①


「満足したかよ」

「フッ、お陰様でな……あぁ、礼を言いそびれていたな。ありがとう。オマエたちには迷惑をかけたな。人生最高の戦いだったよ。お陰で、満腹になれた」

「腹いっぱいか。食うことしか考えてないのか」

「……あんな顔で逝くのは、まぁ。想像できてたけど」

「あなたが満足できたのなら、魔法少女冥利に尽きるね。私からも、ありがとう!」

「あぁ」


 暖炉のあるレンガ調の屋内。座椅子に腰掛ける星喰い、ソファにふんぞり返る獅子、二人で一つのソファに並んだ魔法少女、小さな椅子に後ろ向きに座る悪夢の少女。

 戦闘の余韻が感じられる空間は、現実にあらず。

 小気味よく燃える焚き火も、窓奥に広がる庭園も、この物静かな世界も。


 全てが虚像───ニフラクトゥの死後、真・淵星魔法の強力過ぎた残滓によって発生、構築された、ユメと現実の狭間、境界線であるが故に。

 そんな異空間に、ラピス、ライト、リデル、レオードが集められたのは……実を言うと、ただの偶然で。

 恐らく、ニフラクトゥの深層意識で……彼らとの対話を望んでいたから。ラピスも巻き込まれたのは、まぁ、彼の好き好みか。


「で、要件は?」


 依然膝も組めないレオードが、せめてもの抵抗で頬杖をついて疑念を投げる。その問いは表面的なモノではない。

相手の意図、発言の裏の構造を読み取らんとする、確認の意味合いが強いモノ。

 対話と言うが、その内容までは確定できないから。

 王位簒奪に成功した獅子を真似、頬杖をついて、本当に軽く応える。


「なに、オマエにも感謝を告げねばと思ってな……我は、ずっと飢えを抱いていた。永遠に満ちぬと決めつけていた飢えがあった。だが、オマエの起こした反乱で、しっかり満たされてしまったな」

「ヘェ?そいつァ裏切った甲斐があったな」

「……オマエの叛逆が無ければ、我の飢えは満ちぬまま、永遠と続いていた、かもしれない。そう思うと、な」

「ヤケに素直じゃねェか。気持ち悪いぞ」

「オマエはもう少し敬意を持て。今までの慇懃無礼なのはどうした」


 飢えは満ちた。

 渇きは潤った。

 無論、やり残したことがないかといえば、そんなことはないのだが。


 それでも───今日を人生最後の日にするならば、もう文句は出てこない。


 そう断言するニフラクトゥに、レオードは目を緩くし、呆れたように吐息を吐いて、笑う。あの皇帝から、こんな安らかな顔が見れる時が来るなんて、思ってもいなかったから。驚いてしまうのも無理はないだろう。

