356-炎の巨神兵
オオオオォォォォ───…
エルナトが操る溶岩の巨神。攻撃の全てが大きい溶岩の一撃は、当たればただでは済まない……などという次元を遥かに凌駕している。サイズ自体は惑星よりも小さいが、サイズ問題はそこまで重要視するものでもないぐらいには凄まじいエネルギーを秘めている、暴力の化身。
攻撃判定は凄まじく、拳一つで島国を燃焼できる。
見上げるしかない巨神は、星一つを犠牲にしたにしても恐ろしい熱量をもって、空中戦を仕掛ける魔法少女たちを見下ろして、攻撃を放つ。
繰り出されたのは溶岩の大拳。巨体に見合わぬ速度は、まさに隕石の如く。
「くぅっ!」
「そりゃ遅いわけがないわよねッ!」
「だ、だいじょーぶ!先輩よりは遅いもん!な、なんとかなれーっ!!」
猛スピードで打ち込まれた大拳に、エーテは旋回からの危機回避。魔力ブーストで速度を上げつつ、高速回転する赤黒い極太レーザーも掻い潜って……魔法を発動。
谷間に埋まるエルナトを狙い、巨神を破壊せんと。
夢想魔法の砲撃。
星霊魔法の刺突。
花天魔法の包容。
三つの属性の輝きが、エルナトと巨神に向けて、一斉に放たれる。
「無駄とは言わねェが……ククッ、徒労ってのを、ここで教えてやんよ!」
エルナトは避けない。
迫り来る魔法は巨神の左腕に遮られた。グツグツと嫌な音を立てる溶岩は、まず夢想の浄化消滅によって勢いよく吹き飛ばされる。そして星霊の貫通力でエルナトを襲い、腕に咲き乱れた花天が溶岩を豊穣な大地に変える。
だが、エルナトには魔法は当たらず。
星霊の魔法は、彼女に届く寸前で減衰、そして消滅。
夢想に穴を空けられ花園となった左腕は、即座に発火、グツグツと煮え立ち溶岩の塊に。
雷珠の特性は未だ健在。魔法は弱体化される上、損傷はすぐに回復される。
星のエネルギー全てを使った巨神。
惑星一つ分のエネルギーがどれだけのモノなのかなど、考えるまでもないだろう。
「厄介だなぁ!」
「ゴリ押すわよ!!」
「えっ、の、脳筋で勝てる!?あの人、あたし達より大分脳筋の人だよ!?」
「……頭使って、ゴリ押すのよ!!」
「変わってないぽふ!?」
「変わってるでしょ!?」
「おいおい、誰が脳筋だァ?オレより脳筋のヤツなんざ、この世に五万といるだろうがッ!ったくよォ、そいつらに失礼だぞ、魔法少女ォ!!」
「あんたが失礼!!」
エルナトはちゃんと脳を使って戦う戦士である。筋肉が十割十分占めているが。溶岩で象った拳を振るい続けて、魔法少女を殴り殺しにかかる……ぺちゃんこでは済まない末路を辿るだろうが。
殴殺よりは圧殺である。人身事故が可愛らしく見える。
何度も迫り来る轟音を、そして熱線を避けて、防いで、掻い潜って。
生き残る為に必死のエーテたちは、それでもと奮起して魔法を放つ。
「想いを、力に!」
───夢想魔法<ミラクルハート・カノン>
夢想が溶岩を消し飛ばす。
「悪・即・斬ッッ!!」
───星霊魔法<ステリアル・ブレードランナー>
星の斬撃が溶岩を切り刻む。
「花よ、咲けッ!」
───花天魔法<フェアリーアレジメント>
花の祝福が溶岩を花畑に。
最早、アクゥームなど敵では無い彼女たちが織り成す、魔法の乱舞。それだというのに、エーテたちはまだ、この強敵に勝てるビジョンが見えていない。
魔法自体は効いている。
効いているのに、それ以上の圧倒的なパワーで、全てが捩じ伏せられる。
エルナトは強い。若手でありながら、将星の中でも二位三位を争う実力者である。遠距離戦ではサジタリウスに、耐久力を除けばアルフェルに劣る彼女だが……全身を包む筋肉の鎧と、溶岩の如き灼熱の闘志。どんな相手だろうと立ち向かって、勝利を収める闘争心は勝っていた。
サジタリウスよりも、アルフェルよりも明確に遅い。
だが、それ以上の耐久力と、暴力と、闘争心で、不足を十全に補っている。
