353-灼熱上戸の劫火
魔法少女の魔法は、心の成長に伴って進化する。
巧みな技術や力押しによって強化に繋がるのは定番で、異星人たちが使う魔法の多くは、そういった修練によって強化された魔法ばかり。
勿論、地球人である魔法少女たちの大半も、同じように魔法を育てているが……
極稀に、魔法は更なる境地に到達する。
通常形態の魔法では説明のつかない力を見せる、希望の結実。
リリーライトの光魔法。
マジカルステッキを通して光の魔力を生み出すと共に、周囲の光も集めて力に変える魔法。この時点で魔法自体は高火力高威力という破格の魔法なのだが……
そこに、人々の祈りを集めて、束ねて、一つにし。
絶対勝利を掲げることで、更なる強化を。光魔法よりも強力な、通常火力からして別物と言ってもいい力となった奇跡の形、光の大魔法。
勇者の覚醒───“極光魔法”。
ムーンラピスの月魔法。
夜の帳、星空の中心に浮かぶ清浄の月。太陽の輝きとはひと味違う輝きを、月の魔法として出力する。浄化の力が強い傾向にあり、その浄光は界隈でもトップクラス。
ただし、この魔法の持ち主は、殺意を求めた。
負の感情を爆発させて、魂にメスを入れたことで大きく逸脱した進化の過程。月を司る蒼き殺意は、浄化だなんて生易しい結果を求めない。
魔王の怨讐───“月魄魔法”。
リリーエーテの夢魔法。
人々の願いを力に変えて、悪夢に満ちた現実から絶望を取り除く、希望の力。持ち主だけではなく、祈り手である第三者がいることで真価を発揮する、夢の導き。
潜在的悪夢適合者という特異体質と、勇者と魔王という特異点のような魔法少女と長くいたことが影響したのか、その覚醒は思いの外早く。
彼女の根幹にある、悪夢への拒絶が形となり……
悪夢を浄化消滅するという力へ。持ち主の心の善良さで均衡を保っている、夢の魔法の新境地。調整することで、真に人類の希望となったユメ色の光。
聖女の祝福───“夢想魔法”。
夢覚醒ドリームスタイルの獲得と共に手に入れる前例が多いものの……覚醒したからといって、その力が手に入るわけでもなく。
一番の理由は、天性の素質。
覚醒に伴って魔法の力が呼応して、更なる段階へと発展できたから、今の彼女たちがある。その更に上の段階まで行き着いたのも、偏に、彼女たちの努力の証。
だが、それが全てではない。
覚醒と同時に結実せずとも───努力が実れば、きっと形になる。
「星魔法!」
「花魔法!」
彼女たちは追従する。
将星エルナトとの戦いを通して。きっと、魔法の覚醒が勝利の後押しとなると信じて、魔法の進化を、この戦場で結実させる。
ブルーコメットとハニーデイズは、それが可能であると心から信じている。
大事なのは、疑わない心。
今までは考えてもいなかった。星と花の魔法で、夢想に十分追い付けていたから。このまま突き詰めて行けばと、いつかは覚醒するだろうと無意識に思っていた。それでもいいと、ある種受け身になっていた。
だが、もう違う。
そうも言ってはいられない程の相手が、ここにいる。
ここで成らねば、ここにいる意味がないと声を張って、戦いに挑む。
「エーテ!」
「ん!なに!?」
「いいから聴いて───私たちも、並ぶわ。全力で、あの力自慢に勝ちに行くわよ」
「そうそう!応援してよね!」
「! おっけー!私からは頑張ってとしか言えないけど、大丈夫そ?」
「もち!」
闘神の昂りは凄まじい。
その戦意に呼応するかの如く、激しく鳴動し盛り上がる溶岩の濁流を掻き分けながら、コメットとデイズは先達に決意表明を見せる。
追いつくぞと、置いてけぼりにはされないぞと。
想いを込めて告げれば、エーテは勝気に笑ってその道を先導する。
「普通に戦ってればいい?」
「えぇ。イメージトレーニングはしてきたもの……後は、形にするだけよ。そうでしょ、デイズ」
「……あー、ぶっつけ本番って言ってもいい?」
「おバカ」
「阿呆」
閑話休題。
言葉を交わしながらも、少女たちは一歩たりとも歩みを止めていない。常に前進して、或いは左右に飛んで、敵の攻撃を捌いていく。
対峙するエルナトは今、溶岩を操っている。
生きているかのように動く溶岩は、躍動感をもって宙を踊っている。龍頭を象って、流動する怪物は魔法少女へと牙を剥く。
「……」
その間、エルナトは───あまりにも静かに、火の上で胡座をかいていた。
閉じられた瞼の裏には、何が映っているのか。
不気味なまでに静かなエルナトは、常に魔力を練り上げ続けている。
その意味がわからぬ程、エーテたちも馬鹿では無い。
「止めるよ!」
「えぇ!」
「おっけー!ぽふるん、魔力ちょうだい!」
「はいぽふー!」
:がんばれ!