 そうかよ、とレオードは鼻で笑う。

 感慨深そうに目を瞑ったニフラクトゥなど、もう見ちゃいなかった。


「ふんっ、いい顔しおってからに…」

「オマエにも礼を言わせてくれ、リデル。お陰でここまで満足できたのだから。それと、食って悪かったな。次は、もっと身体にいい味で頼む」

「おい」


 青筋を立てたリデルは、こいつ……と苛立ちながらも、それを言葉にも、行動にも出すことはなく。隣の位置へと視線を流し、代わりに任せたとサムズアップ。

 返答は……首チョンパ。

 愕然とした表情を浮かべるリデルを他所に、退屈そうにラピスが呟く。


「最後は呆気なかったね」

「フッ、言うな。我とて限界だったんだ。オマエたちも、そうだったろう……我が斃れたのと同時に気絶したぐらい感知できてるぞ。違うか?」

「ハッ、なんのことだかわかんないや」

「あはは……まぁ、エーテの絶叫ですぐ起きれそうだったけどね?」


 全員が限界だった。死力を尽くした戦いは、夢星同盟の勝利で終わったものの……勝者である魔法少女が、相手の死亡を確認すると同時に、意識を飛ばしてしまった。

 勝ちは勝ちだが、勝利の余韻に浸る瞬間はなく。

 強いていえば、この異空間で。敗死したニフラクトゥの目の前でやる。


 煽る気満々で立ち上がって、勝利の雄叫びを上げようと画策したラピスは、それは流石にと思ったライトによって制された。


「本当に、楽しかった……」


 名残惜しそうに呟いた言葉は、虚空に溶ける。そこには寂しさもあるものの……それ以上に、充実した戦いを経た満足感だってある。

 負ける未来など見えていなかったが。

 魔法少女の底力、執念、そして成長性を見誤ったが故の敗北である。


 負けたというのに───晴れ晴れとした気持ちが、胸を占めていた。


「人生最後が敗北とか、私は嫌だなぁ」

「それが普通だろう。我とて、望むものではないと思っていたが……全てを出し切った上で負けたのだ。そこに不満など生まれん。勝てなかった心残りは、あるがな」

「いーじゃんいーじゃん。楽しめたんなら、それでね……楽しいのが一番なんだから」

「ふん」

「ケッ」

「勝てなかったヤツらが僻んでんな。ニフラクトゥ、少し言ってやりなよ」

「ざまぁ」

「草」


 会話は弾む。

 対話は続く。

 ニフラクトゥの魂が、限界を迎えるまで───終わりを迎えるのは、ラピスたちの想定よりも遅かったが。迎えが来ないのも感慨ものである。

 身体が仄かに発光して、粒子が漏れ出る。

 空間が揺らいで、こちらもまた光の粒子が迸り、如実に終わりを知らしめる。


「む、もうか」

「意外とかかったね〜」

「よくわからんが知らねェ……おい、ニフラクトゥ」

「なんだ、レオード」


 まだまだ時間が欲しい。

 そう言わんばかりに、光の粒子に溶けていく手を眺めるニフラクトゥだったが……同じく、現実世界に還りかけているレオードに呼び止められる。

 不躾な呼び掛けに、特に不満を思うことなく振り向き。

 耳を穿りながら、レオードは仕方が無さそうに、最後の言葉を交わす。


「遺言。伝えといてやるよ。テメェのこと、好き好きってうるせェのが何人もいるからな……」

「……あぁ、そうか。そうだな」


 脳裏に思い浮かぶは、幾人もの配下たち。その中でも、最後まで己に忠誠を捧げた彼女たちのことを、今更ながら思い返して。

 一人一人に声をかけるべきか、それとも。

 数秒悩んで……それは自分らしくないなと、苦笑と共に選んだ言葉は。


「『ありがとう』───それ以上、言葉を飾る気はない。頼んだぞ」

「おぉ」


 簡潔でありながらも、万感の思いを込めた一言を遺す。その選択に迷いなどなく、それで十分伝わるだろうという信頼が、彼らの中にはあった。

 そして、最期に。

 ニフラクトゥは、ライトと、リデルを背負ったラピスと目を合わせる。


「では、さらばだ」

「うん、バイバイ!」

「あの世では落ち着いてろよ〜。多分、ジジイとかいるんだろうけど」

「ハハッ」


 言葉少なく、別れを告げて。


 霧散する光の粒子と共に───ニフラクトゥは、笑顔で昇天した。








꧁:✦✧✦:꧂








「───!」


 声が聴こえる。


 僕を呼ぶ声が。


