352-覚醒への旅程
エルナト戦です
溶岩地帯での死闘。
フィールド自体が特殊であり、慣れない暑さには誰もが根を上げ、あっさりと戦いを放棄したくなるような戦場。岩と岩がぶつかる轟音、溶岩が煮え滾る音……普段の生活では決して聞かない音の不協和音が、否応にも耳に響く。
噴火は止まらず、大地の隆起は常に起こる。
赫灼と輝く大地の活性化は、火山惑星の日常だからか、それとも魔法による影響なのか。どちらも言える暑苦しい状況下、生きているかのように空中で暴れる溶岩の数々を掻い潜りながら、少女たちは血気盛んに挑む。
黒灼炎星ヴォルカモンスター。
黒極恒星の伴星を舞台に、新世代に括られた少女たちが魔法を放つ。
「夢想魔法!」
「星魔法───ッ!」
「花魔法っ」
リリーエーテ、ブルーコメット、ハニーデイズによる、将星掃討戦、第二回戦。魔法少女二世でもある彼女たちが相対するのは、同じく将星二世。
ケバルライ殲滅部隊の長、エルナト。
かつて彼女たちを下した“魔壊暴牛”との、未来を賭けたリベンジマッチ。
「ハハッ!悪かァねェが、まだ温ぃぞ!もっと上げてけ、ガキンチョ共!!」
「言われなくたって!」
「ハァッ!!」
大戦斧が大地をかち割り、溶岩が血潮のように噴出し、少女たちの頬を掠める。火傷する以外にない接触だが……魔法少女の基本装備である障壁が、溶岩から肌を守る。
凄まじい熱波が体力を奪い、気力を蹴散らす。
だが、それでも。決して暑さにも負けない奮励の心が、エーテたちの足を動かす。
エルナトの頑丈さは健在。そう易々と傷ついてくれやしない。コメットの星槍とデイズの花斧をフルパワーで打ちつけることで、漸く切り傷ができる程度。その切り傷も、金属板を引っ掻いたら白い線ができた、程度のモノだが。
とはいえ、外皮は硬くとも体内に衝撃は響く。
それを利用して、いつもよりも魔力を注いだ物理で同時攻撃を仕掛ける。無論、衝撃だけで終わらせる気はない。外皮が硬いのならば、その防御を貫けるまで、自分たちの技を高めるまで。
「硬いのが何よ!」
「力で負けてても!想いの強さで、私たちに勝てる人は、いないんだからっ!!」
「絶対に、勝つんだもん!!」
「吼えるじゃねェか!なら、やってみせろ!このオレに、敗北を!!認めさせてみせろ!!」
「ッ!」
熱風は爆風に。
戦意は闘気に。
ただ純粋に戦いたいという戦士の欲求を、最大限にまで高めに高めて、ぶつけ合う。
エルナトの技は重く、速く、少し掠めただけで遠くまで吹き飛ばされかねない威力を持つ。防御障壁は呆気なく、意味を成さない程には強い。回避か迎撃の二つの選択を、その時その時に合わせて正しく選ばなければ命がない。
少しでもミスをすれば、敗北は必至だ。
即座に応戦できれば問題ないが、誰もが可能としているわけではない。
「オラァッ!!」
「ッ、ぐぅっ───まだ、まだぁ!」
「おっ!耐えんじゃねェか!ちゃんと成長してんなァ……だが、そんだけだァ!」
「ッ!なら!」
回避は間に合った。
だが、回避の最中に拳を差し込んだエルナトによって、デイズが溶岩が滴る岩壁に激突する。かつての彼女ならばここで気絶していただろうが……今のデイズは、度重なる訓練による強化、そして親友の死と復活という下がったり上がったりと激しく動いたコンディションの上昇により、そう易々と屈さぬ魔法少女となっている。
気合いの入っている彼女は、必ず立ち上がる。
花斧を振り上げながら巨大化させて、巨大質量をもってエルナトに振り下ろす。
「たぁっ!」
「ククッ、まだ軽ぃぜ!」
「あーっ!?やめてよそんな軽々!」
「本当に力持ちね!」
「うぅ〜、もう!いーもんだ!もっともっと重くしちゃ、あ、それだとあたしが無理かも」
「バカ!」
片腕で受け止められては世話がない。怒鳴って、口ではふざけながらも、冷静に。
これがダメなら次の手を、行けそうなら継続を。
常に思考を回し、決して致命打を浴びないように細心の注意を払って戦場を踊る。
「夢想魔法!<ハイドリーム・パラージ>!!」