例え、今戦っている相手が、リリーライトのままだったとしても……きっと、過程にそこまでの変化はない。ほぼ同じことをやって、この巨神戦を繰り広げられる。
そう、どんな相手であろうと、自分が思い描くペースに持ち込む戦い方。
それがエルナトの強みの一つ。
将星一の凶暴性と、自分が満足するまで戦いを止めない乱暴な在り方。強者の自信も合わさって、エルナトという怪物を止められる者はいない。
いなかった。
「ハハッ、おいおい冗談だろ?ったく……どこまでオレの予想上回ってくれんだよ、テメェらは!!」
「どこまでも、かな!!」
巨神の速度に勝てるモノはいない。宇宙怪獣も異星人も悪夢の怪物も、容易く焼滅できるのがエルナトの巨神だ。そう易々と耐えれる存在は、早々いない。
正直に言おう。
もっと苦戦されるかと思っていた。魔法の優位性があるとはいえど、苦悶に満ちた顔で相対されるかと思っていたわけだが。
今、戦っている少女たちは……
勝気に笑って溶岩を跳ね除け、着々と己を狙っている。自分のような凶暴だと自覚のある笑みとは異なる、心から自分たちの勝利を信じきって、愚直に突き進んでいる。
負けない思いは、人一倍。
あと一歩、あと一歩。その一歩が、もう少しでこの首に届き得る。
必死に食いついて、突き放されずにいる戦士との戦い。格下との戦いなのに……それが、あまりにも楽しい。
魔法減衰効果も、防御力すらも突破せんと。
魔力切れの心配は、配信魔法による応援パワーで大凡が賄えるからだろう。一切の躊躇いなく、出し惜しみせず、魔法少女は突撃していく。時間をかけてでも、エルナトに魔法を届ける為に。
自分に勝つ為に覚醒してみせた、有言実行の戦士たち。その事実もまた、エルナトを楽しませる格別なスパイスとなっていた。
「ッ!」
そう高揚している間にも、コメットの星霊が頬を掠め、脳が警鐘を鳴らす。
現実を消せるユメ、目標に届く星、やさしい花の力。
何一つ油断できない。未だ、致命に至る攻撃はないが、その認識もいつまで続くことか。いつか覆される。それが今なのか、これからなのか。判別はつかないが……戦況がどう転ぶかは、彼女たち次第。
その頑張りを正面から潰して、絶望させて。もう二度と立ち上がれなくなったら。その時は、終わりを突き付けてやればいい。
燃える巨神の大振り、灼熱のレーザー……その全てを、間一髪で避けていく。掠めただけで一発で死ぬとわかっているからか、全員が必死の形相だ。
必死なのに、楽しそうだった。
「今ッ!」
いつの間にか五人に増えたエーテの夢杖から、ユメ色の魔法弾が巨神の背中に炸裂する。七つの宝珠、衛星とでも言えるサイズになっている熱線放射台を、夢想が破壊。
熱線を掻い潜った末の爆撃は、背中をズタズタに。
更にデイズが大輪の花々を咲かせて、四肢を花園に。
目立つ攻撃手段を失った巨神に、コメットによる星霊の特大砲撃が胴体を貫く。
青白い星光は、エルナトも内包する。
身体に響く痛みに、思わず顔を顰めるエルナトだが……まだ、まだまだ。その上、貫かれた溶岩も即座に再生し、元通り。
「効かねェなァ!?」
「痩せ我慢でしょ、それ!!」
「その溶岩、無くなるまで責め立ててあげるわ!デイズ、もっとやっちゃって!!」
「うん!わかった!」
「無駄だァ!」
巧みな連撃も通用しない。ダメージ自体は、ジワジワと蓄積しているが……エルナトの経験上、まだ弱い。毒素が感じ取れれば話は別だが、エルナトは強靭な肉体で毒をも無効化する力を持つ。
夢想の光でも削り取れない魔力の壁。
星霊の力でも貫き通せない鋼の肉体。
花天の恵でも包み切れない劫火の器。
エルナトの優位性は崩せず、戦闘は続行。そこで遂に、彼女は魔戦斧を振り翳す。
「だァが、何度でも立ち向かって来い!!そういうのは、嫌いじゃねェ!!」
ズッドォォォォォ───ンンッッ!!