:うわすっげ
:嵐の前の静けさ…
:もう嵐起きてるんよ
:科学が仕事してないよママぁ
:魔法ってそういうもん
:がんばえー!!
:オー!
魔力を節約する暇はない。
ありったけを込めて、焼き焦げた匂いのする火龍の牙に各々魔法を叩き込む。生憎花魔法の効きは悪いが、龍頭を吹き飛ばすことは可能。
魔杖の輝き、星杖の乱舞、花斧の剛力。
勝ってくれという応援も燃料に、魔法少女は溶岩という障害を切り拓く。
「エルナト!!」
真っ先に飛び込んだのは、コメット。自我を得た溶岩を薙ぎ払い、バカ正直に真正面から貫いて。
胡座を組んで瞑想するエルナトを睨みつける。
これは溜めだ。あのエルナトにしては珍しい……魔力の溜め動作。
つまりは、大技の引金。ただでさえ高火力である闘神のタメ技など食らっていいわけがない。
……コメットとてわかっている。
エルナト相手に妨害などできないことは。無理難題にも程があることは。それでも、やらなけばいけない。ここで挑戦しなければ……開かれる道も開かれない。
魔法の覚醒など、夢のまた夢だ。
「星魔法ッ───、ッ!」
先程のような火力は出せないが、牽制には十分な威力の星爆を放つが……
一切の容赦を捨てた魔法はエルナトに着弾したものの、効果はいまひとつ。顔面を爆破されたというのに、彼女はぴくりとも動かない。微動だにせず、集中して魔力を練り上げる姿には、さしものコメットも固唾を飲む。
依然、魔力は強く滾っている。
遅れて追いついたエーテとデイズも、不動のエルナトを重く受け止める。
「なら、これで!」
「一人でダメなら、三人で!でしょ!!」
「ッ、そうね。あの瞑想、邪魔してやるわよ!」
「うんっ!」
三人揃って一人前。そう提唱するエーテたちは、今度は力を合わせて妨害に走る。
杖を、槍を、斧を束ねて。
「“光り輝く、希望の星よ”!」
「“あまねく奇跡に、花束を添えて”!」
「“目一杯の、祝福を”!」
「「「───奇跡重奏<マギアブレーヴ・ハイドリーミーフィナーレ>ッ!!」」」
各々の魔力の波長を合わせて漸く完成する、夢光による浄化の必殺技。超至近距離から放たれた必殺は、まっすぐエルナトに浴びせられるが……
それでも彼女は、漸く眉間に皺を寄せるだけで。
逆に、魔法を放っている筈のエーテたちが押し返される事態となる。
「なァ!?」
「ッ、これ……退避!」
「んもーっ!!」
:かッッ
:流血注意が仕事しないんじゃが
:いいことジャマイカ
:↑よくねぇだろ
:↑宇宙人の回しもんか?
:吊るせ!
:吊るせ!