魔戦斧の斧腹を足場に跳躍したデイズと代わるように、エーテのユメ色の弾幕がエルナトに殺到する。一つ一つが並のアクゥームなら素早く浄化できる必殺の光弾に、目を煌めかせたエルナトは真正面から対峙。
闘神魔法に複合された突破力で、弾幕に向けて突進。
大地を蹴り割りながら突き進むエルナトに、ユメの光は当たった傍から弾けていく。数打ちゃ当たる、そんな技に意味などないと思い知らせるかのように。父親譲りの破壊を伴う突進で、エーテとの距離を縮めて……速度にものを言わせて、魔戦斧を横に振るう。
正確にエーテの腹目掛けて。
「ッ!」
「……あ?」
胴体が両断される。魔戦斧の横薙ぎはエーテを呆気なく真っ二つにした。苦悶の表情を、そして、絶望を浮かべる魔法少女……だが、エルナトは違和感を抱く。
魔戦斧は確かに彼女を切り裂いた。
切り裂いたが……どうにも、リリーエーテの苦しむ姿が嘘臭い。そもそもの話……斬った感触が、ない。
まるで、霞でも斬ったかのような。
その違和感の正体に気付いた瞬間、エルナトは背後から強襲を食らう。
「っぅ!やっぱ硬いッ!」
敵の背に魔杖を突き刺し、超至近距離からの魔力爆発を引き起こしたのは、もう一人のリリーエーテ。
気配を消していた、五体満足の本物である彼女に。
衝撃に大きく仰け反りながら見たエルナトの視界には、魔力粒子となって消えていくエーテの偽物……ユメの力で具現化した分身が、消滅する光景が映る。
その小細工に、エルナトは嗤う。
「頭使ってきたなァ、騙されたぜ!あぁ、それと。今のはちゃーんと、痛かったぜ?」
「なら、痛いですって顔ぐらいしてよ!」
「知らねェな」
衝撃を浴びた背中をゴキゴキと鳴らす怪物に、エーテは冷や汗を流しながら魔法を発動。
再度、自分の分身を量産───今度は、四人。
本物を含め五人のエーテが、魔杖を構えて一斉に攻撃を放つ。
「<ハッピーウェーブ>!」
「<ハイドリーム・パラージ>!」
「<マジカル・ドリームライト>ッ!!」
「<ミラクルハート・カノン>!!」
「<ドリーミーストライク>!」
五種類の光弾、或いは光線が複数の方向からエルナトに襲いかかる。無論ただ放つだけではなく、技を放ちながら五人のエーテは移動して、より広範囲に攻撃を散らす。
攻撃というよりも、目眩し。
エーテの思惑を察したエルナトは、魔戦斧で複数の光を切り裂きながら……己を見下ろす真上の輝きに、来いよと笑みを見せる。
「来いよ」
頭上より、星槍に魔力を溜めていた───コメットに、挑戦状を叩きつける。
「いい顔しちゃって……その余裕、私が打ち砕く!!」
頬を引くつかせたコメットは、湧き上がる怒りも魔法のパワーに変換。コメント欄で視聴している地球人たちから送られた祈りを中心に、魔法を構成し……
自分よりも少し高く飛び上がった、デイズに合図。
「デイズ!」
「おっけー!行っくよ〜っ、せいっ!!」
「ハァッ!!」
デイズに花斧を大きく振り下ろさせ、それ。魔力障壁で受け止めて推進力に変換。
自由落下に加速をつけて、星槍を構えて。
夢想の飽和攻撃の対処を笑顔で熟すエルナトの、期待に応える。
「星魔法───<シバシュルーブ・インパクト>!!」
加速を乗せた惑星破壊級の星撃を、槍の刺突に合わせてエルナトに放つ。
その輝きの強さは、エルナトの期待以上。
これはあるか?とほくそ笑みながら、魔戦斧を構えて、魔法で迎え撃つ。
「見せてくれるじゃぁねェかッ!<ウォーゴッドアーツ・メルガドンクエーサー>!!」
「ッ、真っ向勝負!望むところよ!!」
紅き熱線を打ち上げて、星爆の輝きと衝突させる。溜めなど必要はないと言わんばかりに、闘神の火砲は星の光と拮抗するのではなく……僅かに押し返す。
改めてその凄まじさを実感しながら、コメットは対抗。
徐々に押し返される星槍に更に力を込めて、込めて……声を大きく、咆哮を轟かせる。
負けてたまるかと、不屈の闘志を力に。
エルナトに勝つという強い意思表示が、コメットの背を力強く押していく。
「ハァァァァァァァァァ───ッ!!」
:がんばれ!
:いけーっ!!
:目にもの見せてやれ!
:やっちゃえコメットー!
:やれー!