魔戦斧が叩き付けられたのは、エルナトの足元。つまり巨神の胸に、魔戦斧の───<ネッカルハンマー>による大きな衝撃が打ち込まれる。
脈動を打つ溶岩に、大きな衝撃。
大噴火を起こす一撃により、巨神は大きく震え出し……身体のあちこちが、沸騰。グツグツと煮え立つ溶岩体は、大きくうねり、そして───噴火。
轟音を奏でて、巨神のあちこちから炎の間欠泉が噴き、魔法少女を焼く。
「うぅ!?」
「ッ、こんな、ものぉ!」
「あちち!?」
「……シールドで防ぎやがったか。よく溶けねェな?感心するぜ、まったく」
「ホントヤダ!」
高熱に晒されながらも、エーテたちは咄嗟の魔力障壁でなんとかカバー。そのまま歩みを止めず、飛行魔法による強制突破を敢行する。
噴火は止まらず、勢いを増して拳を繰り出す巨神。
熱線のスピードも上がりに上がって、紙一重を連発するのも一苦労。
「それでもッッ」
強大な敵を前にしても───決して諦めない。
無尽蔵な星のエネルギーをも乗り越えんと、各々自慢の魔法を煌めかせる。例え一歩ずつでも、確実にその勝利に手を届ける為に。
夢想で、星霊で、花天で。
溶岩という強力な自然現象と、暴力的な圧のある魔法に心血を注ぐ。
「達磨にしてあげるわッ!」
───星霊魔法<ステリアル・ブレードランナー>
先程のよりも強力な、想いを込めた斬撃。星の輝きを、幾重にも斬撃として放っていく。狙うは右腕。厄介な敵の利き腕を、溶岩で象られた巨神の腕を斬り刻む。
徹底的に、執拗に。妨害もなんのその。
胴体と繋がったままでは、星のエネルギーが流れ込んで復活されてしまう。だからこそ、溶岩の繋ぎ目を狙って、幾つもの斬撃を。
そこに仲間の意図を汲み取ったデイズが、溶岩を花園に変えてアシストすれば……
燃え盛る炎も、溶岩も、殺意も、コメットは全て等しく斬り刻む。
魔力を注いだ星の斬撃嵐は、ブルーコメットの奮闘に、熱意に応えて……
巨神の右腕は弾け飛ぶ。
切れ目が沸騰して、右腕の再生を試みるが……エーテの夢想が次々と吹き荒び、溶岩を吹き飛ばす。やがて巨神の魔法式は再生を諦めたようで……トドメはデイズの花天に彩られて、完全阻害。
「へぇ!」
「ハァ、ハァ……ここまでやって、漸く一本……ったく、割に合わないのよッ」
「強すぎだよねぇ。チェルちゃん来ないかな」
「……うーん、難しそう。なんかすごいことなってるし、多分無理じゃないかなぁ……てか、なんていうの?増援はシャバいだかなんか言ってなかった?お姉ちゃんのお陰でぶっちゃけ意味無いけど」
「それはそれ、これはこれよ!それに、ハイエナになったつもりはないわよ!ここで勝たなきゃ、先輩の顔に泥塗るようなもんじゃない!」
「アハハ!どっちにしろがんばんなきゃ、なーんにもできないってわけだ!」
「その通り!」
巨神は健在。
然れど、魔法少女の戦意は未だ絶えず───仲間からの期待も背負って、次々と、巨神に有効打を与えていく。
右腕の次は左腕。
腕が終われば下半身。背中の宝珠には、再生を見越した花天の包容で包み込んで……どうにか、無力化には成功。バンバンと熱線が放たれて内側から弾けそうになるが……その度に、それぞれの宝珠を包んだ花弁が何枚も重なって壁を作り続ける。
勿論その間、エルナトは見ているだけではなく。溶岩を駆使して魔法少女の妨害をしたり、魔戦斧からレーザーを放ったり、闘気で波状攻撃を放ったり、衝撃波を連発して空間を振動させたり、口からレーザーを放ったり。
だいぶ本人も楽しんでいたようだが……
抵抗虚しく、闘神は四肢を失った。牛角を生やす女神は宙に浮いたまま、ドロドロと溶岩を垂らして、魔法少女を傲慢に見下ろしている。
闘神は笑う。
暴牛は喜ぶ。
「ハハハッ!やるじゃねェか!!」
喝采を上げて、いつも以上に爛々と、目を輝かせて……魔法少女に、更なる絶望を叩き付けんと。
身体を埋める溶岩に、轟々と滾る魔力を染み込ませ。
発令。溢れ出る闘志が齎す、破壊に指向性を持たせて、解き放つ。
「ワクワクすんなァ……ククッ、これ以上長引かせんのもよくねェ、か?なァ、おい。オレの期待に応えてくれて、ありがとうな。そんじゃ、次。死んでくれるなよ?」
「───ぶち壊せ、闘神魔法ッ!<ウォーゴッドアーツ・グガンナ・ヒヤドゥーム>ッッッ!!」
「さァ、力を示せ!!」
巨神が傾く。
髪を象った溶岩が揺れる、頭部を垂直に。殺意の灯った魔牛の角を、魔法少女に突き付けて。
今は亡き尊父より受け継いだ、その力。
触れたモノ皆傷付ける───重突による突進破壊力を、巨神に宿して。
空間が悲鳴を上げ───人型の溶岩が、凄まじい速度で魔法少女に突っ込む。
「ッ、身体が動かない!?」
「なっ……それ、なら!真っ正面から、打ち砕くわよ!!私たちの底力ッ!見せてあげましょう!?」
「うがぁー!!がんばるぞーっ!!」
「うぅ……お、応援パワーを集めるのは、任せるぽふっ!みんな〜!!」
:がんばれっ!!