無理は禁物と、一同はエルナトから距離を取る。妨害は失敗に終わった……その次は、回避と迎撃。魔力を巡らせすぐに準備を整えようと行動するが……
タイミングが、少し遅かった。
活性化していた魔力が鳴動する。空気を軋ませる圧が、最高潮に達して。
「いくぜ?」
エルナトは、開眼───煮え滾る世界が、更に、煌々と燃える。
「ッ───!?」
最初に感じたのは、熱風。
星全体を吹き荒ぶ炎は爆風となり、エーテたちは爆風に吹き飛ばされないよう必死に踏ん張る。目が焼けないよう目元を腕で遮り、耐え忍ぶ。
エルナトを中心に、開放された圧力が吹き荒ぶ。
可視化した力の圧は過去以上。立ち上がったエルナトはニヤリと笑って、脚に力を入れる。
そのまま、彼女は天高く跳躍し───同時に、局所的な大噴火が起こる。
火山惑星のマグマが、全てその場に集まったかのような大爆発。エルナトは暴力的な魔力でマントルを刺激して、魔力で侵して乗っ取って、支配した。
大地に切れ目が走り、溶岩が天高く昇る。
まるで生きているかのように、溶岩の濁流が魔法少女に押し寄せる。
「ハハッ!」
火山雷が轟く中、跳躍したエルナトは魔法少女の元へと強襲を仕掛ける。
魔戦斧の振り下ろしを、エーテたちは跳んで回避。
避けることは簡単だったが……魔戦斧が地面に激突したその瞬間、大地が隆起。圧がかかった地面から、マグマが追加で溢れ出る。大地は真っ赤。既に足の踏み場はなく、エルナト以外は立ち入れない地獄と化した。空中以外には逃げ場がなく、三人は否応にも浮かばざるを得ない。
……更なる問題が、一つ。
「ッ、この溶岩…」
「なんか変よね?魔力反応がすごいわ」
「うーん……毒ってる?」
「半分正解だぜッ!」
「!?」
溶岩の見た目は変わらない。
エルナトの闘神魔法に刺激された星の核は、地下部分の岩盤をドロドロに溶かし、溶岩を追加生成しては地上部へ噴き上げていく。
そして、この溶岩にはとある特性が付与された。
魔力を帯びた溶岩に、エーテたちの脳は警鐘を鳴らす。わかりきった危険である灼熱を、もっとヤバいと強く強く勧告する。
「魔力汚染って言葉が一番近ぇんだろうが……こいつらに触れた途端、テメェらの魔力は燃える。引火して、即座に焼死体になっちまうのさ。勿論、オレは例外だぜ?」
「ッ、なにそれ!?」
「───<ウォーゴッドアーツ・アイン・アマテール>。岩漿干渉による変熱機構。マグマの性質を、思うがままに変質させる。忘れてんのか?フィールド形成はオレの得意分野なんだぞ?」
「ッ」
魔力ある全てを燃やす、触れれば発火、あっという間に焦熱地獄を作り出す。魔力を優先的に燃やす性質により、魔力障壁は即座に燃え尽き、魔法は焼かれ、身体強化すら意味を成さない。
更には、オーラとして立ち昇らせた時や、体外に魔力を発した、その時。
空気接触で魔力は燃やされ、肉体に引火。
魔法少女であろうと、何も出来ずに火達磨になって死ぬ未来が待っている。あまりの危険地帯にぽふるんが叫び、危ないからとエーテの手でポケットに捩じ込まれた。
魔力伝いに全てが燃える、決戦フィールド。
魔法使いにとってそれがどれだけの地獄になるのかは、語るまでもないだろう。
「さァ、生き残ってみろ───闘神魔法!<ウォーゴッドアーツ・ネッカルハンマー>!!」
「散開ッ!!」
「ん!」
熱線が吹き荒ぶ。溶岩が舞い踊る。そして、大跳躍したエルナトが直接魔法少女に攻撃を仕掛ける。
器用に躱したエーテは、魔法を連打。
意思を持っているかのように近寄ってくる溶岩を幾らか消し飛ばそうとするが……
