355-七つの宝珠を巨神に捧ぐ
将星エルナト・アルデバランは先祖返りの子供である。牛頭ばかりのゴズメズ星人の中で、彼女だけが唯一人型の頭部を持って生まれた。
先祖の一人に、別種族と契りを交わした者がいたのだ。
他の同族とは一線を画すその在り方が、彼女の特異性を際立たせたのか。父と母、祖父母の力を受け継ぎ、一つに束ねた魔法を手に入れたのは、きっと偶然ではない。
エルナトは最強である。
古参の将星であった父親を、齢百歳の時点で大きく凌駕する実力を持っていた。二百歳となった今は、差はもっと大きく開いたが。
それでも、生まれた時から頭の上にある重りには、未だ慣れそうにはない。
生まれた時からいる怪物。彼女以上の怪物が、宙の国を支配している。
何度も退かそうとした。
何度もぶち壊そうと、父親に叱られる程挑んで、何度も敗北を喫した。どれだけ殺しても、死なない怪物の正しい殺し方。殺し尽くそうにも、その時には負けている。
イライラした。ムカムカした。
奸計大好き獅子王と共謀することもあったが……それで満足できる程、彼女の飢えは満ち足らず。やはり正面から打ち砕いてこそ、闘神の昂った殺意は潤うのだ。
殺し合いでこそ満たされる。
戦っている時が、一番生を実感できる。“星喰い”と殺ること自体、悪くはないのだが……我が物顔で頭の上にいることが気に食わない。気に食わないから、攻撃する。
殺意を緩めたことはない。闘志を尽かしたこともない。
いつの日か、あの頂点を蹴落とす───彼女にとって、魔法少女はその前座。
夢星同盟がエルナトを前座とし、ニフラクトゥを真打と置くのであれば。エルナトにとっては、夢星同盟、または魔法少女こそが前座であるのだ。
相手がどれだけの成長性を持っていようと。
自分の糧になる以外の未来を与えてやらない。絶対に、許してやらない。
「勝ちたいだァ?なら、もっと魅せてみろや!!」
───闘神魔法<ウォーゴッドアーツ・プレイアデス>
花園と火山が隣接し、お互いの陣地を削り合う戦場で、エルナトは己の背後に七つの球体を顕現させる。炎を纏う不定形の宝珠からは、グツグツと魔力が煮えている。
七つ星の灼熱球体は、エルナトの浮遊端末。
幾つかの機能を持たされた中遠距離端末であり、魔法の起点でもある。
「正面打破!」
「勝ち進むわよッ!」
「負けないっ!」
エーテ、コメット、デイズ。結束を更に強くした三人を常に意識しながら、エルナトは球体を操作。
魔法少女の力を避け、受け流し、突破しながら。
彼女にしては珍しい複雑な機構を持つ力を、七つ順番に行使する。
「興が乗んねェとやんねェ、特別仕様の小技だ。たーんと味わえ!!」
───《剛珠》
彼女の背中の上を旋回する球体の一つが、空中を伝って右手に移動する。
エルナトは、その球体を力強く握り締め。
すぐに手を開けば───金属光沢を持った鉄色の玉が、ふわりと浮上する。軽い膂力で圧縮された鉄球は、術者の思い描く軌道を追従する。
右手より、未だ火を灯している剛珠は射出。魔法少女を狙い穿つ。
「ッ!」
「親切心で教えてやんよ───避けても無駄だぜ?」
「うわっ!?」
「自動追尾ッ」
回避は間に合う。だが、剛珠はすぐに旋回して背後から追いかけてくる。またしても避けても、剛珠は同じことを繰り返す。それだけならば、ただのイタチごっこだが……
この剛珠、避ければ避けるほど速くなる。
時間をかければかける程、加速する。獲物を逃がさない気迫を感じさせる。
追尾する鉄球に夢想や星霊を当てようと、超圧縮された剛珠は表面が削れるか、内側からの爆発にも耐えるという耐久性を魔法少女に見せつける。
そして、エルナトは追加の宝珠を発動。
それぞれの形をもって、魔法少女を追い詰めんと。己の勝利に繋げる布石として放つ。
───《酔珠》
───《爆珠》
───《灰珠》
今度は圧縮せず、燃え滾る塊のまま操作。色の見分けがつかない球体が、剛珠の消滅を試みていたエーテに迫る。
エーテは殺気に反応して、即座に魔法を放つも……
意味はなく。
「っ、うっ!?」