 うるさくて、鬱陶しいけど……その声が、僕を心配していることぐらいは、わかる。


「お姉ちゃん!お姉さん!起きて!ねぇ、起きてッ!!」


 グラグラと肩を揺さぶられる振動に、寝惚けていた頭を無理矢理覚まさせて、瞼を開かせる。そこには、予想通り不安そうな顔をした……穂花ちゃんがいた。

 変身、溶けちゃったんだ。君も消耗酷かったもんね。

 石畳のあるデブリの上で目を覚ました僕は、頭を振って辺りを見回す。


「お姉さん!!」

「おっ、とと……そんな泣かない。全く、いつになっても子どものままだね…」

「ッ、二人だって、子どもだもん!」

「論破されちやったや」

「んね」


 隣で起きていたほーちゃんも、あと僕も、極度の疲労と魔力消費で、魔法少女の変身が解けちゃったけど……もう心配する必要もないだろう。

 視線を向けた先にある、横たわるニフラクトゥの死体。

 その傍で、「なに寝こけてるんですか!」と叱られてるレオードがいた。


「ヤホ」

「よォ、起きたか」

「まぁね……さて、終わったわけだけど。どう収拾つけて終わりにする?」

「んなの、決まってんだろ……フェリス、拡声器ねェか?銀河の端まで届くヤツ」

「無理ですよ…」


───その後、王域全体に伝わったレオードの終結宣言により、暗黒王域と夢星同盟、星喰いと魔法少女の戦いは、閉幕を迎えた。長いようで短いような、大きな戦争。

 僕たちの完全勝利。

 失ったモノはあるけれど、まだ、許容できるばかりの話だしね。


 戦後処理に関しては、レオードに全部投げたけど……


 先ず最初に彼がやったことは、帝都の再建……僕たちの戦闘で影も形も無くなった国の首都と、ほぼ同じ見た目の星を、遠方から星間飛行させて定着させた。

 どういうことって思ったけど……

 曰く、無くなるのは想定済みだったから、オルランドの設計図を元に第二のオルランドを建設していた、らしい。異星人の技術力ってよくわからん。

 でも、以前との相違として、魔城の代わりに獅子の頭が中央に浮かぶらしい。僕らの母艦となったズーマランドを改修して、船の機能は残したまま城として運用するとか。

 獅子頭を囲んで存在する都市、ね。

 なんかこう、すごい奇妙でファンタジックな光景だね。知らんけど。


 王域軍の兵士たちは全員彼の麾下に入り、新生した暗黒王域の兵として、そのまま。将校クラスも罰したりせず、軍属のまま迎え入れたみたい。

 理由としては、裁くのも必要かもしれないけど、そんなことやってると余所の銀河から侵略されるから。

 そうだね、兵力は使えなきゃ意味無いもんね……

 敗戦側の兵士たちも、次第にレオードという新たな王を受け入れた。勿論、反発してるヤツの方が多いんだけど、そこは彼の腕の見せ所だろう。

 半身不随だけどね。


「治んないの?」

「治んねェな。こればっかりは仕方ねェよ。魔法だって、万能じゃねェんだからな…」

「そっか。んまぁ、最悪タレスに義足作ってもらいなよ」

「いやいやいや!?その損傷具合だと、下半身作った方が速いんですが!?切除するでござる?」

「じゃあそれで」

「やめろバカ」


 玉座から動けない、側近の介抱無しでは逃げれない王。でも、まぁ。彼の部下は粒揃いだし、他の兵士と比べても練度が高いから……王の急死はないだろうね。

 四魔牙のフェリス、リュカリオン、コルボー、ムゴクの四人が、ちゃんとついてるし。

 身体を修復したタレスと、シャウラってAIもいるし。

 あぁ、そうだ。結局、カリプスたちはこっちに残って、新王政を手助けするみたい。ダビーとナシラも、心配性の主と頑張るとか。


「ったく、この書類なんだ?」

「なにもわからないのです!」

「おやつの時間」

「……はぁ、それはこっち、こっちは別の決議書ですよ。今までなにやってたんですか。そんなんだから私の負担がすごかったんですよ」

「すまん」


 嘆息の主は、リブラ───皇帝亡き後、将星の扱いには揉めに揉めたが……結局、新王政の幹部として、そのまま続投させた。

 文官のリブラ、将軍のエルナト、星教会との橋渡し役のスピカと、聖座のポリマ、環境大臣のメーデリア、って。

 一人を除き、ニフラクトゥが死んで鬱々してたけど……彼の遺言を聴いて立ち直ったらしい。なに、感謝の一言でオッケーなの?