それよりも早く、夢想が燃える。魔法だから、抵抗なく燃え尽きる。
「ッ!?」
「諦めてみるか?」
「バカ言うんじゃ、ないわよッ!」
「あのさぁ!諦める、とか!」
「私たちから、一番!縁が遠い、言葉なんだから!!ナメないでよねっ!!」
「そうかよ!」
エーテたちに残されたフィールドは極僅か。この戦場に残ることを選ぶのであれば、注意しなければならない……空に逃げようとも、魔力は燃える。
時間をかければかける程、延焼する確率は上がる。
逃げ場はない。生き残る為には、短期決戦でエルナトを仕留めるか、溶岩を止めるかしなければ、明日を思い描くことすらできやしない。
戦って、抗って、生き残る。
諦めを知らないエーテたちは、空中で溶岩と魔法攻撃を避けながら戦う。
それでも、ジワジワと炎は這いよる。
流動する大地に逃げ場はなく。星空は火山雲に覆われ、物理法則を無視した溶岩が赤熱したまま宙に浮かび、火種となる魔力を目印に魔法少女を追いかける。
魔法による破壊は、破壊するよりも速く燃え尽きる。
近付くのもダメ、防ぐのもダメ。逃げる以外の生存法は用意されていない。
「オラァッ!!」
「っ、くっ───!」
「無駄だ、墜ちろッ!!」
「がっ!?」
そして───容赦のないエルナトが、迎撃を選ぶ彗星に拳を叩き込む。
回避と防御は間に合わず、直撃。
腹部への強打にコメットは血反吐を吐き、衝撃に逆らうこともできずに吹き飛ぶ。落ちる先には───口を開けた龍頭の溶岩が。
「危ないっ!」
「ごほっ……ごめんなさい」
「だいじょーぶ!庇いあってこそ、でしょ!」
「ふふっ、そうね」
「ちょっとー!?和んでる暇なんてないんだけどーっ!?こっちも助けて!?」
「ありゃ!?」
一番近くにいたデイズが飛び込み、コメットを受け止めカバーする。危機一髪、あと数センチで引火するところを必死に飛んで、龍頭の噛みつきを回避。
咳き込んだコメットの背中を摩り、更に飛翔。
追撃を図るエルナトにエーテが反撃。溶岩がダメでも、エルナトには通じる。夢想魔法の浄化消滅は、彼女ならば耐えられるのだから……情けなど捨てて、本気で勝つ為に挑んでいく。
「ハハハ!おいおい、そんなもんか!?失望させんじゃあねェぞ、ガキンチョ共ォ!!」
「ナメんなって、言ってるでしょ!!」
ノリに乗っているエルナトと切り結びながら、エーテはこの状況をどう乗り越えようか思考する。
姉ならば聖剣での正面突破を。
もう一人の姉ならば、多彩な手段から構築された手札で切り抜けるだろう。
ならば、自分たちは───やはり、協力して、形にする以外にない。
「エーテちゃん!」
「なぁに、デイズ!!」
「───あたし、イメージできたよ!この状況をなんとかできるって、約束できる!!」
「!」
彼女の期待に応えるように。
花斧を杖の形に戻したデイズが、沸騰しそうになる頭に無理を言って脳みそをフル稼働させながら、自分の理想を現実に変えんと奮闘する。
魔法はイメージから。イマジネーションを形にする。
その行動力が、魔法を覚醒に至らせる───もう一人の魔法少女も、彼女の勢いに追従する。
デイズの肩を、コメットが掴んで……好戦的な笑みで、エルナトを睨みつける。
「なら、2人で行くわよ!」
「うん!」
「……お?なんだ、なんか見せてくれるのか?期待してもいいんだな?」
「もち!」
力はある。
想いも十分に。
鍛錬を繰り返し、従来の魔法少女よりも何倍もの修練を積み重ねた、新世代の結実。
奇跡を起こす、星と花───今、ここに。宙を舞台に、新たな伝説が紡がれる。