最初に感じたのは、不自然な酩酊感。方向感覚の欠如、あまり慣れない状態異常でフラついたところを、背後から強襲を仕掛けた溶岩球体が爆破。更に剛珠が肉を貫かんと爆風の中に突っ込んだ。
……だが、エーテは耐えた。
状態異常で苦しい時でも、防御障壁を張れるようになる訓練によって……ギリギリ背後からの爆撃と鉄球攻撃から身を守ることができた。依然障壁を貫こうとする剛珠は、駆け寄ったコメットが蹴りを叩き込んで排除。
宝珠の猛攻はそれで終わりではない。
「エーテ、しっかり!」
「もう一個来てるよっ!」
「ッ、うぇっ……うぅ〜、それどころじゃないけど、私、頑張るっ…」
咳き込んだエーテの頭上には、もう一つの宝珠が静かに浮かんでおり。いつの間にか黒ずんでいたその宝珠から、パラパラと何かが落ちてくる。
灰色の粒子───火山灰が、降りかかる。
魔力を帯びた灰を、エーテは酔っ払いに近い状態のまま回避を選択。コメットの補助もあって、なんとか窮地から脱する。
その選択が正しかったのか……背後から爆撃した宝珠と反応して、火山灰は火種となって発火した。もし仮に防御障壁を展開していた場合、障壁の魔力と反応して引火……障壁ごと火達磨となり、蒸し焼きにされていただろう。
そんな最悪な未来に冷や汗をかくエーテの状態異常を、デイズの花が癒し、正常化。
……それで一安心とはいかない。
なにせ、宝珠は七つしかないが……決して、破壊できているわけではないのだから。
依然、放たれた四つの宝珠は宙を舞い、魔法少女の命を付け狙う。
「お酒が一番ヤバい!」
「最優先破壊、といいたいとこだけど……くっ!そりゃ、そう簡単にいかないわよね!!」
「あと三つもあるのー!?」
「こんな手ェ拱いてていいのかァ?あんま失望させんな、ガキンチョ共ッ!!」
「ッ!」
当然、宝珠を三つ保持したままのエルナトが乱入して、魔戦斧と劫火、宝珠といった、同時並行で警戒する必要ができた。先程の溶岩乱舞よりも危険度は低いが……それは相対的な見方でそう見えるだけ。
宝珠という小さな爆弾が相乗効果を起こし、更に危険な戦場を作り出している。
エルナトからの攻撃を必死に捌いて、宝珠の追尾からも逃れる。
宝珠自体の破壊は可能なようだが……壊されると同時にその場で再発生する復活の仕方を見せつけ、破壊が一時的なモノに過ぎないことを知らしめる。どうやら、空間中に魔力が満ちている限り、何度でも復活する魔法のようだ。
それ故に、宝珠を止めることは叶わない。
エルナトに魔法行使を止めさせるか、気絶させない限り止まらない。
「くぅっ!」
宝珠による連携、連鎖。
状態異常で身動きを取れなくし、灰を被らせ引火させ、最後は大爆発。そこに物理攻撃も加わり、エルナトによる直接攻撃も合わさって……大惨事。
更には残りの宝珠も効果を発揮して、エルナトの戦闘を支援する。
「《大珠》、《雷珠》───こいつらは、そうだなァ……タレスの野郎っぽく言えば、補助モジュールってヤツだ」
「ッ、デッカ…」
戦場を新たに横断するのは、超巨大熱球と紫電を帯びた溶岩球。この場にいる誰よりも大きな溶岩の塊は、障壁も魔法も何もかもを轢き潰して空中移動。雷珠はパチパチと周囲に紫電を飛ばしており、磁界構築により溶岩や瓦礫が浮かび始めた。
視界の大部分を占有し、避けるのも一苦労な大珠。
その大きさ故に回避が難しく、遠回りで球体を旋回したコメットが、避けた先にいた……異様なぐらいバチバチと音を鳴らす雷珠に気付かず、肉薄する。
瞬間───コメットの魔力が、迸る紫電に触れたことで霧散した。
「ッ!?なっ、ぁ!?」
飛行能力の喪失。
魔力操作の中断。
コスチュームの変身が解かれるよりも前に、自由落下で雷珠から逃れるコメット。突然魔力を練ることができなくなった彼女は、即座に紫電が魔力の攪拌作用を持っていることを看破しながら、紫電の効果範囲から逃げる。
まぁ、落下しているだけなのだが。
察したデイズが、落下地点に大きな向日葵を咲かせて、クッションに。
「あっぶな〜!?」
「ッ、ふぅ……ごめんなさい、助かったわ!みんな、あのバチバチ鳴ってるの、天魚って人のにそっくり!」