人々の更なる祈りも力に加えて、心の中で感謝しながら怒声を上げる。
「がんばれコメット!」
「あたしの魔力、受け取って!」
「やっちゃえぽふ〜!!」
仲間たちの応援も、合わさって……彼女たちの想いに、応えるかのように。
星爆の輝きは、火砲を押し返す……のではなく。熱線を真ん中からかち割るように、貫通する。
熱線の中を通って、魔戦斧を構えるエルナトの元へ。
コメットの身体ごと熱線を潜り抜けて……想いを束ねた刺突を、届ける。
「なっ!?」
「ぶち抜けェッ!!」
「ッ、ハハッ!」
全身全霊、会心の一撃。エルナトの魔戦斧を掠め、紅い闘気に守られた、その額へ。
星爆が、炸裂する。
「───ッ!?」
その衝突は、溶岩惑星を大きく揺らす。凄まじい轟音が魔法少女たちの視界を揺らし、空間をも振動させる。その威力の高さは保証するまでもなく、申し分もない一撃。
捨て身の刺突を放ったコメットは、自分の魔法と熱線を掻い潜った代償で重度の火傷を負ったが、そこはデイズの花の回復魔法で即座に治療。
振動でまだ揺れる頭を抑えながら、熱い岩肌に着地。
エルナトがいた地点は大きく抉れて凹んでおり、宙まで爆煙が噴き上がる。
肩で息をするエーテとコメット、2人の肩に触れて花の魔力を送るデイズは、警戒を緩めない。
予想するまでもない。
それでも、もしかすればと大きな期待を込めて、爆煙を睨みつけて……
怪物の笑い声を、耳にする。
「───クハッ、ハハハッ!ハハハハハッ!!」
豪快に。
喜悦に満ちた猛々しい笑い声が、静寂が過ぎった戦場に大きく響き渡る。
グラグラと、空間が揺れる。
轟々と昂る熱波が、溶岩惑星の温度を更に上げ、世界を炎上させる。
「いいねいいねェ!今のはキツかった!ハハッ、こんなに昂らせやがって……本当に、魔法少女ってのは……いや、オマエらは本当におもしれぇなァ!」
「オラ、見ろよ!血だぜ、お望みのなァ!」
爆煙を吹き飛ばして、エルナトは魔法少女に姿を晒す。笑って額を指差す彼女は、それはもう楽しそうに、豪快に笑みを溢す。
コメットの一撃は、彼女の硬い防御を貫いた。
その結果は───眉間の皮膚に穴を開け、血管を破り、流血させることに成功した。
額から流れる鮮血を、エルナトはぺろりと舐める。
見た目だけでは、大したダメージが入っていないように思えるが……今の彼女は、グラグラと脳味噌が揺れる嫌な感覚に苛まれている。脳震盪。刺突と爆撃は、エルナトに確かなダメージを与えた。
その事実が、あまりにもおかしくて、笑ってしまう。
楽しくて楽しくて、堪らない。傷つけられただけでも、気分が高揚してしまう。
……だが、その結果に魔法少女は喜べない。
「これだけやってこれ、かぁ…」
「えぇ。あまり喜ばしくはないけど……でも、これで漸くスタートラインってところかしら」
「んー、頑張り甲斐がありますなぁ〜」
攻防共に高水準。
もっと深くまで攻撃を刺すには、基本が高火力の極光を遥かに上回るような……できても抵触するぐらいには強い魔法を使わなければ、その天上に届かない。
コメットの言う通り、これがスタートライン。
ここからがエーテたちの頑張り所であり、これ以上ない努力の成果を見せる所。
「だ、大丈夫ぽふ!みんなの力なら、勝てない相手なんていないぽふ!」
「ふふっ、そうだね!」
「えぇ、そうよ。私たちに勝てない敵なんていないわ……どんな困難だって、乗り越えてみせる!!」
「笑ってられるのも今のうち、ってね!」
「相変わらず威勢だけはイイよなぁ……嫌いじゃねェぜ、そういうのは!!」
心を奮い立たせる。
このままではダメなら、更なる躍動をもって、正面から打破するのみ。
熱で血を蒸発させながら歩み寄るエルナトに、エーテは魔杖を力強く握って、同じく足を進める。
正面から睨み合う二人の、オーラが激突する。
絶対に負けない、勝ってやるという意思の表れである、ユメ色のオーラ。オマエたちを食らってやると、この場の誰よりも強い真紅のオーラ。どちらも相手を倒さんとする力の圧が、空気を熱して荒ぶらせる。
突然始まったオーラの押し合い。
そこに青色と黄色の魔力も加わって、ジリジリと空間を削っていく。
「デイズ」
「なぁに、コメちゃん」
「やるわよ、ここで」
「……そうだね!いい加減並び立たないと、力になれないもんね!」
そして、二人。
ブルーコメットとハニーデイズは、人知れず決起する。自分たちの前に立つエーテを見て。小さな背中に、大きな希望を背負っている彼女を、独りにしない為に。
光魔法には、極光。
月魔法には、月魄。
夢魔法には、夢想。
今を生きる自分たちも、その領域に立てるように───この戦いで、二人は。
魔法を進化させる。