「へいかぁ〜…」

「いい加減立ち直りましょう?そんなにへこたれてては、陛下に合わせる顔がないですよ」

「だからって、人のこと酷使し過ぎでは…」

「もう疲れた」


 ちなみに、僕への恨み辛みの視線はすごかった。ポリマだけだよ、陛下を喜ばせてくれてありがとう、とか言えた将星は。あの子だけ場違いじゃない?

 って感じで、王域は未来に進んだ。

 双子の死とかでエーテたちが凹んだりしたが、聞くに、あれは彼らの選択だ。他の将星たちや、うちの兵士たちの慰霊碑もちゃんと建てて、弔った。

 ……ニフラクトゥの遺体も、ちゃんと火葬したよ。

 新しい墓所の伴星に専用の区画を作ってね。先王は大事だもの。


 あと、セチェス王の件は……そっちも、レオードたちが上手くやってくれるらしい。将星とはいえ、一国の王相手だもんね。関係悪化にならないことを祈るよ。

 悪いのは全部画家だから。結局、あいつもよくわからん相手だったけど。

 

 で、だ。


「ホントに帰って来ないんですか…」

「うっ、はい……その、薄情者だとは思うんですけども。これからは、シェラタンに任せたい、なぁ、って。正直に言って、政とか苦手ですし……逃げます!」

「この枕ぁ!!」

「んめぇ!?」


 アリエスは僕たちについて行く。シェラタンは白羊宮の新たな管理者として、レオードの采配で強制配属された。がんばれ。その枕は僕が有効活用するから。

 泣きつく鹿を引き剥がし、列車の方へ。

 うん?あぁ、このまま帰るよ。長居する必要はないし、もう戦後から一週間経ったし……挨拶回りとかは、道中で済ませるしね。


 あっ、勿論ヴォービスも連れてく。当然だよね。いや、言わなくてもついてきてるんだけどさ。気付いたら背後にいるの最高にやめてほしい。

 斬られそうで怖い。


「レオード王、締めの一言を!」

「テメェ胆力あんなァ……んまぁ、平和路線だ。あんまり血ィ流し過ぎんのも、考えものだからな」

「な、なるほど!ではそのように……うー、書くことが!書くことが多いっ!あっ、魔法少女の皆さん!ちょ、まだ行かないでください!取材が!取材はまだ終わってな……ちょー!?」


 ミルキータイムズの新聞記者、ロキューの叫びが王宮に響いたけど、まぁ無視。ムーンラピスは華麗に去るのだ。取材なんてやってられるか。

 ハット・アクゥームもうんうんと頷いている。

 その隣で、フットマン、プリセット、コーカスドムスを抱き抱えたデミアも納得している。

 ……蘇った三銃士は、うちの幹部として再雇用だ。

 デミアに関しては、本人の意向で地球に行く。姉二人の反発はすごかったけど。もう決めたんだからと、テコでも動かないせいで折れてしまった。

 流石にその時は、ポリマの恨みの視線すごかったけど。

 ごめんって。変に懐かれちゃったもんだから……大事にするさ。


「よろしく頼むわ」

「うん」

「エェ〜?オレも行きてェんだが!?約束通りに戦ってもいねェんだぞ!?おいッ!」

「そっちの情勢が安定したらね。話はそれからだ」

「ぐっ…」


 戦闘狂は一旦封じて、と。


「またな」

「うん。今度また来るよ……そん時は、地球との交流会、みたいなのでも開こっか」

「調整しとくぜ」


 長い旅だったけど、まぁ楽しかった。いい経験だった。いいお土産話だってできた。総括して……十分、満足いく冒険だったんじゃないだろうか。

 地球も無事、平和を掴み取れたわけだし。

 新たな乗員も増えた夢奏列車に、みんなで乗り込んで、車窓から覗く景色に手を振る。ウルグラ隊とか、戦争の後僕らに師事してくれ!って言ってきた王域軍の血気盛んな連中とか、恨み100パーセント明日覚えてろよな目つきの女将星たちと、別れを告げて。

 僕たちを乗せた列車は、アリエスの導きで───夢幻を駆け抜ける。


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