「うえっ、マジ!?」
「よくわかったなァ!便利そうだから、あのジジイの魔法特性パクってみたんだよ」
「意味わかんない!」
便利だからと模倣できるモノではない。紫電との接触で魔力操作が遮断される為か、距離を取ったコメットはもう魔法が使えるようになっている。なっているが、厄介にも程がある宝珠の数々に、エルナトに対処は更に高難度化。
鉄球、酒精、爆発、火山灰、巨大化、火山雷……
一個一個ならそこまでの脅威な宝珠もあるが……他のと組み合わせて使えば、危険度は跳ね上がる。複数の方向、死角から、魔法少女を狙って宝珠は乱舞を描く。
そこに溶岩の濁流と、エルナト自身の破壊力が合わさることで、エルナトの猛攻は止められないモノに。
この戦術は普段滅多に使わない。
使わずとも勝てるからだが……いざ使えば、対処すべき内容を増やすことで、相手に苦戦を強いらせる嫌がらせができる。
「時間稼ぎは好きじゃねェんだが……こいつは想像以上に魅せてくれた礼だ。たーんと味わえや。その間に、オレはちょーっとだけ休憩挟ませてもらうぜ?」
「やっぱそういう使い方だよね!?」
「休憩とか呑気にも程があるよ!ぜーったいにさせないんだから!!」
勿論、嘘も方便な虚偽だが。
休む気なんて更々ないエルナトは、魔法少女を煽るだけ煽って落下、溶岩に沈む。グツグツと煮え滾る溶岩へと、抵抗もなく沈んでいく姿は違和感しかないが……
何か企んでいるとすぐに察したコメットが、星霊による爆撃を溶岩に複数叩き込む。
エーテとデイズも彼女に追従しようとするが……
それよりも早く宝珠が襲来。背後から、正面から、左右から。複数の方向から魔法少女を翻弄せんと、あわよくば殺してやらんと襲いかかる。
宝珠の力を知ったエーテたちは、器用に避けながら頭を悩ませる。
「どうする!?」
「ッ、私の魔法で溶岩をぶち抜けば…」
「それっ、したい、のは!山々、だけど!!こいつらが!すっっっごい邪魔ッ!」
「わかる!!」
星霊魔法を使えば、溶岩に沈んだエルナトがその場から移動していない限り透過貫通攻撃できる。
だが、宝珠の乱舞がそれを許さない。
たった七つの物体が、魔法少女の連携を崩して、高速で飛来する。
「ハァ!」
「邪魔よッ!!」
「おりゃー!」
───夢想魔法<ハイドリーミー・パラージ>
───星霊魔法<マギアレーヴ・スターレイン>
───花天魔法<フェアリーアレジメント>
ユメの光弾が周囲にばら撒かれ、流星雨を彷彿とさせる星爆の雨が降り注ぎ、花々が宝珠の副次的効果を打ち消し無効化していく。あわよくば下方向に攻撃が届かないかと狙ってみるものの、大珠が防波堤となって防がれる。
打ち込まれたコマンドに従い、徹底的に妨害する宝珠。執拗な妨害に一同は反撃。豪速球で飛び回る剛珠を夢想で消し飛ばす。灰珠と雷珠と酔珠の状態異常は大きな天花で包み込む。そして大珠は爆珠を利用して誘爆。星霊による火砲で一掃する。
だが、宝珠はその場で再構築。
あわよくばと地上の溶岩湖にも攻撃するが……どうにも届いていない様子。
「くっ……そういえば、あと一個は!?」
エーテたちの目に映る宝珠は、たったの六つ。
七つ目の宝珠───《暴珠》は、今この時まで、ずっと魔力を漲らせていた。激しく明滅する光熱体には凄まじい魔力と熱量が込められている。溶岩湖の中央で、音もなく静かに浮かんでいた宝珠の存在に、宙に気を取られていたエーテたちは遅れて気付く。
発光する暴珠は臨界点を迎え、限界まで力を溜めた。
後は、放出するだけ───周囲に散らばっていた宝珠を集合させる。
魔法少女の警戒も他所に、六つの宝珠を侍らせた暴珠は溜め込んでいた力を、解き放つ。
暴珠の特大発光に伴い、他の六つも輝き始め。
全ての宝珠が、魔法少女に照準を定めて───凄まじい魔力が込められた紅き熱線、<メルガドンクエーサー>が射出された。
「ッ!?」
「回避ッッ!!」
「ひぃ〜!?」
防御は無意味。
大元の熱線を身をもって知っている三人は転がるように飛んで回避。岩盤を大きく抉る熱線。風穴が空いて向こう側の景色が見えることに冷や汗をかくエーテたちだが……