:がんばれーっ!!
:大丈夫、三人ならできる!
:ラピ様の魔法よりは弱いやろ!
:具体的には?
:えっ…
重突魔法による拘束力も継承されている。構えた瞬間、魔法少女たちはその場に固定される。
逃げることは叶わない。
許された選択肢は、防御か迎撃か───エーテたちは、迎撃を選んだ。幸いにも、3人の距離は近い。各々の杖を重ね合わせて魔力を同調させるのは、造作もない。
想いを束ね、希望を紡ぐ。
力強く、声を響かせて───闘神の突撃を、真っ向から受け止める。
「“願いの夢”!」
「“誓いの星”!」
「“祈りの花”!」
「「「───“想いを束ねて、あなたに届ける!”
夢色三重奏!<ホープ・ホープ・マギアトリコロール・カノン>ッッ!!」」」
満たされた人々の想い。穢れのない祈り、希望を一つに束ね上げて。
絶対に勝つという誓いを、ここに。
ユメ色の極光が、溶岩の巨神に放たれて───空間を、大きく揺らして衝突。
必ず轢き殺すという意思の具現と、魔法少女の渾身が、星空で拮抗する。
「ハァァァァァァァァ───ッ!!」
エーテたちの背を押すのは、想いの力。単純な武力では到底敵わずとも、人々の想いを受け止めて、背負う力は、負ける気がしない。
それさえあれば百人力。否、千人力。
ただ力が強いだけの相手なんかに───負けてなんて、いられない。
そんな熱意に呼応するかのように……ユメ色の極光が、巨神を押していく。
「!? ハッ、ハハッ!おいおい、マジかよ!テメェら、どんだけオレを楽しませてくれんだよ!?失望なんてする暇もねェじゃねェか!!おもしれェ!!」
「あァ、本当に……退屈しねェなァ、この世界!!」
豪快な笑い声を響かせて。
予想外の連続を、短命な生き物の足掻きをこれでもかと見せつけられて。エルナトは我慢できずに昂りながらも、巨神にテコ入れをせず、そのままを維持して。
笑って嗤って、魔法少女の輝きが、意思の力が、巨神を呑み込むのを見届ける。
「ッ、やった!」
少女たちの想いは届き、突き進み続ける巨神を、頭から光で包み込んで……ゆっくりと、巨神の勢いが弱まって、重突の効力が薄れていく。
ボロボロと、溶岩が崩れていく。
魔法少女の想いを束ねた必殺技に、漸く、巨神は原形を失っていく。荒れ狂っていた魔力は、浄化の力で緩やかに収まって、鎮静化。あれほど脅威だった巨神には、最早、抵抗する力は残っていない。
星の力は、消えていた。
───だが、喜ぶにはまだ早い。星の力は、全て一点に集中しているのだから。
浄化の光を、魔牛は踏み越えて。
「最っ高に滾るじゃねェかよ。なァ?」
俊足をもって、エーテたちの頭上を取ったエルナトが、魔戦斧を振り下ろす。魔法少女の必殺技で、身体の表面が一部焼け爛れているのにも関わらず、彼女は我関せず。
頭蓋をかち割れる程の、魔力を込めた一撃。
致命にも等しい一撃を、エーテは、否、エーテたちは、即座に杖を重ねて防ぐ。
「やっぱりきた!」
「来ないわけ、ないものねッ!」
「おっも……ッ、見え見え、なんだよね!絶対来るって、わかってれば!簡単に、防げるんだからっ!」
「ハハッ、痩せ我慢にしか見えねェぞ?気に入ったけど、なァッッ!!」
「はぁッ!」
来ると予測していた三人は、魔力強化で力押しの一撃を跳ね除ける。額に脂汗が伝うが、決してできないことではなかったことを、証明してみせた。
巨神はもういない。
飲み干した星のエネルギーの残量は、全て、エルナトに還元されているが……それが、魔法少女が負ける要素にはなりやしない。
空中で睨み合う両者。最初に挑発したのは、夢を背負う祝福の光。
「あなたは強いよ。私たちよりも、ずっと、ずーっと……でも、私たちは負けない!何処まで暴れられようたって、あなたに勝ち星はくれてあげない……この戦い、そろそろ終わりにするよ!!」
「えぇ!私たちの魔法で、ぶっ飛ばしてやるんだから!」
「なんか楽しんでくれてるとこ、悪いけど!あたしたちに負けちゃって!!」
啖呵を切って、杖を煌めかせて───望む勝利を、力で勝ち取らんと。
威勢のいい魔法少女に、エルナトは笑みを深めて……
「───できっといいなァ?」
挑発的に笑って、魔戦斧を振り上げて───魔法少女を迎え撃つ。