宝珠の躍動は止まらず。
散開したのをいいことに、宝珠たちは向きを変え、次の攻撃へ。
六つの宝珠から、赤黒いレーザーが複数放たれ、周辺を焼き尽くし、薙ぎ払う。超高威力の熱線が幾つも交差し、魔法少女の空中機動を阻害する。
被弾した場合、即死で済んだ方がまだマシな結末となることは明白な程の熱量が、三人を何度も掠める。
熱線は常に放出されている。宝珠自体がゆっくりと回転することで、レーザーもゆっくりと移動して、魔法少女を追い詰めていく。
……宝珠を破壊すればレーザーは止まるが、暴珠が常に障壁を張っている上、転移を発動して攻撃を避け始めて、一向に攻撃が届かない。
戦場となった溶岩湖を蹂躙する熱線は止まらない。
主であるエルナトが───ヴォルカモンスターの灯火を絶やしても。
ゴゴゴゴゴゴッ…
「ッ!?」
星が揺れる。
戦闘の余波とはまた違う、別の事象を起因とする星震。プレートではなく、星の最深部……マントルより更に下に埋まった内核、その更に内側で始まった、魔法の発動。
星の命を汲み取り、我がモノにする前代未聞の大犯罪。
然れど、彼女に罪の意識はなく、ただ、いつものように戦場を一新するだけの行為。戦いを楽しく、殲滅者の名に相応しい“破壊”を見せてやるだけ。
もうこの星は必要ない。
愛着のある溶鉱炉は全て自分のモノに。夢星との戦争で失われるのであれば、己の手で、先んじて壊して、全てを喰らって、飲み干してやる。
絶え間なく熱線が照射される空間の下、溶岩湖が大きく沸き上がる。
「───ハハハッ!!」
間欠泉のように溢れ出た溶岩。その量は思いの外多く、溶岩湖のマグマどころか、周囲のマグマさえも引っ張って地表に顔を出す。
炎星の中心から、外側へ。
星の熱を奪い、マグマを連れて彼女は帰還する。炎星の脱け殻とは、もうおさらばだと。
豪快に笑う。
「待たせたなァ、リリーエーテ!ブルーコメット!ハニーデイズ!!ここからは!正真正銘、オレ様の本気ってのを見せてやるよォ!!」
「エルナト…!」
現れたのは溶岩の巨人。
その谷間に、エルナトはいた。
牛の角が頭部に形成され、彼女の筋肉質な美しい肢体をそのまま溶岩化して再現したかのような、女の巨神が炎。噴いて顕現する。
ヴォルカモンスターの大地が呑み込まれ、彼女の一部となって再形成されていく。
同時に、七つの宝珠も溶岩と魔力を吸って巨大化。
エルナトの姿をした巨神の背に周り、レーザーを周囲に放射して星を削る。
───闘神魔法<ウォーゴッドアーツ・グガランナ>
自然豊かな星一つを犠牲に顕現する、エルナトの武器。水性惑星などでは使えないが、そこはどうでもいい。ただ純粋に、星を犠牲に敵を滅ぼす、破壊本能の化身。
エルナトの意思で動く、溶岩の巨神。
己を模した巨神の谷間に、両足を埋めた状態で、彼女は豪快に笑う。巨神顕現中は移動できないが、手元の魔戦斧一つで事足りる。エルナトは認めた。目の前の少女たちの在り方を。協力という形で、己に追い縋る戦士たちを。
認めたからには、それ相応の返礼をもって打ち勝たねばならない。
「さァ、楽しもうぜ」
単独で彼女は強い。
この状態でも、巨神こそがオマケ。この手札の選択は、ただ、己が持ち得る全てを使って勝ちたいから……もっともっと、この戦いを楽しみたいから。
出し惜しみはしない。我慢も、油断もしない。
巨神の完成に伴い、ヴォルカモンスターは完全に枯れ、崩れていく。その崩れた星屑ですら巨神に取り込まれて、彼女を強化する。
宙に逃げたエーテたちは、いつか見た水の巨神と比べてサイズは小さいながらも、それ以上の圧と力を感じさせる脅威に、畏怖を抱きながらも武器を構える。
決戦の舞台は宙の上へ。
ヴォルカモンスターだった巨神の熱に炙られながらも、少女たちは心を折らず。過去最大級の強敵を、自分たちの手で倒す為に。
「ッ、行こう!!」
「えぇ……吠え面かかせてやるわ!!」
「うん!さっさと勝って、チェルちゃんのお顔見に行くんだい!!」
煮え滾る闘争心の塊を打ち倒さんと、魔法少女は巨神に突っ込んだ。




